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可愛い義弟② 2

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 そして今現在。

「グレン兄さーんっ! お帰りなさぁーいっ!」

 ルカを弟にしてから俺の非番の日は寮ではなく家に帰るのが定着した。帰るとルカは用がないときはいつもこの様に出迎えてくれて、俺に抱きつくと嬉しそうにすり寄ってくる。まるで猫みたいだな……と思う。あー、でも抱き付くまでは猫というよりもどちらかと言えばどこかに振り飛ばしてしまいそうなほど尻尾を振っている犬のようにも思える。うん、どちらも甲乙付けがたいくらい可愛いのだからどうでもいいか……。

「ルカ、ただいま帰りました。父上と母上は?」
「えっとね、パパはまだお城から帰って来てないよ? ママはうーん、時間的にそろそろかな?」

 ふとルカを見ればどことなく見覚えのある服を着ている。今日も俺が昔着ていてすぐに着られなくなってしまった服を身に纏って…………ん? はて、俺はこんなにフリルやレースのついた可愛らしい服を着ていただろうか……。マジマジとルカの服を見てみればシャツは過剰と思える程のフリルがたくさんあしらわれていた。はて、新しい服でも買ったのかな……と思うことにした。

「ルカ。私は着替えてきますから、そのあとサロンで一緒にお茶をしましょうか」
「うん! じゃあ、待ってるね?」

 可愛い笑顔で去っていった。

「ヨハン、ローラ……。私は昔あんなにフリルのついた服を着てましたっけ?」
「いえ、あれは……」
「ただいま帰りましたわ! あら、グレン。今日は早いのねぇ!」

 母上がお茶会から帰ってきたのか玄関ではあるが少し話すと後ろからモニカやトーマス達が荷物を運んでいた。

「母上、買い物もなさってたんですね」
「ええ! そうだわ! グレン。これを見てほしいの! モニカ、アレを!」
「はい」

 アレを出せと言われたモニカはすぐに目当ての箱を取り出すと中身を広げた。モニカの見せた服はいわゆる子供服で、触ってみれば生地は中々上質なものだった。広げられた内の一つのシャツのデザインはというと衿の縁や、袖口。ボタンの周辺にはおっそろしい迄にフリルがびっしりと飾られている。裾はというとスカートのように何段もフリルやレースが重なっていてさすがに男服には見えないのだが……。
 そう言えば母上は幼い俺にもこんな服を着せようとしていた時があったな……。全力で拒否したけど──。

「あー、もしかしてルカのあの服は母上の趣味でしたか……」
「えぇ、ですが本日の着てらっしゃるものはミリアムがグレン様の着てらしたシャツに後からフリルを付け足したものでございます」

 おぉ、なんと乳姉のミリアムのお手製だったらしい……。そう言えばミリアムは昔から母上みたいに可愛いものが大好きでしたねぇ。本人は可愛い服は似合わないからと着てませんけどね……。

「本日はミリアムのですが、昨日はモニカのお手製のリメイクシャツでしたね。その前はローラの……。残念ながらルカ様の現在着てらっしゃるシャツにはグレン様の面影は一切御座いません。この家のローラ含むメイド全員が各々シャツ、ジャケット等各自一枚を担当し、競いあってましたからねぇ……」

 ヨハンの言葉に母上は満足そうに微笑んでいた。なるほど、母上の要望も入り交じってルカのリメイクは女の子並みに可愛くなっているのか……。まぁ、ルカが嫌がっていないなら気にしないし、似合っているのだから俺は見守ることにしよう。

「ルカちゃんはグレンとは違ってなんでも着てくれるからママとても嬉しいわ! しかも似合っていて可愛いんですもの!」
「ルカ様は本当に可愛らしくて……」
「ウォルター邸のアイドルですわね!」

