45 / 57
あの日……
しおりを挟む【起きてー。起きてなのヨ~ンっ! 伝言があるのヨンっ! ぅおぉ~きぃ~るぅ~のぉ~ぅヨォ~ンっ! ヨーン……よーん……】
朝っぱらから脳内で騒ぐなっ、マジ煩いからっ! ったく、ヨンヨンヨンヨンって煩いなぁ……。誰だよ──ってかその語尾はあー、ユウ・ゲンか……。ルカに何かあったのかも思って気持ちを入れ替えて耳を傾けたらヒイロがヒャッハーしたいと言っているのだそうだ。あー、確かに最近はなにもしてなかったな……と思ったが、城に居るときは持ち歩いて戦うことを一切してなかったのでオーク来襲の時に我慢と言う枷が無くなってしまったのかもしれない。というよりも我慢させ過ぎたのだろうか……。とりあえず「わかった」と答えて着替えをすると軽く伸びをした。
「んーっ! ……はぁ……。さてと? とりあえず今日の予定とそれ以降を確認しとくか……」
部屋を出て皆がいるだろうサロンへ足を進めると途中で愛流に出会った。てか珍しい髪型してんなぁ~……。ハーフアップのツインテールかよ……。なんつーか、女のアイドルグループに1人はいそうな髪型じゃね?
「あら、ヤト! おはよう。ねぇ、変なとこない? 大丈夫? この髪型なら私、可愛く見える?」
「……なぁ、愛流。お前、ちょっとがっつきすぎじゃねぇか?」
そう忠告するとギッと千年の恋も冷めるような顔で睨まれた。なんで親の敵みたいに睨むんだよ……。邪魔はしねぇけど、正直お前が母親ってのも嫌なんだよ!そんなことをグッと抑えて他愛ない話をしつつサロンへと向かった。髪の色を変えただけでまさか愛流の好みドンピシャとはなぁ……。
あの日──。
◆
「ルーちゃん……。……はぁ、行っちゃったわね~……。もう見えないわ……。てか、久しぶりに会えて嬉しかったのにこんなにも早く離れ離れになるとは思ってもみなかったわ、私……」
「そんなことよりも愛流。お前、さっきまで腐った目をしてたけどなに考えてた?」
「えっ! ……な、なにもべ、別に嫌らしい目で見てたとかじゃないわよ?……」
ゴニョゴニョとごまかし始めたのを見て、俺は直ぐ様悟った。
あ、コイツ……。馬に2人乗りしてポンチョで中が見えないのを良いことにゼツさんがルーにセクハラもしくは行為の及ぶまでを妄想したと──。確かにルーの体は小さいからポンチョにの中に入ったら顔以外はどうなってるのかわからなかったけども──。でもさ? でもそれにしたってだよ? 孟宗竹の林を広げてる場合でもないし、なによりも言いたいのはしばらく会わないうちにお前、本当に見境なくなったな……と伝えたい。でもそうは思ったが、ちょっと面倒だしそれは止めて旅の出発の確認をすることにした。俺と愛流はガルシア領にて餌を待つため出発をするのだ。ジェラールが移動の際に連れてきた騎士と、王都では最強とうたわれた魔法師団長も連れていくそうだから安心といえば安心か……。
そして何はともあれ出発はしたのだが、何て言うか気まずい──。
俺の目の前と言うか、隣に母? 親が座っている。向かい合わせにしようと思ったら先に入った彼がポンポンと隣に座れと無言で叩いていた。馬車の中は二人きり。愛流はジェラールが師団長と一緒は勘弁してくださいと俺に泣きついてきたところ、愛流が嬉々として一緒に乗ってあげる~と乗り込んだ。きっと今ごろ根掘り葉掘り聞いているに違いない。ジェラール、何て言うか……。すまん──。
「ナイト……。いや、ヤトだったかな? 見ないうちに本当に立派になったねぇ~……」
女であれば慈愛に満ちたと言うべき笑みで頭をそっと撫でられた。てか、今のこの状況はマジでなんなんだろうか……。
「あー、えーっと……。うん、父様も元気そうで何よりだよ」
