23 / 30
22
しおりを挟む「おぉ、いつの間にか広間が出来上がっている! スゴーイ!」
「マーちゃん。足、靴も綺麗になった?」
「うん。なんかね、魚がいっぱいいるみたいだよ? ここの沼……。でも襲ってこなかったとはいえ、実は魚系モンスターなのかなぁ……」
そうして憶良の作ったテーブルセットに座ると魔姫は憶良をじっと見つめた。
「そうだ、ねぇ……お兄ちゃん。お母さんに……会えないかな……」
「そうだねぇ、ちょっと海行さんが言うにはまだ駄目みたい」
「そっか……。少し話がしたかったんだけど……」
寂しそうなその顔に、憶良は今日仕事の合間に俺が顔を出してみるよというと魔姫は少しだけ嬉しそうな顔で頷いたので、この実習の時間もったいないのでそのまま湿地帯に道を作ることにした。
そうして広い土地の一割ほどの割合であるが、トレッキングコースが出来上がった。
「お帰りなさぁーい。あら、収穫なし?」
「なんか、湿地帯だけでモンスターの確認ができない層だったんだよ……」
「ん――、そこってもしかして遠くに池が見えて、森もあってゲートの半径二十mから先が湿地帯で動けない自然だけって感じの所? 学生の時にツッキーがサボりに良く使ってたところなのよねぇ」
どうやら学生時代の月宮はサボり癖があったらしい……。
「その代わり時間の許す限りだけど、小さなトレッキングコースというか、周回できる散歩コースを作ってきたよ?」
「まぁ! 海行さんに教えてあげようっと――。あ、はい。お弁当よ?」
魔姫にお弁当を手渡すと紗々羅はタブレットで海行にマナメールをしていた。
しかし強哉と千寿は手渡されたお弁当にくぎ付けであった。
何しろ、魔姫の両腕で重そうに抱える量なのだ。何段あるのだろうかというお重が包まれた風呂敷を憶良が持ってあげると、お昼の時間が楽しみなのか魔姫は嬉しそうな顔をしていた。
「ふふ――ん、海行さんがそろそろ昼休みだから見に行くって言うからこのままデートしてくるわっ」
「じゃぁ、ママ様。お弁当持っていけば?」
「え、でも時間が……」
紗々羅は食べたいけど作りに帰る時間がないし……と残念そうに言うと憶良は魔法で二人くらいがちょうど良い小さめのお重箱を作り出した。
それを手渡すと魔姫と紗々羅は目を輝かせてそれを受け取り、木陰でお弁当から必要な量を取り出してキャッキャと楽しそうに取り分けていた。
「俺、お前のすぐにアイテム作れる理由を知った気がするわ……」
「俺もわかった気がします。確かにあの目を輝かせて嬉しそうにされたら作りたくもなりますよね……って、今度は何を作り出してるんですか」
二人は無反応の憶良に振り返ると、彼は今現在小さな小物を作っていた。
「え、何って……。お重を包む風呂敷と、箸と、おしぼりと……」
「……うわ、この風呂敷可愛いですね。無地と柄付きで……」
「うん、広げたらテーブルクロスになるように作ってみたんだ。姉さんは実用的で可愛いものじゃないと怖……んんっ! 嫌がるからさ……」
そういうと二人の所に持っていくと、さらに嬉しそうな声が聞こえた。
「憶良のアレはあの姉に強いられたせいか……。怖いって言いかけたぞ? アイツ……」
「そうですねぇ……。そんなに怖いんですかね。……でも、学都先輩はただでさえ少ない女子生徒に半端なく優しいって噂ですからね……」
しみじみと話す二人の隣に一人寄ってきたのでチラリと確認するとその人物は副宰相である海行であった。
「紗々羅はいったい何をしてるんだ……」
「内緒ですよ。まぁ、察しの通りなのかもしれませんが」
千寿はクツクツと笑っていると、海行は小さくため息をついた。
「あぁ、なるほど……。まぁ、魔姫が元気に学校行ってるならそれでいいかな……。オーちゃんに女子から嫉妬されないように彼氏風に傍に居ろって言ってあるし? それによって二人とも少しは意識してくれればもっと嬉しいんだけどな」
「無自覚になったのは傍に居すぎとも言える気がするんですけどね」
「ふふ、それは仕方ないんだよねぇ……。天地家と学都家、月宮家は特にあの二人をくっつけたくて仕方ないんだからさ……。あの二人はねぇ、特殊能力が初代女王と宰相と同じ特殊能力なんだよ。男女逆ではあるけれど……。だから初代達が兄妹だったから仕方ないことなのだけれど互いに違う人と結婚したから、俺たちは二人を将来的に結婚させた未来を見てみたくてね」
少しばかり卑怯な手を使いまくって、二人が離れないように周りを固めてしまったんだよね――なんて大人のなんとも言いがたい事情を知った強哉と千寿の二人は遠くの憶良達を見つめていた。
0
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説


あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる