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あの日……

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【起きてー。起きてなのヨ~ンっ! 伝言があるのヨンっ! ぅおぉ~きぃ~るぅ~のぉ~ぅヨォ~ンっ! ヨーン……よーん……】

 朝っぱらから脳内で騒ぐなっ、マジ煩いからっ! ったく、ヨンヨンヨンヨンって煩いなぁ……。誰だよ──ってかその語尾はあー、ユウ・ゲンか……。ルカに何かあったのかも思って気持ちを入れ替えて耳を傾けたらヒイロがヒャッハーしたいと言っているのだそうだ。あー、確かに最近はなにもしてなかったな……と思ったが、城に居るときは持ち歩いて戦うことを一切してなかったのでオーク来襲の時に我慢と言う枷が無くなってしまったのかもしれない。というよりも我慢させ過ぎたのだろうか……。とりあえず「わかった」と答えて着替えをすると軽く伸びをした。

「んーっ! ……はぁ……。さてと? とりあえず今日の予定とそれ以降を確認しとくか……」

 部屋を出て皆がいるだろうサロンへ足を進めると途中で愛流に出会った。てか珍しい髪型してんなぁ~……。ハーフアップのツインテールかよ……。なんつーか、女のアイドルグループに1人はいそうな髪型じゃね?

「あら、ヤト! おはよう。ねぇ、変なとこない? 大丈夫? この髪型なら私、可愛く見える?」
「……なぁ、愛流。お前、ちょっとがっつきすぎじゃねぇか?」

 そう忠告するとギッと千年の恋も冷めるような顔で睨まれた。なんで親の敵みたいに睨むんだよ……。邪魔はしねぇけど、正直お前が母親ってのも嫌なんだよ!そんなことをグッと抑えて他愛ない話をしつつサロンへと向かった。髪の色を変えただけでまさか愛流の好みドンピシャとはなぁ……。

 あの日──。


   ◆


「ルーちゃん……。……はぁ、行っちゃったわね~……。もう見えないわ……。てか、久しぶりに会えて嬉しかったのにこんなにも早く離れ離れになるとは思ってもみなかったわ、私……」
「そんなことよりも愛流。お前、さっきまで腐った目をしてたけどなに考えてた?」
「えっ! ……な、なにもべ、別に嫌らしい目で見てたとかじゃないわよ?……」

 ゴニョゴニョとごまかし始めたのを見て、俺は直ぐ様悟った。

 あ、コイツ……。馬に2人乗りしてポンチョで中が見えないのを良いことにゼツさんがルーにセクハラもしくは行為の及ぶまでを妄想したと──。確かにルーの体は小さいからポンチョにの中に入ったら顔以外はどうなってるのかわからなかったけども──。でもさ? でもそれにしたってだよ? 孟宗竹の林を広げてる場合でもないし、なによりも言いたいのはしばらく会わないうちにお前、本当に見境なくなったな……と伝えたい。でもそうは思ったが、ちょっと面倒だしそれは止めて旅の出発の確認をすることにした。俺と愛流はガルシア領にて餌を待つため出発をするのだ。ジェラールが移動の際に連れてきた騎士と、王都では最強とうたわれた魔法師団長も連れていくそうだから安心といえば安心か……。

 そして何はともあれ出発はしたのだが、何て言うか気まずい──。

 俺の目の前と言うか、隣に母? 親が座っている。向かい合わせにしようと思ったら先に入った彼がポンポンと隣に座れと無言で叩いていた。馬車の中は二人きり。愛流はジェラールが師団長と一緒は勘弁してくださいと俺に泣きついてきたところ、愛流が嬉々として一緒に乗ってあげる~と乗り込んだ。きっと今ごろ根掘り葉掘り聞いているに違いない。ジェラール、何て言うか……。すまん──。

「ナイト……。いや、ヤトだったかな? 見ないうちに本当に立派になったねぇ~……」

 女であれば慈愛に満ちたと言うべき笑みで頭をそっと撫でられた。てか、今のこの状況はマジでなんなんだろうか……。

「あー、えーっと……。うん、父様も元気そうで何よりだよ」

 と言うと彼はクスクスと綺麗に笑いながら「私は母だよ?」と言った。なんと言うか、あの部屋で数人の騎士が床に沈み、尚且つそのうちの一人である騎士の頭を踏んでなければ呼ぶのは母でも良かったんだけど、圧倒的な強さを見せつけられてはやっぱりこの人は男だと思って母と呼ぶのはどう考えたって失礼だと思うんだ。さすがに腹と言うか尻? を痛めて産んでくれたのは感謝だけども──。