 キャッキャとはしゃいでいる姿に心の奥底から平和だなぁ~と思っていた。

「ではヨハン。私は着替えてきますね」
「あらあら、ぐっちゃん。ちょっとお待ちなさいな……」

 何故か母上に左肩を掴まれ、しかもその場所はギチギチ、ミシミシと骨というか筋肉というか筋というべきか……。とにかく体が悲鳴をあげている気がする。


 その細い腕や指のどこからそんな力が出てるんですか──。


「ぐっちゃん。たまには母の我が儘に付き合うのも息子としての務めではないかしら……。ヨハン、トーマス! 解っているわね?」
「「畏まりました」」

 俺は両脇を二人に固められ、捕まえられると部屋へこのまま連行された。後ろからローラと数人が箱を手に持って後ろを笑顔でついて来た。嫌な予感しかしない……。


   ◆


「あれ? 兄さんもママの買ってきた服を着させられたの?」

 サロンへげんなりとしつつも行くとルカは先程の可愛らしいロング丈のシャツを着ていて、俺とお揃いの生地のジャケットとハーフ丈のズボンを身に纏っていた。足元を見てみれば膝下にフリルをあしらった靴下。ポイントにリボンがついている。なんというか、ハーフ丈と言えどズボンでなければ本当に女の子にしか見えなくてとても可愛かった。

「あはは、兄さんのは飾り程度にしかヒラヒラがついてないけどいつもより可愛い感じだね。僕、この服を着てる兄さんも好きだよ?」

 母上に褒めるようにと仕込まれているのかと思ってしまうくらいにルカは笑顔で褒めてきた。

「うふふ。ふふっ、ふふふふふっ」

 この嫌な笑いは母上か……。

 入り口に視線をずらせば母上が立っていて、父上もいつの間にか帰っていたらしく母上のすぐ隣に立っていた。

「ぐっちゃんもルカも……。うちの天使達は可愛いなぁ!」
「旦那様! ペアルックにして正解でしょう!? わざわざ作って良かったわぁ~っ!」
「サラ! 君はなんて素晴らしいんだ! 我が子達がこんなにも可愛くなるなんて!」

 …………おい、父上。少し冷静になれ? しかもオーダーメイドで無駄金使うんじゃねぇ!

 成人した男に可愛い服を着せて喜ぶのは変態の仲間入りだぞ! とは思うものの口には出せない。じと目で両親を見つめているとルカが俺の服をクイクイ引っ張ったので視線を移すとお茶をする約束を思い出したので抱っこして自分のソファーに座った。もちろんルカは俺の足の間に座らせた。

「ミリアム、お茶をお願いしていい?」
「はい、ルカ様」

 部屋は一気に和んだのはルカの一種の特技なのかもしれない。

「えへへ、この服は兄さんとペアルックだって!」
「嬉しいですか?」
「うん! 嬉しい! あのね……」

 ルカは体を捻って耳に口を寄せると誰にも聞こえないようにヒソヒソと話してくれた。


 兄さん、あのね? ここのうちの子にしてくれてありがと──。


「あーっ! ルカ! ぐっちゃんばかりズルいぞ!」
「ルカちゃんはお兄ちゃんが本当に大好きなのねぇ~っ!」

 いつも静かだったこの家はルカが来たことで本来の明るさを取り戻したのかもしれない。

「えへへ、パパは嫉妬? 僕とグレン兄さんが仲良いから嫉妬?」
「うん、パパはヤキモチだよ。焦げ焦げだよ?」
「あはは! パパも大好き~っ」

 …………17歳だと言い張っていた姿は欠片も見つけられない。俺の目に写る姿は幼い子供そのもの。とにかく甘えん坊なルカの姿しかもう見当たらない。

 ルカは俺の膝から下りて離れてしまったことに少しばかり寂しくなったが、ソファーに座ったまま後ろを見るのに体を向けると父上にタックルするように抱き付いたのが目に入った。

「ぐはぁ!」
「だ、旦那様っ!」
「あ、パパ。御免なさい……。止まれなかった……」

 どうやら父上の腹部にルカの頭が見事にヒットしたらしい。少し離れたところで部屋はワーワーと賑やかだった。



 ルカ、ありがとう。

 勝手な思いから手放したくないからと、君を無理矢理……いや騙す形で弟にしたのに──。自由に羽ばたけるはずのその翼の羽根を少しだけもぎ取る様なことをしてしまったのに……。

 でもすみません。御免なさい。

 君は俺というただ一人の人間として見てくれているから、もう君を手放せないんです。今は好きの意味合いが違うけど、きっと同じにさせるから……。君の愛するお兄さんのナイトリンガー殿下にもこの気持ちは負けたくないから……。


 ルカ、俺は君の全てが欲しい──。




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