と言うと彼はクスクスと綺麗に笑いながら「私は母だよ?」と言った。なんと言うか、あの部屋で数人の騎士が床に沈み、尚且つそのうちの一人である騎士の頭を踏んでなければ呼ぶのは母でも良かったんだけど、圧倒的な強さを見せつけられてはやっぱりこの人は男だと思って母と呼ぶのはどう考えたって失礼だと思うんだ。さすがに腹と言うか尻? を痛めて産んでくれたのは感謝だけども──。
「いいの。俺が父様と呼ぶのは勝手でしょ?」
「いや、でもランドルフ伯爵……というか、私を父と呼んだらハイネ様に悪いじゃないか……」
「ランドルフ伯? あぁ、大丈夫だよ。パパさんって呼んでるから。因みにさっきの屋敷に残ってくれたのは少し前にも言ったけど前世の父さんだから、俺にはもう父様って単語しかないんだけど……」
一応、クソゲス王は父上と呼ぶしかないからね……。数回だけ口にしたことがあるってだけで、別に思い入れなんかない。でもこの人にアレと一緒の言葉は使いたくないと思っただけ……。
「あ、りがとう……」
「えーっ! ちょ、父様なんで泣いてるの!」
薄手のハンドタオルでそっと涙を拭うと父様にかわったチーフだねと言われてフリーズしたのは仕方ない……。だって、ちゃんとしたタオルってこの世界にないんだよ──。
それから休憩まで色んな話をして父から話を色々と聞く度にクソゲスに殺意が涌く。ルーがいなくて本気でよかったとさえ思う。そして休憩の時にジェラールにワーワーと愛流が師団長にどんなところが好きなのか? とか、好きになった瞬間は? とか質問しまくったらしく、死にそうだったと泣きながら(実際は泣いてはいない)訴えられてしかたなしに愛流を叱ったが時すでにお寿司──失礼。時すでに遅しで孟宗竹を生やしに生やしまくったのかぐふぐふ言っている。
うん、無理! ジェラール、一応従兄弟だがスマン! 無理! 強く生きてくれ!
父様の実家に着くときには隣の領地とは言えど2回ほど野宿することとなった。本当なら宿に泊まるのが一番だが、俺が嫌なので野宿を希望した。愛流と久しぶりにルーの僕キッチン(複写)で料理をするとジェラールだけはニッコニッコして待っている。
あれ、確実に期待してんじゃね? 旅の事を思い出したのか?
初日は道中で遭遇したボアのぼたん鍋と雑炊。二日目はオークの豚汁とおじや。朝? 朝はまぁ、ルーが父さん達に食べさせようと律儀に複写していたサラダとかオムライス、コンポタ。その他もろもろ。ベットは俺が魔法で形を作ると、愛流も土魔法があるらしくそれなりのマットを上に作っていた。師団長が煩かったけど、俺と愛流はガン無視したのは言うまでもない。何だかんだとガルシア領の父の実家? につけばお祭り騒ぎだったのに少しばかりドン引きした。数日間のばか騒ぎが落ち着きをみせるとなぜか深刻な家族会議となり、俺も愛流も、はたまた師団長も参加させられた。まぁ、それもそうか。父様の姿は真っ青な長いストレートの髪に睫毛の長いパチッとした瑠璃色の瞳。髪をどんなに短くしても、男の格好をしても結局は国王の男妾と全ての人にバレるのだ。とりあえず俺が「髪を切ろうよ!」と言うとヤトが切ってくれるの? わぁ、嬉しいなぁ~と女の子のように喜んでいた。
これ、一応俺の父親です。
そんな言葉を胸を張って言えるか自信なくなってきたのは仕方ない。長い髪は一束にしてルーにウイッグ作っとけと手紙付きで送るとサクサクと俺はカットを始めた。そう言えばウイッグコレクション増えたよなぁ……。愛流に渡せば売り捌いてくれるだろうか──。
「あー、じゃあ……。俺がこの世界に転生する特典で貰った瞳の色を変える権利を譲渡しようか? 髪の権利はごめん、俺が使っちゃったから……」