「いいの。俺が父様と呼ぶのは勝手でしょ?」
「いや、でもランドルフ伯爵……というか、私を父と呼んだらハイネ様に悪いじゃないか……」
「ランドルフ伯? あぁ、大丈夫だよ。パパさんって呼んでるから。因みにさっきの屋敷に残ってくれたのは少し前にも言ったけど前世の父さんだから、俺にはもう父様って単語しかないんだけど……」

 一応、クソゲス王は父上と呼ぶしかないからね……。数回だけ口にしたことがあるってだけで、別に思い入れなんかない。でもこの人にアレと一緒の言葉は使いたくないと思っただけ……。

「あ、りがとう……」
「えーっ! ちょ、父様なんで泣いてるの!」

 薄手のハンドタオルでそっと涙を拭うと父様にかわったチーフだねと言われてフリーズしたのは仕方ない……。だって、ちゃんとしたタオルってこの世界にないんだよ──。

 それから休憩まで色んな話をして父から話を色々と聞く度にクソゲスに殺意が涌く。ルーがいなくて本気でよかったとさえ思う。そして休憩の時にジェラールにワーワーと愛流が師団長にどんなところが好きなのか? とか、好きになった瞬間は? とか質問しまくったらしく、死にそうだったと泣きながら(実際は泣いてはいない)訴えられてしかたなしに愛流を叱ったが時すでにお寿司──失礼。時すでに遅しで孟宗竹を生やしに生やしまくったのかぐふぐふ言っている。

 うん、無理! ジェラール、一応従兄弟だがスマン! 無理! 強く生きてくれ!

 父様の実家に着くときには隣の領地とは言えど2回ほど野宿することとなった。本当なら宿に泊まるのが一番だが、俺が嫌なので野宿を希望した。愛流と久しぶりにルーの僕キッチン(複写)で料理をするとジェラールだけはニッコニッコして待っている。

 あれ、確実に期待してんじゃね? 旅の事を思い出したのか?

 初日は道中で遭遇したボアのぼたん鍋と雑炊。二日目はオークの豚汁とおじや。朝? 朝はまぁ、ルーが父さん達に食べさせようと律儀に複写していたサラダとかオムライス、コンポタ。その他もろもろ。ベットは俺が魔法で形を作ると、愛流も土魔法があるらしくそれなりのマットを上に作っていた。師団長が煩かったけど、俺と愛流はガン無視したのは言うまでもない。何だかんだとガルシア領の父の実家? につけばお祭り騒ぎだったのに少しばかりドン引きした。数日間のばか騒ぎが落ち着きをみせるとなぜか深刻な家族会議となり、俺も愛流も、はたまた師団長も参加させられた。まぁ、それもそうか。父様の姿は真っ青な長いストレートの髪に睫毛の長いパチッとした瑠璃色の瞳。髪をどんなに短くしても、男の格好をしても結局は国王の男妾と全ての人にバレるのだ。とりあえず俺が「髪を切ろうよ!」と言うとヤトが切ってくれるの? わぁ、嬉しいなぁ~と女の子のように喜んでいた。

 これ、一応俺の父親です。

 そんな言葉を胸を張って言えるか自信なくなってきたのは仕方ない。長い髪は一束にしてルーにウイッグ作っとけと手紙付きで送るとサクサクと俺はカットを始めた。そう言えばウイッグコレクション増えたよなぁ……。愛流に渡せば売り捌いてくれるだろうか──。

「あー、じゃあ……。俺がこの世界に転生する特典で貰った瞳の色を変える権利を譲渡しようか? 髪の権利はごめん、俺が使っちゃったから……」
「あっ! なら私の権利をあげるわよ。私はこの色でいくから」

 と、愛流の鶴の一声で色を変化することになった。そして家族とわかるように父様は母親……。俺のこの世界での祖母に当たる人と同じ色味にすることとなり、愛流が一度限りのスキルだか魔法を使うと彼は光に包まれた。何て言うか、昔の戦うヒロインアニメの変身シーンのようだ。
 そして光が消えるとそこにいたのは薄い桃色の髪に水色の瞳と言うスゲー優しそうなイケメンがいた。青よりも遥かに似合ってるせいなのか、皆が凝視して見つめている。

 もちろん、愛流も──。

「なぁ……愛、る…………ってマジか!」

 前世合わせて愛流が一目惚れする瞬間を見てしまった。……え、お前が母とか嫌なんだけど……。しかも我に返った人から愛流を女神のように称え始めるし、愛流は父様に釘付けだし……。

 これ、どうしたら良いわけ?



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