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我が国の王子 2

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「本当はご子息の人となりを見て私の従者を頼みたかったのだが仕方ありませんね──」
「え……? で、ですがうちの子は水属性でございますから……」

 さすがに地位は低いと言っても王子の従者なんて反感を買ってしまうだろう……。

「うむ、わかっている。それは私も彼にとってもかなり危険なようだから諦めることにするよ。誰とは言わぬが到底応援など出来ぬ思いを抱いているようだからね……」

 …………え? この小さな殿下は今なんと言った?

 誰トハ言ワヌガ到底応援ナド出来ヌ思イヲ抱イテイルヨウダ…………?

 応援出来ない思いを抱く……? 誰に? ぐっちゃんに サラと思わず目を合わすと彼女も困惑と言った目をしていた。ナイトリンガー殿下はそんな様子を見てクスクス笑うと、こちらが楽に様子を観察できるようになのか少し歩いて俺たちの後ろへ回り込んだ。

 殿下、ありがとうございますっ!!

 すぐに振り返ってチラリと目だけを動かすと国王。いや、その時は王太子だったが嫌な予感を感じ、アタリをつけて観察をするとうちの子にほの暗いと言うか熱っぽい邪悪とまでは言わないが邪な目で見つめていた。なんと言うか確実に息子は獲物としてロックオンされてるのではないだろうか……。男の妾がいるんだからそれで我慢しやがれ!

 絶対にぐっちゃんはお前なんかに渡さないからな!

「旦那様……。あのポチャ、この場で八つ裂きにして殺りたいですわ」
「サラ、今は様子を見るだけにして殺るのはやめようねぇ」
「僕は殺るなら殺るで一向に構いませんが? お祖父様である国王もまだまだ健康ですしね……。王太子が消えたとしてもまだお祖父様もお若いから頑張れるでしょう……。それに王弟の叔父もいますし──」

 ニコニコと5歳の子が自分の親が殺されるかもしれないのに笑顔でそう言いのけた。しかも王弟が即位したら王子達は殺されるのではなかろうか……。そうなったら、この方だけは助けよう!

「ところで殿下、噂を耳にしましたが好き嫌いがなにやら激しいようでございますね。食べねば大きくはなれませんよ?」
「……ランドルフ伯。貴殿まで乳母や皆と同じことを言うのだな」

 苦虫を噛んだような顔を一瞬でするこの殿下は本当に5歳なのだろうか……。え、そんなに食事が嫌いなのか? 生きるのに大事なことだろう?

「どうしてお食べにならないのです?」
「うーむ、なんと言えばよいのか……。美味しいとは思えないというか、美味しいと感じないから……?」

 困ったように首をかしげる姿は5歳の可愛らしい少年だった──が、嫌な視線を感じパッと顔を上げて王太子の方向を見ると、ぐっちゃんを食い入るように見つめる王太子ぽちゃ(国王)の隣に立っている側近である宰相の子息(現宰相)と目が合った。すぐに彼には目を反らされてしまったが、こちらも視線をはずし、直視しないように気を付けながらも何となしに観察してみればまた彼は隣の王太子のような目で殿下を見つめていた。え、なに? 生粋の男の幼児が好きなの?

 …………この方もこの方でぐっちゃんとはジャンルの違う美少年だからなぁ……。

 金色のパッチリとした大きな瞳に、髪と同じ色のふさふさな睫毛。銀色のキラキラした胸辺りまである髪。太陽の下に出ることがないからか青白い素肌に薄ピンクの頬に唇。背も平均より低くて痩せているのが気になるがかなりの美少女。性別間違えた感満載の少年だ。気持ちはわかるがコレが将来の我が国のツートップかと思うとこちらも色々考えないといけないかな──。

「ナイトリンガー殿下。好き嫌いはよくないですわっ! 出されたものは食べなければ大きくはなれませんよ!」
「え、えー? いや、食べない理由は好き嫌いではなく何と言うか……」
「い、け、ま、せ、ん! 食べねば強くなれませんよ? あぁ、こんなにお痩せになられて……」

 ふと妻の声に現実に戻されてみれば、サラはサラで殿下を乳母のごとく叱っていた。母性でも擽られたのかな……。このサラの猛攻のせいなのか不明だが、この頭も感も良い殿下はこのまとわりつくようなアイツの嫌な視線を感じていないらしい。

 あー、ぐっちゃんもだけど殿下もなんとかして守らなければ……。


   ◆


「あぁ、そろそろパーティーはお開きのようですね……」

 料理も少なくなり、人も疎らというか静かになってきた気がする。

「うん、そのようだね。だから、ランドルフ伯。奥方にはそろそろ……。そろそろ──」
「はい、あーん! さぁ殿下、この皿に乗ったものは食べましょうね」

 サラはパーティー中、全くといって食事に手をつけない殿下に業を煮やし、近くに来たゼノ君に食事を取ってこさせると手ずから食べさせていた。ゼノ君は気を利かせたのか、いろんな種類を一口サイズの少量で取ってきたのでそれに拍手を心の中でしていたのだが、殿下は口に入れると顰めっ面でモグモグしていた。なんというか表情はと言うと本気で嫌そうな顔をしている。
 第1王子と第2王子は王子と言うにはこちらが恥ずかしくなるくらいにマナーもなにもない状態でバクバクと食い散らかし──失礼。食べているのに対して、無理して嫌々食べるものの上品に食べ進める第4王子であるナイトリンガー殿下とのこの落差はなんなのだろうか……。成長期とはいえ食いしん坊とグルメさんの差なのだろうか。しかも年齢と行動が真逆過ぎる。

「あの、父上。もしかして殿下は味が好きではないのではないでしょうか……」
「あー、味か……。確かに言われてみればそうかもしれないねぇ」

 とは言ってもこの国だけではなく帝国もその他の国も塩のみで、どこもかしこも大体同じような味なのでコレばかりはどうしようもないのだけれど……。もしかして幼い殿下には塩とはいえ味が濃いのか?

