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第10章 そこのけそこのけ男の娘が通る
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しおりを挟む「アンリー! ユリアーン! お野菜切って~っ!」
「あれ? ひー様は切らないの? それはまた珍しいこともあるね。……もしかして何かやらかしたの?」
ユリアン、お前もか!
別にやらかしてはいないと思うんだ。
ただいつもみたいに率先して野菜を切らないのかと聞かれれば「うむ、切らぬ!」と答えるしかないと言うか、何故か包丁は勿論の事。ハサミやぺーパーナイフすら持たせてもらえない今日この頃。
密かに持って作業しようとすると、どこからかヨハンやローラがやって来てスパンっと手を軽く叩かれて刃物を奪われるのよ。
んでもってハサミやペーパーナイフはゼノさんとミリアムが一つずつ持ち歩いている。
包丁に関してはプレイルームに小さな金庫が置かれまして、刃物など危ないものはそこに入れられ、そしてなぜか鍵はヨハン。スペアはローラに奪われた。
ミドリちゃんは異次元な倉庫で冬眠してるので奪われてません。
そして奪われたとしても自力で戻ってきてくれそうだから心配もしてない。
え? 過保護な理由? うーん、まぁ、生活してたら一回は体験するだろうあるあるネタだと思うんだけどさ?
気を抜いてふとした瞬間に置いておいた包丁に触れたら床に落ちるってやつ。
ただ俺の場合は運悪く刺さるように床に落ちた現場をヨハンに見られたからですがなにか問題でも?
いやぁ、床に刺さった包丁が拗ねたのか、これがまたなかなか抜けなくてね。
伝説の勇者にしか抜くことが出来ない伝説の剣なのかなぁ~……とか思いつつも一生懸命引っこ抜こうとしてるところを見つかったのよ……。
俺の事をちゃんと見張ってなかったゼノさんとミリアムも一緒に頭に拳骨されてたよ。
もぉ、誰だよ! プレイルームのキッチンの床を柔らか素材にしたやつ……。
俺だよ。
……もぉ、ルカのバーカ、バーカ! と脳内で遊んでみた。
アンリとユリアンを羨ましそうに見つめるその他大勢の料理人なんて無視して用意した玉ねぎ、ニンジンとセロリを適当に切ってもらう。
「姉ぇ、沸かすのに時間がかかるから熱湯チョーダイ?」
「はいはい」
そして水をもらって綺麗に洗い流し、鍋をさらに綺麗にクリーンをかけてから水をたっぷりともらった。
もちろんそのまま飲んでも美味しいお水です。
スネ肉の塊は好みではないので野菜より大きめに切ってもらい、刻んだ野菜と共に煮込むことにした。
「アンリ、ユリアン。あのね? 鍋がグツグツ、ボコボコしないように気を付けながら三時間くらい煮こんでもらえるかな」
「え、そんなにっ!? ひー様、それって本気で言ってる?」
「うん、本気で言ってるよ。それくらい煮込まないと美味しくならないんだから仕方ないじゃない」
はっきり言えばそれくらいの時間をかけて煮込まなかったらただの野菜の水煮なんじゃないだろうか──あ、この世界にコンソメの素がないのに煮込まないからいつも野菜がたくさん入ってるわりには物足りない塩味のスープになるのか!
旨味になる前に皿に盛って飲む! 的な?
あれ? そう言えばリンゴを使ったお酒って無かったっけ?
梅酒的な果実酒のやつじゃなくてワイン的なやつ。
一人でうーん? うーん……と唸っていたらヨハンに抱っこされた。
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