クロニクル~ある日突然国のNo.2になりました~

けいき

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「ちょっと確認してくるよ。学園長が処理したってことはもしかしたら顔見知りかもしれないからね……」

 慌てて走って目的の教室に行くと途中で強哉に出会い、首から下げている笛を吹かれ、「廊下は走るな!」と風紀委員長らしく注意されたのだが面倒くさいのでその風紀委員長を連れて廊下を走った。
 すれ違う生徒は生徒会長が風紀委員長を引き摺る様に引っ張りながらもすごい速さで廊下を走る光景に唖然として見送っていた。

「お、く……ぜぇぜぇ、憶良。なんだっての」

 朝から全速力で走らされた強哉は息を切らしてぐったりしているが、憶良は少し息を乱しているが整えることもなく教室のドアを開けた。

「え、生徒会長?」

 突然の訪問者に教室内は騒然となるが、憶良は静かに教室内を見まわした。
 だが全員見知った顔の為、転校生の姿はない。

 逆に教室内で目についたのが愛知千寿なのだが、今日も薄ら化粧をして制服も改造したかのような女っぽい制服を着こみつつ男子生徒をからかっている姿を確認した。

 だが、思っていた人物はそこに居なかった為に憶良は気にしすぎだろうか――と考えていると後ろから声がした。

「先輩方、そこに突っ立ってると邪魔なんですけど――。もしかして、道を塞ぐの好きなんですか」

 やる気なさそうな声の女の子の声で、強哉が「あ、お前――」と呟いた。
 憶良が慌てて振り返るとそこには十七歳にしては背の低い、小さな女の子がいた。

「憶良、コイツだよ。アメ渡してきたヤツ」
「うわぁ――ん、俺の癒し――。会いたかったよぉ」

 ギュッと面倒くさそうな顔をしている少女を嬉しそうに抱きしめている憶良にざわめきが大きくなる一方、強哉は無言で凍り付いている。

 そうして時間が経つにつれ、彼女の顔は嫌そうな顔に変化したところで強哉が意識を取り戻して憶良を慌てて彼女から引き剥がした。

「強哉、邪魔すんな」
「イヤイヤイヤイヤ、彼女明らかに嫌そうな顔をしたからな? ――ところでお前ら知り合いなの?」

 強哉はまじまじと二人を見ていたが、憶良は彼女の頭をそっと撫でていた。

「確か、万葉強哉さん――でしたか? いつもお話は聞いてます。討伐実習ではバッタバッタとモンスターを火で切り裂くとかなんとか……。私、天地てんち魔姫まきと言います」
「天地ってことは――憶良の姪っ子?」

 強哉の言葉に魔姫と憶良の二人が同時に首を横に振った。

「まぁ、詳しくは言えないですが、私達は血は繋がってません」
「それよりもマーちゃん、なんで学園に転入なんか……。あんなに嫌がってたじゃない」

 憶良はこの大好きな姪っ子ポジションの魔姫が大好きすぎて、学園に誘うも断られ続けたために毎週、毎週通い妻のように天地家に入り浸っているのだった。
 姉も義兄もお前らそんな夫婦みたいに一緒に居るのに付き合ってないとかアホなのか――と、何度も言われていたが憶良は小さい時からの付き合いの為に妹のように可愛がっているーーが、傍から見ると目に入れても痛くないという爺様にも見えなくはない。

「そんなのお兄ちゃんが家に帰ってこないからでしょ?」
「やだ、なにこの子。可愛い」

 せっかく引き剥がしたのにぬいぐるみのように抱きしめる憶良にもう誰もつっこむことはなく、生暖かい目で見つめていた。

  なんだその目は。言いたいことははっきり言えよ……。

 思わず憶良は強哉を睨んでいた。

「ねぇ、お兄ちゃん。とりあえず私に一応、謝ってくれないかな。――うちの子達が兄ちゃん来ねぇ、なんで兄ちゃん来ないのって煩いんだけど……。挙句の果てにママ様にお兄ちゃんが行き倒れてないか様子を見に学園行って来いって言われるし――」

 うちの子=憶良が捕獲したモンスター達なのだが、思いのほか天地家で飼われているモンスター達は良い子なので憶良は兄のように慕ってくれているらしい。そしてどうやら一か月ほど遊びに行かなかったせいでペットのモンスター達に寂しい思いをさせていたらしい。

 今度、あの子達に餌か何か買ってあげようかな……。

 そしてタブレットに届いた姉からのマナメールを忙しさのあまり総無視した結果、姉は卒業生だが学園に入るのにする為の手続きが面倒だったのか娘の魔姫を犠牲にしたということなのだろうか……。
 自分に言わせれば書類を書く量を考えたら魔姫の転入よりも姉が来校する方が手続きとしては断然楽である。

「あのね? 前も言ったけどさ、私は基本的に家の外には出たくないんだけど……? しかもこんなジャラジャラしたのをパパ様に着けさせられてさ……。正直、体が重くて重くて仕方ない――」

 言われてからよくよく見てみれば魔姫の耳には紫色をした石のイヤーカフス含めてピアスが両耳に五個ずつついていて、両腕にも五個ずつのゴッツイ系な腕輪をしていた。

 そのアクセサリーを見た強哉は呆然としていたが、いつの間にか傍にやってきていた千寿も唖然とした顔だった。







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