クロニクル~ある日突然国のNo.2になりました~

けいき

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「おぉ、いつの間にか広間が出来上がっている! スゴーイ!」
「マーちゃん。足、靴も綺麗になった?」
「うん。なんかね、魚がいっぱいいるみたいだよ? ここの沼……。でも襲ってこなかったとはいえ、実は魚系モンスターなのかなぁ……」

 そうして憶良の作ったテーブルセットに座ると魔姫は憶良をじっと見つめた。

「そうだ、ねぇ……お兄ちゃん。お母さんに……会えないかな……」
「そうだねぇ、ちょっと海行さんが言うにはまだ駄目みたい」
「そっか……。少し話がしたかったんだけど……」

 寂しそうなその顔に、憶良は今日仕事の合間に俺が顔を出してみるよというと魔姫は少しだけ嬉しそうな顔で頷いたので、この実習の時間もったいないのでそのまま湿地帯に道を作ることにした。
 そうして広い土地の一割ほどの割合であるが、トレッキングコースが出来上がった。

「お帰りなさぁーい。あら、収穫なし?」
「なんか、湿地帯だけでモンスターの確認ができない層だったんだよ……」
「ん――、そこってもしかして遠くに池が見えて、森もあってゲートの半径二十mから先が湿地帯で動けない自然だけって感じの所? 学生の時にツッキーがサボりに良く使ってたところなのよねぇ」

 どうやら学生時代の月宮はサボり癖があったらしい……。

「その代わり時間の許す限りだけど、小さなトレッキングコースというか、周回できる散歩コースを作ってきたよ?」
「まぁ! 海行さんに教えてあげようっと――。あ、はい。お弁当よ?」

 魔姫にお弁当を手渡すと紗々羅はタブレットで海行にマナメールをしていた。

 しかし強哉と千寿は手渡されたお弁当にくぎ付けであった。
 何しろ、魔姫の両腕で重そうに抱える量なのだ。何段あるのだろうかというお重が包まれた風呂敷を憶良が持ってあげると、お昼の時間が楽しみなのか魔姫は嬉しそうな顔をしていた。

「ふふ――ん、海行さんがそろそろ昼休みだから見に行くって言うからこのままデートしてくるわっ」
「じゃぁ、ママ様。お弁当持っていけば?」
「え、でも時間が……」

 紗々羅は食べたいけど作りに帰る時間がないし……と残念そうに言うと憶良は魔法で二人くらいがちょうど良い小さめのお重箱を作り出した。
 それを手渡すと魔姫と紗々羅は目を輝かせてそれを受け取り、木陰でお弁当から必要な量を取り出してキャッキャと楽しそうに取り分けていた。

「俺、お前のすぐにアイテム作れる理由を知った気がするわ……」
「俺もわかった気がします。確かにあの目を輝かせて嬉しそうにされたら作りたくもなりますよね……って、今度は何を作り出してるんですか」

 二人は無反応の憶良に振り返ると、彼は今現在小さな小物を作っていた。

「え、何って……。お重を包む風呂敷と、箸と、おしぼりと……」
「……うわ、この風呂敷可愛いですね。無地と柄付きで……」
「うん、広げたらテーブルクロスになるように作ってみたんだ。姉さんは実用的で可愛いものじゃないと怖……んんっ! 嫌がるからさ……」

 そういうと二人の所に持っていくと、さらに嬉しそうな声が聞こえた。

「憶良のアレはあの姉に強いられたせいか……。怖いって言いかけたぞ? アイツ……」
「そうですねぇ……。そんなに怖いんですかね。……でも、学都先輩はただでさえ少ない女子生徒に半端なく優しいって噂ですからね……」

 しみじみと話す二人の隣に一人寄ってきたのでチラリと確認するとその人物は副宰相である海行であった。

「紗々羅はいったい何をしてるんだ……」
「内緒ですよ。まぁ、察しの通りなのかもしれませんが」

 千寿はクツクツと笑っていると、海行は小さくため息をついた。

「あぁ、なるほど……。まぁ、魔姫が元気に学校行ってるならそれでいいかな……。オーちゃんに女子から嫉妬されないように彼氏風に傍に居ろって言ってあるし? それによって二人とも少しは意識してくれればもっと嬉しいんだけどな」
「無自覚になったのは傍に居すぎとも言える気がするんですけどね」
「ふふ、それは仕方ないんだよねぇ……。天地家と学都家、月宮家は特にあの二人をくっつけたくて仕方ないんだからさ……。あの二人はねぇ、特殊能力が初代女王と宰相と同じ特殊能力なんだよ。男女逆ではあるけれど……。だから初代達が兄妹だったから仕方ないことなのだけれど互いに違う人と結婚したから、俺たちは二人を将来的に結婚させた未来を見てみたくてね」

 少しばかり卑怯な手を使いまくって、二人が離れないように周りを固めてしまったんだよね――なんて大人のなんとも言いがたい事情を知った強哉と千寿の二人は遠くの憶良達を見つめていた。










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