クソゲーの異世界で俺、どうしたらいいんですか?

けいき

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第2章 新生活スタート

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「ん……」
「……カ、起き──」

 誰か呼んでる……。この声、好きだなぁ……。兄とはまた違った優しいトーンの声で好き……。イケボ~……。落ち着くわぁ……。

「──カ。ルカ、起きなさい」

 ん、温かいからこのままがいいのに……。そんなに揺すらないで欲しいな……。ん、ママ……。それにグレンさんの声が聞こえるような……。
 目を開けると目の前というかグレンさんにペトッと密着した感じだった。あ、もしかして抱っこしてくれてるのかな──。

「う、ん……。グレンさん……?」
「ルカ、スヤスヤと気持ち良さそうに寝ていたところすみませんが、一大事です。起きなさい」
「ん……?」

 うーん? なんかグレンさんの声がする気がするのだが──。俺としてはまだまだ眠くて寝ていたいけど、また昨日みたいに目前で逃げられたくはないからギュッと抱き付いて背中の方の服を掴んだ。やっぱり逃げられないようにするにはちゃんと捕まえておくのが鉄則だよね……。同じ轍を踏むのは嫌だし……。ギュッて掴んだし、少し寝よう……。久しぶりに泣いたから疲れちゃった──。

「ルカ、今日は逃げませんから手を離しましょうね? あとでちゃんとルカのオハナシを聞きますから……。ね? しっかり起きましょうね?」
「やぁぁ~~だよぉ~~……」

 そのまま寝に入ろうとすると容赦なく起こされた訳なのだけれど──。起こされた理由。グレン兄さんの言う一大事の内容はこうだった。
 パパがお仕事でお城へ行ったのは良いとして、問題なのは艶々な髪。油を塗って艶を出すこともあるが、その場合サラサラしているのはまずあり得ないのだそうだ。でもお風呂がないんじゃなぁ……とポツリと呟いたらママがお風呂ならあるわよ? とそりゃもうあっけらかんと言われました。──え、じゃあ何であの時グレンさんとゼノさんは顔をしかめてたの? そう聞くとグレンさんはため息をついた。

「ルカ、お風呂と言うものは貴族でも贅沢品の一つなんですよ。個人で持つには金に余裕のある貴族や大商家が持てるかなり高価なものなのですよ。なので庶民にはあまり馴染みがないはずなのです。高級な葉巻や香水と同じく嗜好品みたいな物ですからね」

 あら、俺ったらどっかの貴族。もしくは金持ちの坊っちゃんが家から追い出されたか捨てられたと思われてたらしい。そう言えば食べ方とか色々凝視されてたわ……。ゼノさんに! なるほど、あの時の紅茶のマナーもテストと言うか似たようなものか……。

「うーん、この家にお風呂があるならなんとかなるかも……」
「ルカちゃん、大丈夫なの?」
「そうですね……。少し作るのに時間がかかるかもしれないので人がやって来たら試作品だったと説明してもらえますか? 特に髪の痛みがなかったからすぐに艶が出たのだと……。そして髪が痛んでいたら痛んでいるだけ時間がかかるとも……。あと、その商品を作るにあたってリンゴを多目に用意していただけると……。あとはハチミツですかね。特にリンゴと大きめの壷は二つほど至急欲しいのですが用意できますかね……。坪は同じ物で、尚且つクリーンをかけて綺麗にしてもらえると助かります」

 兄が側にいたら俺の無茶な言い訳に「んな訳ねぇ~っ!」と笑い飛ばすだろうが、この世界には現代のようにヘアケアなんてものは存在しない。髪を切ったとしてもそこまで技術もない。エステとかあるのに変なのっ! さて、ヘアリンスを作るのに必要なのはあとは確かカモミールだったな……。

 フ・クセイさーん! カモミールを一瓶を残して全部複写して~っ!

【わかったのでアール】

 カモミールは万能なので乾燥させたものをたくさん複写したあとビンに積めて満タンにしていた。

「それだけでいいのかしら?」
「えーっと、加工しないといけないんです。きれいな水に、切って少し放置したリンゴを漬けてリンゴ酢にし、カモミールという薬草の一種ですかね。カモミールを濃く煮出したものにハチミツと混ぜ合わせて髪と頭皮に揉み込むようにして少し時間をおいてから洗い流すのです。ただし作ってから数日の間に使い終えないといけないので、日持ちがしないがゆえに試作品というか……」
「ルカは本当に物知りなのですね……」

 グレンさんは苦笑いをし、ママは扇子で口は隠しているので全体はわからないけれども目元はニコニコしていた。ミリアムやヨハン達侍従や侍女はビックリという感じだろうか……。

「なので、ちゃんと綺麗になるか髪が艶々していない誰かに被験者として体験してもらいたいんですよね~っ!」

 え、だってテスターって必要でしょ?

「そうね。綺麗になるのか実験は必要ね。使っているものは薬草とか言うもの以外は身近なものだし、危険はなさそうだわ。ローラ、口が固くて一番髪がパサついてる人は誰かしら」

 ママったら最後のパサついてる云々はなんか本人が耳にしたら傷つくようなことをストレートに言ったなぁ……。

「……トーマスですね。外に居すぎて乾燥してます。パッサパサでございます」

 ローラもローラで結構辛辣だな! てかそこまで言わせるトーマスの髪はどんだけ痛んでるのさ……。真顔で即答だったよ?

「そう……。ルカちゃん、作るとしたらどれくらいで出来るのかしら」
「リンゴ酢はコレから作るので大体半年程かかりますねぇ……。ですが簡易的でいいのなら家にある手持ちの酢でも代用が出来ます」

 あ、そう言えばリンゴ酢を作るならリンゴ酢ジュース飲めるな……。おおっ! やった! あれ好きなんだよね~っ! ──あれ? 俺ってこんなことするために異世界に来たんだっけ? そう言えばミドリちゃん渡されてこっちに来て何するの? ミドリちゃんで自分の身を守りながら料理無双して人生謳歌すればいいわけ? そんなこと言ったら世界各地のハーブを集めてハーブティーを普及させちゃうよ?


 雑草でガッチリマネー! 元値ゼロから始める異世界大富豪への道。


 あ、それ良いな!

【……辞書るです。……違うとは必ずしも言い切れないけど時期が来たら俺がアナウンスしてあげるよ……。取り合えず乗馬を特に頑張れ!】

 お、おぉ! 辞書るさん、出来れば数日前からよろしくお願いしまーす! あと、乗馬ですね? 了解です! と、辞書るに返事をしている間に開始は明後日からにしましょうとなった。

「さて……。に、い、さ、ん! 僕、兄さんにOHANASHIがあるんだけど……」
「はい、そうでしたね……。部屋で話しましょうか……」




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