「あっ! なら私の権利をあげるわよ。私はこの色でいくから」
と、愛流の鶴の一声で色を変化することになった。そして家族とわかるように父様は母親……。俺のこの世界での祖母に当たる人と同じ色味にすることとなり、愛流が一度限りのスキルだか魔法を使うと彼は光に包まれた。何て言うか、昔の戦うヒロインアニメの変身シーンのようだ。
そして光が消えるとそこにいたのは薄い桃色の髪に水色の瞳と言うスゲー優しそうなイケメンがいた。青よりも遥かに似合ってるせいなのか、皆が凝視して見つめている。
もちろん、愛流も──。
「なぁ……愛、る…………ってマジか!」
前世合わせて愛流が一目惚れする瞬間を見てしまった。……え、お前が母とか嫌なんだけど……。しかも我に返った人から愛流を女神のように称え始めるし、愛流は父様に釘付けだし……。
これ、どうしたら良いわけ?
10
お気に入りに追加
285
あなたにおすすめの小説
薬師は語る、その・・・
香野ジャスミン
BL
微かに香る薬草の匂い、息が乱れ、体の奥が熱くなる。人は死が近づくとこのようになるのだと、頭のどこかで理解しそのまま、身体の力は抜け、もう、なにもできなくなっていました。
目を閉じ、かすかに聞こえる兄の声、母の声、
そして多くの民の怒号。
最後に映るものが美しいものであったなら、最後に聞こえるものが、心を動かす音ならば・・・
私の人生は幸せだったのかもしれません。※「ムーンライトノベルズ」で公開中
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
異世界の親が過保護過ぎて最強
みやび
ファンタジー
ある日、突然転生の為に呼び出された男。
しかし、異世界転生前に神様と喧嘩した結果、死地に送られる。
魔物に襲われそうな所を白銀の狼に助けられたが、意思の伝達があまり上手く出来なかった。
狼に拾われた先では、里ならではの子育てをする過保護な里親に振り回される日々。
男はこの状況で生き延びることができるのか───?
大人になった先に待ち受ける彼の未来は────。
☆
第1話~第7話 赤ん坊時代
第8話~第25話 少年時代
第26話~第?話 成人時代
☆
webで投稿している小説を読んでくださった方が登場人物を描いて下さいました!
本当にありがとうございます!!!
そして、ご本人から小説への掲載許可を頂きました(≧▽≦)
♡Thanks♡
イラスト→@ゆお様
あらすじが分かりにくくてごめんなさいっ!
ネタバレにならない程度のあらすじってどーしたらいいの……
読んで貰えると嬉しいです!
傾国の美青年
春山ひろ
BL
僕は、ガブリエル・ローミオ二世・グランフォルド、グランフォルド公爵の嫡男7歳です。オメガの母(元王子)とアルファで公爵の父との政略結婚で生まれました。周りは「運命の番」ではないからと、美貌の父上に姦しくオメガの令嬢令息がうるさいです。僕は両親が大好きなので守って見せます!なんちゃって中世風の異世界です。設定はゆるふわ、本文中にオメガバースの説明はありません。明るい母と美貌だけど感情表現が劣化した父を持つ息子の健気な奮闘記?です。他のサイトにも掲載しています。
爺ちゃん陛下の23番目の側室になった俺の話
Q.➽
BL
やんちゃが過ぎて爺ちゃん陛下の後宮に入る事になった、とある貴族の息子(Ω)の話。
爺ちゃんはあくまで爺ちゃんです。御安心下さい。
思いつきで息抜きにざっくり書いただけの話ですが、反応が良ければちゃんと構成を考えて書くかもしれません。
万が一その時はR18になると思われますので、よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる