4 / 57
王の勅命により……2
しおりを挟む「……おやおや、助けに来たのになかなか酷い出迎えようだね」
薄暗い部屋に目を凝らせば団長の足元には短い木の棒が転がっている。視線をあげると団長は即座に剣で防御したのだろう。襲ってきたやつの手には短い棒を手にしていた。
子供……?
しかも団長に反応されるとは思っていなかったのか、その子は無言のまま立ち尽くしていた。
「手荒い歓迎だね。この国では禁止とされているはずの奴隷。その商人及び売人の捕縛。囚われた者の保護に来たというのに……」
「……あ、すみません……。盗賊かなにかだと思ったので……」
なるほど。奴隷商人のところに金があると盗賊が攻め混んできたと思われたのか……。確かに勘違いしそうなほど乱暴な手段を使った気がする。出入り口のドアを思いっきり粉砕させたし……。うん、数人で丸太をもって粉砕させたわ……。あぁ、丸太で思い出した。後でドライをかけて薪にしないといけないな……。
とりあえず後ろをついてきた騎士たちに子供の保護を指示をし、団長にも外に出るように促して俺は道案内をさせた奴を連れていった。外は夕暮れ間近でまだ明るく、子供を連れて侍従達が設置した野営地へと移動した。
今日から少しだけ……。うん、本当に少しだけまともに寝られそうだ。テントなんて目立つものは張れなかったし、寝るのもモンスターの兼ね合いで火も起こせなかったし、ペアで固まって交代で短時間のみ寝ていた。出来ることなら早く王都の寮のベッドで眠りたい。なんなら今居る場所から真逆の領地にある実家でも可! 寧ろそれのが良い!
待機していた侍従に子供たちに温かいものを飲ませるように指示をすると落ち着き始めた頃に一人一人名前や住んでいる場所などを聞きに回った。その子達は俺達の所属がわかると安心したようにすぐに話を始めた。報告にまとめられた子達ですべて確認ができたので数人の騎士を護衛にして側の村にある教会に預けることにした。男だらけの騎士団は安心ではあるが、子供達は幼く、女の子が多いので精神的な安心は得られないだろう。それに教会もボランティアで預かると言うわけにはいかないのだ。運営するにはやはり金が必要となる。騎士たちに子供たちの分と上乗せした食料。少しではあるが金を手渡した。彼はちゃんと理解をしているので目が合うと静かに頷いて子供達を連れて村へと出発をした。
そして俺らの目の前には最後の一人。団長を襲った子が所在なさげに座っていた。まじまじと見ていると彼は背が高く、大人とそう変わらない。しかし顔は非常に幼く、12~14くらいだろうか。もしくはそれ以下の可能性もある。しかし、あの場で誰よりも冷静に攻撃をしてきたのを見るとやはり14くらい? でも顔はものすごく幼い。
話を聞くとなにも覚えておらず気がついたらあそこにいたらしい。なにか覚えているものと聞けば「死にかけた?」と場違いな答えが返ってきた。住んでいた場所を聞けば「よくわからない」。家族を聞けば「たぶんいない」。親戚はと聞けば首をかしげ、大事なものは覚えていないのか知らないのか、はたまた言えないのか……。かなり手こずる子だった。
ならばと容姿をちゃんと確認してみるとこの国では珍しい黒い髪。珍しい緑の瞳。顔は幼いがオリエンタルな感じでとても可愛らしく、整っている。多分あの部屋にいた子の中で一番値がつく子だろう……。そして体は痩せているものの餓死寸前ではないところを見ると誰かに阻害されることなく育てられているのは確実だ。いや、生活をしていた──と言うべきか?
「え、えっと……。俺……その……何て言うのかな……。箱入りみたいな感じで常識的なことに疎いかも知れなくて……その……飛び出しちゃったのかな? えーっと……なんか話せば話すほど怪しさ満載ですね……」
悲しそうな顔をしてそれからは何も喋らなくなってしまった。もしかして怪しんでいたのを察したのだろうか……。ジロジロ見たり明らかに怪しんでいるようにはしていなかったのだが──。
うっ、いい年して幼い子供を苛めてしまった……。
しかし貴族なら苗字をちゃんと言うように教育されるだろう。何故ならば男爵であれなんであれ、貴族であることを凄く誇りに思うからだ。そしてバカは勘違いして特別なのだと偉そうな態度をとって嫌われる。しかし、言わなかったとなると平民。なのに箱入り。世間知らずと来たか……。見目がよくて話し方からも教育はちゃんとされている。貴族であるグレンの擬態モードと何ら変わらない話し方。グレンの性格は知っているからアレだけど、この子は素直に丁寧な言葉を使っているのだと思う。
白い! 真っ白で逆に心配になってしまうくらい白い。
貴族の言葉は腹の探りあいと言うべきなのか丁寧に話していてもちゃんと裏があるのだ。特に女……な──。アレは怖い。
でも家族や住んでいたところに関してはわからない。つまり彼は何らかの理由で外に出て、旅かなにかをしていた。そして途中で馬車かなにかに轢かれるか何かして荷物をすべて奪われ、顔がいいので魔法かなにかで回復された後に奴隷商人へ売られたのだろう。腰の武器は俺たちが触っても抜けなかったのでそのままにしたと言うことなのだろうか……。それはそれで変な話な気もするが──。
とりあえず怪しさは消えないものの彼を王都へは連れていく。戸籍がなければ仕事をするにもちゃんと作らないといけないし、調べて戸籍があったならあったでどうしたいかを聞いてやればいい。そんな感じで話がまとまると食事の用意が出来たと報告があった。
「とりあえず食事をしよう。グレン、早く来いよ?」
「お邪魔しました~……」
軽くそう言いながら席を立った。とりあえずあの子にご飯を食べさせてやらねば……。可愛いけど痩せすぎだから少し太らせないとな……。好き嫌いが激しいとかで痩せてたらどうしよう? そんなことを思った事に驚いた。俺、何だかんだ怪しんでるわりにあの子のこと気に入ってるんだろうなぁ──。側にいる奴が腹黒いかむさ苦しいかだからあの子の白さが珍しいだけか?
23
お気に入りに追加
285
あなたにおすすめの小説
薬師は語る、その・・・
香野ジャスミン
BL
微かに香る薬草の匂い、息が乱れ、体の奥が熱くなる。人は死が近づくとこのようになるのだと、頭のどこかで理解しそのまま、身体の力は抜け、もう、なにもできなくなっていました。
目を閉じ、かすかに聞こえる兄の声、母の声、
そして多くの民の怒号。
最後に映るものが美しいものであったなら、最後に聞こえるものが、心を動かす音ならば・・・
私の人生は幸せだったのかもしれません。※「ムーンライトノベルズ」で公開中
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
異世界の親が過保護過ぎて最強
みやび
ファンタジー
ある日、突然転生の為に呼び出された男。
しかし、異世界転生前に神様と喧嘩した結果、死地に送られる。
魔物に襲われそうな所を白銀の狼に助けられたが、意思の伝達があまり上手く出来なかった。
狼に拾われた先では、里ならではの子育てをする過保護な里親に振り回される日々。
男はこの状況で生き延びることができるのか───?
大人になった先に待ち受ける彼の未来は────。
☆
第1話~第7話 赤ん坊時代
第8話~第25話 少年時代
第26話~第?話 成人時代
☆
webで投稿している小説を読んでくださった方が登場人物を描いて下さいました!
本当にありがとうございます!!!
そして、ご本人から小説への掲載許可を頂きました(≧▽≦)
♡Thanks♡
イラスト→@ゆお様
あらすじが分かりにくくてごめんなさいっ!
ネタバレにならない程度のあらすじってどーしたらいいの……
読んで貰えると嬉しいです!
傾国の美青年
春山ひろ
BL
僕は、ガブリエル・ローミオ二世・グランフォルド、グランフォルド公爵の嫡男7歳です。オメガの母(元王子)とアルファで公爵の父との政略結婚で生まれました。周りは「運命の番」ではないからと、美貌の父上に姦しくオメガの令嬢令息がうるさいです。僕は両親が大好きなので守って見せます!なんちゃって中世風の異世界です。設定はゆるふわ、本文中にオメガバースの説明はありません。明るい母と美貌だけど感情表現が劣化した父を持つ息子の健気な奮闘記?です。他のサイトにも掲載しています。
爺ちゃん陛下の23番目の側室になった俺の話
Q.➽
BL
やんちゃが過ぎて爺ちゃん陛下の後宮に入る事になった、とある貴族の息子(Ω)の話。
爺ちゃんはあくまで爺ちゃんです。御安心下さい。
思いつきで息抜きにざっくり書いただけの話ですが、反応が良ければちゃんと構成を考えて書くかもしれません。
万が一その時はR18になると思われますので、よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる