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第1章 気がつけば異世界
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しおりを挟むとりあえず助けてもらったわけだし、「ありがとうございました」と改めてお礼を言ってからペコリと頭を下げた。騎士ってことは貴族なのかな……。大体のゲームやラノベは騎士は貴族って言うのが鉄板。下っぱなら平民上がりもいるくらいだろうけど、それってちゃんと騎士なのかな。兵士扱いな気がするよ……。
うん。死にたくはないし、殺されないためにもここは大人しくしてるのが吉だよね!
そして連れてこられたのは村もしくは町の端っこっぽい場所。少しばかり歩き、森もしくは林の中で木々の間からは少し離れた家々。つまりは集落が見えた。何て言うか、教科書の資料集によくある農村……? 可愛いサイズ感の石造りで、屋根は茅葺きみたいな感じ。
え、ココは本当にどこなの? 何て言うか完全に森の中……だよね?
うわぁ、あからさまな程の真っ赤な木の幹とか初めて見た! 妙に刺々しいと言うか、針みたいな葉があるし……。もしかして赤松とか言わないよね……。
【レッドパインだよ】
成程、英語で格好よく言ったけどやっぱり赤松なんじゃないか! 赤松の幹ってそんな毒々しい赤じゃないと思うんだよねぇ……。あっ! でも赤松なら松茸、松茸だよね! 食べたい! 周囲の木々というか、葉っぱが黄色や赤といった色とりどりで何だか明るいし、絶対に季節は秋だし……。
松茸……。松茸はどこっ! どこなのっ!?
【残念無念! シーズンは終わっちゃったんだよね~……】
まぁーじぃーかぁーっ! でも1つくらい残ってるんじゃ!?
それにしてもナレーション付きとか本当に親切な夢ドラマだよねぇ……。あ、そっか。これは朝ドラ的な流れっ? この声はお祖父ちゃんは生きてるから、まさかのひいお祖父ちゃん!?
【ちょっ……俺は独身なんですけどっ!?】
あらま、それはどうもすみません。そっか、身内じゃないのか……。でも朝ドラって大抵は主人公の身内がナレーションしてる気がするけどなぁ……。
【はぁ……。朝ドラでもなんでもないから!】
…………ん? いや、一応は夢の世界ってオチなんでしょ? でも土の感じも木の感じも明らか本物のソレで……。だけど記憶の中でではあるがやはり見たことのない樹木や草花。見たことがあってもカラーバランスがなんか変。ビビットカラーで目が疲れちゃう──そんなカラーバランス。
そして周囲を見渡せばゲームやアニメみたいなこちらもカラフルな髪や瞳の色。服装や遠くにある甲冑だって西洋の中世のようで現代のような──。どうやって作ったんだろうか……。
ゲームやアニメ、ラノベみたいな……そう、ファンタジーみたいな! コスプレイヤーに囲まれてると何て言うの? 超楽しい!
「顔色が悪いみたいですが大丈夫ですか?」
あれ? 俺、楽しいって思ってたんだけど……。顔色が悪いって、俺がただのもやしっこで色白なだけじゃないのかなぁ……。
「……あ……あの、ココはどこ……ですか?」
「…………え? ──えっと、そうですね。ココはフォーリア魔法公国です。それよりも目の下にクマが出来てますよ? それにこんなに痩せて可哀想に……」
…………なんかゴチャゴチャ言ってるけど寝よう。いや、そろそろ起きよう──なのかな? なんか俺の知ってる泣けるゲームと同じ名前を使ってるよ?
ストーリーが凄く感動とかでは一切なく、最初からどん詰まりして無理ゲー過ぎて泣けるゲーム。ネット上のクソゲーランキングの上位に入っているくせに、なぜか攻略するのに燃える人が続出で人気もあるらしい。
キャラクターに有名な声優さんもたくさん使ってるし、なにせイケメン揃いだし……。意外な一致をしていたせいでビックリして俺は木の根に足を引っ掻けて、先程から心配してくれているお兄さんの胸当てにガンっと額をぶつけた。
「いっ……たぁ────いっ!?」
「あぁっ! だ、大丈夫っ!? うわぁ、赤くなっちゃって可哀想に……。向こうで冷やそうね? さ、行こうか……」
お兄さんは慌てて俺を軽々と抱っこして歩き出した。
これはどう言うことだ! 痛い。めっちゃ痛い! ぶつけた額はふっくらと膨らんで、たんこぶが出来た! 夢の中で痛いと言うと……。
こ、これはもしや夢ではなくラノベ的なやつなのではっ?
最近主流の設定その1・トリップ。
マジか! 俺、トリップしちゃったっ!? しちゃったのっ!? ラノベ天ぷらいや、テンプレ展開? え、マジで?
……イヤイヤ、果たしてこれは本当に喜んでいいのだろうか──。
だって、トリップしたと仮定してみよう。んで、もしトリップしたとしたらさ? ここはプロローグが終わった序盤でどん詰まりするクソゲーの世界だよ? なんかもう先行きというか、お先真っ暗。終了のお知らせだよね。
そう言えばさっき視界の片隅で見ないようにしてたけど血にまみれたある種スプラッタな死体が部屋の中に転々と転がってたような……。
あは、あはは、精巧にできた蝋人形と思いたい。もしくは血糊を塗りたくった狸寝入りしている人──。
…………現代みたいにいくら悪人だろうが殺人はダメって世界ではないんだろうな、きっと……。あぁ、平民の、庶民の命の価値が低い世界かぁ──。
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