「あ、あの、私はもう満腹なのだが……」
「さぁ殿下、これはお薬だと思って無理してでも食べましょうね?」

 不敬ともとれる行動。しかし殿下がなにも言わないのだからそのままにしているわけだけども、サラはと言うとこの小さな子供にご飯を食べさせると言う使命感に燃えているらしい。そして殿下になんとかして全て食べさせると遠くからやって来た彼の乳母にお礼を言われていた。どうやら殿下は本気でご飯を自ら進んで口にはしないらしい。ならば5歳にしては体が小さすぎるのも当たり前か……。しかし殿下はと言うと彼にとっては拷問のような時間が終わり、「やっと終わった」とホッとした顔をしながらお腹を撫でている。

 あぁ、お腹がプクッと膨れてますね、うちの妻がすみません──。

 思わず少しばかり汚れていたのでハンカチで口元を拭ってしまったが逆に礼を言われてしまった。ひねくれても誰も文句は言えないのになぜこんなに素直な良い子に育っているのか……。不思議で仕方ない。

「ランドルフ伯、ご子息に水を出してもらっていいだろうか……。私はもう無理だ……」

 涙目で訴えられたのでグレンにこっそり水を出させると殿下は躊躇することなく、行儀は悪いが口をブクブクしながら飲みだした。

「味がお嫌いでしたか?」
「私には殺したいのかと聞きたいくらいに全てが塩辛いのだ。アレを食べるのは拷問以外の何者でもない。故に食べたくないのだ」

 料理人が聞いたら泣き出すもしくは自害する事をキッパリと言うのでこちらはどうしたらいいのかわからない。

 ただ、うちの妻がスミマセン……としか言えない──。


   ◆


「殿下、本日は貴重なお話をありがとうございました。私共も殿下のように色々なことを想定して模索せねばなりませんね。何か御座いましたらなんでも申し付けください。力になれることが御座いましたら我々は殿下の味方で御座いますから出来る限りお手伝いいたします」

 ニコリと笑みを浮かべてそういうと殿下はキョトンとした顔をしてから「ありがとう」と返事をした。おや、その顔はとても可愛らしいな……。でもダメな大人に命ではなく貞操を狙われている自覚をさせるには果たしてどうしたらいいものか──。

「しかし、少しでも構わないので食事はしましょうね?」
「ぐっ……で、でも塩辛いのだ……」

 ギュッと服を握ってプルプルしている姿は美少女そのもので第3王子がクスクス笑いながらやって来た。

「ランドルフ伯、私の弟が随分と世話になったようだね」
「シルヴェール殿下。先程ぶりでございます」
「ナイト、その顔はしたらいけないよ。どっかのアホウがおまえ狙っているからね」

 第3王子はギュッと自分の腕の中に抱き締めるように隠すと第4王子はジタバタしていた。アホウと言うのはやっぱりあいつの事なのだろうか……。というか、貴方の隣に立っているアレックス君のお父様ですよ?

「ランドルフ伯。すまないね、もしもの話になるがこの先の未来でこの子に何かあったら頼めるかな……。私個人の願いになってしまうが……」
「…………えぇ、その時はお任せください」

 うちは数少ない第4王子の派閥ですから、ナイトリンガー殿下でしたら喜んで! そしてもしもの時は養子としてうちの息子として頂いても宜しいですか?


   ◆


 思い出に浸りながら歩いていると前方に女性よりも長く、キラキラした艶のある銀髪が歩いていた。

「おや、ナイトリンガー殿下ではありませんか」

 声をかけると彼は立ち止まり、ゆっくりと振り返った。この国には珍しいツヤツヤした髪の持ち主だ。よくよく思えばルカと同じような魔法なのだろうか……。

「…………あぁ、ランドルフ伯。久し振りだね」
「いやいや、数日前にあったではないですか……っていかがなさいましたか?」

 何故かルカに艶々にしてもらった髪を見つめて驚いている彼がいた。おや、珍しい事もあるものだ。

「……あ……いや? しかしランドルフ伯は数日前とうって変わって今日は随分と髪がサラサラしているようだね」

 殿下はすぐにいつものやる気の無さそうな気だるい感じに戻ってそう言った。

「えぇ、まぁ……。新たに息子を受け入れましてね……。その息子にしてもらったのです。体の弱い子なのでお会いすることはないと思いますがルカと言います」
「『ルカ』? ……申し訳ない。少し確認がしたいことがあるので彼と会うことは出来ないだろうか」
「ルカが聖属性だからですか?」

 その言葉に殿下は不思議そうに首をかしげていた。

「別に魔法の属性はただの個性の一部だろう? ただちょっと探している子か確認したくてね……。理由はここでは言えないが個人的に『ルカ』と言う男の子を探しているのだよ……」
「……わかりました。息子にそれとなく会うように促してみます。あ、そうでした。殿下、貴方様もいい加減に食事をちゃんとお食べください」

 幼いあの時からいまだに痩せている殿下を軽く睨むと彼はなんとも言えないような顔をして笑っていた。

 あぁ、幼い頃から今もなお食材ではなく味がお嫌いなのですね……。



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