36 / 57
俺の兄さん
しおりを挟む「ルー、お休み。今日は久し振りに馬車で移動だったし疲れたろ?」
久し振りに大きな風呂にのびのびと入ったからなのかルカの瞳は微睡み、瞼が重そうだった。頭をそっと撫でながら額にチュッと軽くキスをしてそのまま寝付かせた。もともと人付き合いが好きではないルカは初対面の人が多く占めるこの場所で、内心かなり疲れている。いや、疲れきっていた。アンドレアさんに付いてきた騎士たちは元は第四騎士団所属だった人もいて嬉しそうではあったが、割合としては初めて見る人の方が多かっただろう。所々愛想笑いをしている姿をよく見かけた。まぁ、明日には警戒と言うか苦手というか……。そういった負の意識というべきものは少し溶け、数日後にはそれなりには仲良くなるのだろうけれど……。そっとルカを抱き締めながらユウ・ゲンに声をかけた。
なぁ、ユウ・ゲン。俺は直接会ったことはないんだが、ここの領地の前領主夫妻がなんだか様子がおかしいというか確実に変じゃないか? もしかしてルカがストーリーを変えた弊害かなにかなのか?
そう質問をすると相手はいつになく困ったような雰囲気だった。
【それに関してはよくわからないのヨン……。兄者達が調べてるところなのヨン? ユウ達はよくわからないのヨン……。とりあえずわかったら教えるのヨン】
兄者……。あぁ、ルカをサポートしてくれているんだったか──。えーっと、ユウ・ゲンの兄がム・ゲンで、フ・クシャの兄がフ・クセイだっけ? それにしても似てるようで似てない名前だなぁ……。そう思いながらユウ・ゲンにスマホを出してもらうと起動させた。
【アンディの家には無事着きましたか? なかなか風情のある街並みですから、散歩するのも楽しいはずですよ? 唯一の港町ですしね……】
兄さんからメールが届いていたので、ポチポチとルカを起こさないように返事を書いた。俺のスマホは完全に日本語入力だが、兄さんに渡したものはこの国の言語。英語のような、フランス語のような。イタリア語のような欧州をすべて掛け合わせたような言語で書くので入力が大変そうだ。俺がパパッと即答で返事するから兄さんは不思議そうな顔をしてたな……。入力が日本語。確認してないからわからないが、俺の目には画面表記も日本語。勝手に翻訳してくれるらしい。ありがとう! そう声を大にして言いたいくらいだ。ちなみに電池は握っている手から魔力充電されてるっぽい。とりあえず毎日やり取りの始めに相手に聞くのは「変わったことはなかったか……」これに尽きる。もし何かあったとしたら……。考えたくもない。
特に兄さんに何かあったら俺もルカもあの邸へヒイロとミドリを手に乗り込むのは間違いないだろう。兄さんは既に俺のなかではルカを取り合うような恋敵と言うよりも、どちらかと言えば精神年齢としては弟なのだがそんなのは関係ない自慢の兄であり、尚且つ理解者であり、気のおけない話もできる親友や相棒的な位置にいる。ルカも離れてから自己嫌悪なのかよくわからないがかなり落ち込むほどには兄さんの事が好きで、そして少し依存していた部分があるから離れると不安なのだろう。そんなことを思っている間に届いた返事は「いつもどおり変わらずです。そちらは?」と返事が来たので移動で疲れてルカが寝ている事を伝えた。
【そろそろ冬なのであの布団が恋しいですね……】
と言われて羊毛の掛け布団を思い出した。この世界では革命とも言える代物なのは確かだ。俺は布団をお届けしたい気持ちでいっぱいなのだが、彼には俺やルカのように布団を隠す術を持たないのだから仕方がない。……あ、魔法の壁の中に収納すれば良いのか……って思い付いたものの、すでに手渡せない状況下──。なので土魔法で壁を作ることを教えたので屈指してほしい。ゼノさんの実家で俺がルカに嫌な予感がすると言った日からさらに魔法の改良に努めた。特に兄さんが孤立した場合、水分は確保しているが熱源がない。なので俺が試しに温かみのある土の板を作り出した。それを少ない土魔法適正のルカができるかを実験。そんなことを繰り返して、兄さんも温度は低めだが何とか出来るようになった。それをベッドの毛布の中に入れるか、寝るときの壁の内側にするかして今は乗りきって……と伝えると「わかっています」と返事が来た。どうやら既にそうやって居ると推測される。そんな話をしてから兄さんに祖父母さんはどういう人だったのか聞いてみたが、民の事を一番に思い、優しくも厳しく、厳しくも暖かい。そんな人だったと言われた。
現状と真逆じゃねぇか! そんな言葉が頭に浮かぶ。
そうか、そうだよな。だからこそ、この現状にパパさんもママさんも兄さんも……。果ては側近であり、使用人であるヨハンやローラ達でさえもこの事が理解できず、困惑しているのだ。そして使用人すべてを含むが、王都側と領地側で完全な亀裂を生み出し、ヨハンやローラたちは言われたことのみを遂行する人形へ。ルカや俺が便利にしたところで領地側の人間に得になるようなことは一切しないと言うある種のボイコット。彼らを守るのに兄さん自ら指示したように見せかける為に部屋に引きこもり中。
ほんとに国を作る手前の領地なのだろうか……。
俺は柄にもなく心配してしまうのは仕方ないと思われる。出来れば何事もなく兄さんの祖父母が元に戻ると良いのにな──。
13
お気に入りに追加
285
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
夫の心がわからない
キムラましゅろう
恋愛
マリー・ルゥにはわからない。
夫の心がわからない。
初夜で意識を失い、当日の記憶も失っている自分を、体調がまだ万全ではないからと別邸に押しとどめる夫の心がわからない。
本邸には昔から側に置く女性と住んでいるらしいのに、マリー・ルゥに愛を告げる夫の心がサッパリわからない。
というかまず、昼夜逆転してしまっている自分の自堕落な(翻訳業のせいだけど)生活リズムを改善したいマリー・ルゥ18歳の春。
※性描写はありませんが、ヒロインが職業柄とポンコツさ故にエチィワードを口にします。
下品が苦手な方はそっ閉じを推奨いたします。
いつもながらのご都合主義、誤字脱字パラダイスでございます。
(許してチョンマゲ←)
小説家になろうさんにも時差投稿します。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
異世界に召喚されて失明したけど幸せです。
るて
BL
僕はシノ。
なんでか異世界に召喚されたみたいです!
でも、声は聴こえるのに目の前が真っ暗なんだろう
あ、失明したらしいっす
うん。まー、別にいーや。
なんかチヤホヤしてもらえて嬉しい!
あと、めっちゃ耳が良くなってたよ( ˘꒳˘)
目が見えなくても僕は戦えます(`✧ω✧´)
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる