60 / 475
第2章 新生活スタート
24
しおりを挟む「ルカ、日を改めてこの森に連れてきてあげますから今日のところは大人しく帰りなさい。父上達が心配しているでしょうから、ね?」
日を改めて連れてくるというのは、どうやらグレン兄さんの精一杯の譲歩らしい。うん。まぁ、確かに仕事中に乱入してるもんね、俺……。邪魔と言うか立ち入りを禁ずるというのは仕方ないことだよね。解る、解るよ。でもゴメンね? 俺、手ぶらで帰るのは時間の無駄すぎて嫌なの~っ! 日を改めて取りに来る時間を別のことに使いたい。強いて言えば移動時間すら勿体ないのよ。お願い、理解して(笑)的な?
「……でもっ、でもぉ~っ! 僕にとっての宝の山が目の前に! そこら辺の金持ちのおば様でいう宝石と一緒なの~っ! 行くったら行くのぉ! 採取するったらするの!」
兄さんのものは俺のもの! 俺のものは俺のもの! あれ? なんか違うな……。そこら辺の雑草という名のハーブは俺のもの! ……か? とりあえず雑草という名の植物などない! うん、これ鉄則! 俺は心のなかで頷いた。
「あー、もう! 兄弟ゲンカするな! グレン、前みたいに俺が怪我しないようにルカにちゃんと付いてるから……。お前は討伐に行け。報告はちゃんとする。詳細に報告するから! それとルカ、森に入るのは午前中だけだぞ。昼になったら絶対に帰るんだぞ。いいな?」
「はーい!」
その時間だけで全然OK! 無問題! 俺にはマップルマップル~っ! がついている。手に入れてないものを最短距離でピックアップしてくれる優秀なマップルさんが俺にはいるのです! よっしゃ、やるぞぉ~っ!
◆
……な、のですかその前に! やらねばならぬことがある!
「ルカ、お前は何をしたいんだ……。あれほど採取採取と喚いていたよな」
「えーっと、とりあえずこんだけ離れれば良いかな?」
お泊まりした野営地から離れた木の影で昨夜のように土で壁を作ってテントみたいな風避けを作った。もちろん一酸化炭素中毒にならないように穴もそれなりに空いている。でも明かり取りにはならないので照明代わりのライトという魔法を使って外と同じくらいの明るさにして手元がよく見えるようにした。それからというもののゼノさんは俺が収納持ちというのを知っているのでそこは気にせずにム・ゲンさんから色々と道具を出した。
「…………ルカ……。あのな? お前はちょっとは人の話を聞け?」
「んもぉ! 午前中しか時間無いから早く終わらせたいの! 採取したいの! だからゼノさん、早く火をつけて! 早くぅ! 時間が刻一刻と無くなるでしょ!?」
捲し立ててマシンガンのようにあーだこーだ言っていたら小言をいうのを諦めたのか魔法で火を起こしてくれた。ゼノさんがいなければライターとタバコで調理開始してたのは言うまでもない。それからは手早く鍋に兄がコピーしたワインを複写したものを適当に入れて手持ちのオレンジとリンゴ。シナモンにカルダモンと言ったお値段の高いスパイスを入れてグツグツ煮込み始めた。
「なに作ってんだ? ワインに……」
「今日の夜、絶対に寒いからホットワインを作ってるの!」
火のついた枝を手にもって鍋に近づけるとワインに残っていたアルコールを一気に飛ばす。おぉ、なかなかの量が残っていたのか鍋のなかは一気に火の海。あれ? ちょっぴりゼノさんが引いてないか? おや? もしかしてこんな調理方法はないということか? うむ、僕たち二人の秘密だね! とか気を利かせて言うべきなのだろうか……。
「おいおい、しかもその木みたいなのはシナモンじゃないのか? 高級品だぞ! なにそんな勿体ない使い方してんだよ!」
「ん? あぁ、複写したからいっぱいあるよ、大丈夫。それよりも、ねぇ? ゼノさん。ゼノさんから見て第四騎士団の面々ってさグレンさんを……。団長のグレン兄さんをどう思ってるの?」
鍋をかき混ぜながら言うと変な間を開けてから優しく頭を撫でられた。なんと言うか彼の返事の内容によっては俺もやり方を考えねばならん。
「お前はほんとにブラコンだな。ナイトリンガー殿下も心配するわなぁ……。うーん……。そうだなぁ、アイツらは正直な話、心配はいらねぇよ? グレンが団長の就任の時はそりゃ何かと色々あったが結局騎士団は戦う術は魔法じゃないからな。今はグレンを慕ってるやつばかりだぞ」
「うーん。じゃあ、例えば兄さんが騎士団をやめたらゼノさんはどうするの?」
その返答は「別にどうもしない」の一言だった。どういうことかな、と聞いていればグレン兄さんの団長を辞める理由にもよるそうだ。例えば自分本意。つまりは一身上の理由なら辞められそうもないけど、不本意な理由でやめさせられた場合は抗議の意味でゼノさんとアンドレアさんは一緒に辞めると思うし、数日前に話していた状況ならばこの二人は領地についていくから必然と辞めるだろうなとのこと。
「でもアイツらはアイツらでそれぞれ家族や生活って言うものがあるからどうかなぁ……。いや、付いてきそうな気もするなぁ……。もし辞めることを前もって教えれば家族を先にランドルフ領地に行けと指示して本人は飄々と俺達についてきそうな気さえする」
あぁ、グレン兄さんは貴族みたいなバカっぽい色眼鏡では見られていないみたいでよかった。最初の頃はさすがにあったみたいだけども……。
「あー、そうなんだ……。じゃあ、僕も安心してやれるかな」
ホットワインが出来上がったのでとりあえずゼノさんに味見してもらうと「何これ、スゲーうまい!」とほめられた。よし、完成! 熱々を兄からもらった紙コップに入れてフ・クセイさんに預け、しばらく土の上に置いて鍋を冷ましていたがだいぶ温くなったので液体を皮袋にしまうとそのまま更にフ・クセイさんに預けた。これでいつでも飲めるはず!
「コピー……。えーっと、複製したら俺が帰る時に渡しますね。今日の夜は本気で寒くなると思うし、寒くなった時にでも温めて皆で飲んでください。それだけでも暖まるはずなので。あとアルコールは飛ばしてあるから酔わないはずですよ? たぶん……。吹き付ける風がひどくなったら土の壁でも出して風避けしてくださいね?」
……っていうかさ? 布のテントなんて使わないで魔法でテント作ればよくない? とはあえて言うのはやめよう……。悲しくさせたくないし──。どちらかと言えばこの国で流行らせたくなどない。俺はせっせとクリーンを使って鍋などを片付け、土魔法のテントも解除した。
残りの時間は全て採取! ゼノさんはなにか言いたそうだったけどガン無視をして時間の許す限りハーブや食べれるキノコ、木の実を取りまくったのは言うまでもない。
25
お気に入りに追加
3,566
あなたにおすすめの小説
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

どうしてこうなった?(ショートから短編枠にしたもの)
エウラ
BL
3歳で魔物に襲われて両親を亡くし、孤児院育ちの黒髪黒目で童顔のノヴァは前世の記憶持ちの異世界転生者だ。現在27歳のCランク冒険者。
魔物に襲われたときに前世の記憶が甦ったが、本人は特にチートもなく平々凡々に過ごしていた。そんなある日、年下22歳の若きSランク冒険者のアビスと一線を越える出来事があり、そこで自分でも知らなかった今世の過去を知ることになり、事態は色々動き出す。
若干ストーカー気味なわんこ系年下冒険者に溺愛される自己評価の低い無自覚美人の話。
*以前ショート専用の枠で書いてましたが話数増えて収拾がつかなくなったので短編枠を作って移動しました。
お手数おかけしますがよろしくお願いいたします。
なお、プロローグ以降、途中まではショートの投稿分をまるっと載せるのでそちらと重複します。ご注意下さい。出来次第投稿する予定です。
こちらはR18には*印付けます。(でも忘れたらすみません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる