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第1章 気がつけば異世界
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しおりを挟む「なぁ、お前さ? さっきから何なの? 兄さんが優しいからそれに甘えて好き勝手言ってるけどさ……。パパと話してた人が言ってたの聞いてなかったの? 一向に構いませんが、代わりの人を用意していただけますか? って言ってたよね? 募集して試験するの面倒だからパパに代わりの人を見つけてくれればすぐに引き渡すって意味でしょ? 嫌みしか言えないのならお前のあだ名は今日から『イヤミ』になってしまえ! そしてイヤミは今日から一ヶ月、怪我が治りにくくなってしまえばいい!」
と、珍しくたくさん喋った俺は勢いのまま名前の知らない下っぱA。俺命名イヤミに対してビシッと人指し指で勢いよく指して言ったらよくわからないが指先からなんか光が出た。
あれ? ちょっと体から少し何かが抜けるような感覚が……。貧血? 目眩? なんか気持ち悪い……。
体が振らついたところで側にいたグレン兄さんに抱き止められたので思わずホッとしてしまった。
「ルカ、大丈夫ですか? 何かの魔法を使ったみたいですけど……」
「うぅ……。もう帰るぅ~っ! ねぇ、帰ろう? 帰りたい~……。こいつ──じゃないや、イヤミの近くにいたくない」
そんなことを言いつつも、俺はこれ以上ここに居たくはないし、血圧が急に下がったみたいな目眩にちょっぴり吐き気という良くわからない体調なので「グレン兄さぁーん、抱っこ……」と腰にぎゅーっと抱きついてねだれば、彼は仕方ないなぁと言いたげな顔をして俺を軽々と持ち上げた。やっぱり体格差もあるだろうけど力持ちだわぁ~……。ゴテゴテした鎧ではないけど武装して重い剣を振り回してるんだから力持ちなのは当たり前か……。
「くすくす、今日のルカは何だか甘えん坊ですね。では用は終わりましたし、家へ帰りましょうか」
「うん! あのね、兄さん。俺、後でオハナシがあるんだ~……」
逃がしませんと抱きついて機嫌良く笑っているとパパに良くやったと頭を撫でられました。そしてママにはルカちゃんはお兄ちゃんっ子ねえっ! と褒め……いや、萌えられました。俺、ブラコンと周囲に認知されそうです……。いや、確実に認定された気がします。まるで呪いのような言葉と言うか、魔法をイヤミに使った気がするし……。そうして俺はまたもやウォルター家に舞い戻って来た。またもや、と言うのも変かな。ここが俺の新たな家なのだし──。
◆
「では、父上、母上も。私は騎士団寮に戻りますのでルカをお願いしますね? ルカ、非番の時には帰ってきますから良い子にしているんですよ?」
オハナシがあるっていったのにグレンさんは俺を床に下ろすと足早に去っていきました。いや、オハナシがあると言ったからこそ逃げたのか? くそぉ~……。気を許して手を離すんじゃなかったな。
「ちょっとぉ~っ! 兄さんっ、グレンさんっ!」
笑顔で手を振って寮へと帰られました。
にーげーらーれーたーーーーっ! でも、………………そう簡単に逃げられると思うなよ? コノヤロウ。俺、覚えてるんだからね! 一人憤慨していると後ろからクスクスと楽しそうだが品の良さそうな笑い声が聞こえた。振り向くとパパとママが微笑ましいと言いたげな表情で立ってました。
「さぁ、ルカ。君の部屋へ行こうか。足りないものはすぐに言うんだよ?」
「ルカちゃん。なにせ急拵えだったから欲しいものがあったら言って頂戴ね?」
部屋に案内されるとなんと言うか広かったです。確かに邸の外観は写真集などで見るマナーハウスっぽい。凄かった。イギリスの宮殿って言われても納得しちゃいそうなほどに大きく、部屋は──うん、女の子憧れの調度品だわ……。所謂アンティーク家具と呼ばれる物。そしてクローゼットには手直ししたらしい元グレンさんの服達がズラリと並んでた。
あの服たちさ? 着せ替えの時にママに「新しいお洋服も買いましょうね」って言われたんだけど……。この服たちはまだまだ綺麗だし? 直せば着れるでしょ? たくさんあるし、お金勿体なくない? だから俺、言ったんだよね~……。新しい服よりも兄さんの着てた服のが良いって……。そうしたらママとメイドさんにお兄ちゃんっ子って誤解されたのよな……。たぶんこれ、魔導師団行っている間にせっせと直してくれたんだと思う……。
「ルカ、欲しいものは無いのかい? 今日から私たちは親子なんだ。遠慮なく言ってくれて構わないんだよ?」
「できる範囲のものになってしまうけど、言って頂戴な!」
え、ミニキッチンが欲しいって言っても良いの? 無理でしょ? あ、理由をつければキッチンを貸してもらえるのかな……。野営の時の味思い出すと食欲がわかないんだよねぇ……。
「あ、あの……。俺、小さくて良いのですけど、自分用の調理場? が欲しいです……」
「えっと、ルカ? それは何に使うのかな」
「あの……。更に少しでも懐が潤う様に特産品の開発とかしたいなって……」
嘘です~……。クッキーが食べたくなったんです~……。コーヒーも飲みたいんです~……。プリンとか色々と……。美味しいものに飢えてます。飢えているんです! 助けると思って、キッチンを作ってくれないだろうか──。
「あぁ、そう言えばグレンがルカは絶対に我が家のためになりますって弟にするのに力説してたねぇ……。手紙で」
え、手紙で力説して良く信じたね、パパン。昨日、遠征から帰ってきて話す暇あったの? だって昨日の今日だよ? 普通なら素性を調べ──てたの居たわぁ……。半月ずっとそばで見られてたわぁ……。何故か戦えば強いのに討伐に絶対に行かないゼノさんに、少し恥ずかしいけど初めて見る草を千切って匂いを嗅いだり、木をペチペチ叩いたり、虫を棒でつついたりしてるのいろんな所で観察されてたわぁ……。んでマップルマップル~っ! で食べれるキノコ狩りしたり、木の実集めをしました。んでもって明らかに毒キノコと言うのを見つけたので棒でツンツンしようとしたら本気で怒られました。胞子が飛んだらヤバイらしい。あとゼノさんが目を離した瞬間に根っ子ごとム・ゲンに押し込んで各地のハーブを集めました。今手元にあるのはローズマリー、カレンデュラ、ラベンダー、タイム、ミント三種、カモミール、ヒース! 花系が多いけど個人的にはタイムとミントがあったのは嬉しい。
「じゃあ、交換条件でどうかな。ルカに小さなキッチンを作ってあげよう。その代わりにルカはウォルター家の領地などを含めてキチンと勉強する。学校はおいおい考えようか。なんだか行かなくても良さそうな気もするのだけど……」
「わかりました」
「じゃあ、明日から家庭教師が決まるまでは執事に見てもらおうかな。彼は厳しいからね? 覚悟するんだよ?」
はーい……。そう返事したものの俺の頭ではそっか、厳しいのかぁ……。うーん……。でも何とかなるでしょ。楽観的に考えていた。とりあえず夕食の時間らしく、またもや着替えをさせられた。てかさ、昼の時に思ったけど、食事の度に着替えとか……。これ、マジ無意味……。確かにマナーなのだろうけど、俺としては無駄な時間だと思う。郷に入っては郷に従えという教えの通り従うけれども──。
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