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4.エピローグ
第42章 エピローグその②
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それから数日後、クラウディアがマール王国へ帰る日がやって来た。見送りには皇帝を始め、家族全員集まった。リリーはぐずぐず泣いているし、ティムも寂しそうにオリガ夫人にしがみついている。
「私たちの疑いを晴らしてくれて本当にありがとうございました。またいつでもいらして来てくださいね」
「マックスも一緒だよ!」
マクシミリアンがクラウディアと帰国日を合わせるために、アッシャー帝国に残っている間は、ティムの良き遊び相手となっていた。その結果、ティムは3人目のマックス呼びとなった。
「うう……ひっく……クラウディアがいなかったら今頃私……本当は心細くて仕方ないの。でも頑張るわ。マクシミリアン殿下とお幸せにね」
リリーは顔をぐしゃぐしゃにして泣いている。クラウディアは「リリー様なら大丈夫ですよ」と優しく声をかけた。
ロジャーも来ていた。いつもと変わらぬ元気な様子だったが、クラウディアを見ると少し声を落として言った。
「父上に俺のことかばってくれたんだってな。あれから謝られて……一瞬何が起きたのか分からなかったよ。それからお互いじっくり話し合ったんだ。ここまで腹を割って話したのは初めてかもしれない。父上も歩み寄ってくれて家族で夕食を摂る回数を増やすことにしたんだ。いきなりは無理だけどだんだんいい方向に向かっていくと思う。ありがとな、クラウディア。恩に着る」
「二人で何こそこそ話しているの?」
マクシミリアンがにゅっと首を突っ込んだ。
「マックスに愛想尽きたらいつでも俺のところに来いって言ったんだよ。俺はいつでも待ってるからな」
「それは1000%ないから安心してよ」
マクシミリアンは胸を張って言った。いつの間にかロジャー相手にも軽口をたたくようになり、物怖じしなくなっていた。
最後に皇帝が二人の所にやって来た。
「今回は二人にとって災難続きの滞在だったことを心よりお詫びする。それにも関わらず、恩ばかり受ける形になって感謝してもしきれない。子供たちの表情も明るくなって私も家族と正面から向き合う勇気が出てきた。この恩は別の形で返させてもらう。本当にありがとう」
皇帝も心なしか穏やかな表情をしていた。するとマクシミリアンが懐から何かを取り出した。
「そうだ、これを皇帝陛下にお渡ししようと思ってずっと忘れていました。最後になって申し訳ありませんがお受け取り下さい。母上の遺品の中にあったものです」
それはペンダント型のロケットだった。皇帝が蓋を開けると幼い頃の兄妹の写真が入っていた。
「家でくつろいでいる時はこれを身に着けることが多かったそうです。父から聞きました」
皇帝はマクシミリアンを真正面から見据えたままロケットを胸に抱きしめ、小声で「ありがとう」と呟いた。
「いつかマール国王とも会談しなければな。シンシアのことをいつまでも引きずるわけにいかない。私もやっと一歩踏み出す気持ちになれたよ」
こうして盛大に見送られながらクラウディアたち一行は帰国の途に着いた。列車が間もなく王都の終着駅に到着しようという時、クラウディアとアンのいたコンパートメントにマクシミリアンがひょいと顔を覗かせた。
「ねえ、ちょっとクラウディアと2人だけで話をさせてよ。着いたらそれどころではなくなるから」
「わっ、私はクラウディア様をお守りするためにおりますので。もちろん殿下からも!」
「僕が何するって言うのさ、ねえ、クラウディア?」
いや、今のお前は本当に何するか分からないだろとクラウディアは内心突っ込んだが、「アン、ちょっと下がって」と小声で指示した。アンはふくれ面になりながらも「少しだけですよ」と席を立った。
「色々あったけどアッシャー帝国に行ってよかった。今まで放ったらかしにしていた宿題を一気に片づけた気分だ。その……楽しいことばかりじゃなかったけど……」
マクシミリアンはクラウディアの隣に座るとしみじみした口調で言った。晴れ晴れした表情を取り繕ったが、どうしても一抹の寂しさを隠しきれなかった。
「殿下、いいんんですのよ。ここにはわたくししかいませんから」
クラウディアは優しくそっと囁いた。それを聞いて安心したかのようにマクシミリアンはクラウディアの肩に頭を持たせかけた。
「シーモア夫人とはきれいな形で別れたかった。でもそれは虫のいい綺麗ごとだったんだな。彼女の中では全然終わってなかった。あそこまで暴走させたのは僕のせいかもしれない……」
マクシミリアンは自分に語り掛けるように呟いた。
「殿下が責任を感じる必要はありませんわ。全てあの人の選択の結果です。ならぬものはならぬ、ただそれだけです」
「クラウディアは強いな……やっぱり君がいないと駄目みたいだ……」
マクシミリアンは弱々しく微笑んだ。
「地下水道で、どうして僕のこと今更利用する気になったんだと聞いたんだ。その気になれば僕を洗脳することだってできたのに。マール王国を憎むように仕向けてアッシャー帝国の色に染め上げれば、計画はもっと簡単なはずだった。答えを聞く前にあの人は逝ってしまったけど、最後に『このまま』と言いかけていた。その意味をずっと考えていたんだ。もしかしたら、ずっとこのままあの場所で変わらぬ生活をしたかったのかもしれない……愛する母上の忘れ形見をそばに置いて静かに生きたかったのかもしれない……そんな気がしてならないんだ」
マクシミリアンは顔を伏せたままクラウディアを横から抱きしめた。その状態のまま話し続け、話が終わると抱きしめる手に力を込めた。クラウディアは無言のまま彼の腕に自分の手を添え、しばらくそのままにしていた。マクシミリアンの考えていることが、クラウディアには分かるような気がした。人は生きているだけで誰かを傷つける存在だ。そのことを認めるのは非常に辛い。
一体どれ位の時間が経っただろう。マクシミリアンはクラウディアを放して真っ直ぐ向き合った。
「ありがとうクラウディア、もう大丈夫。もうすぐアンが帰ってくるから早くしなくちゃ。駅に着いたら暇がないから今のうちに言っておく」
そしてコホンと咳をして一息置いてから言った。
「僕のお嫁さんになって下さい」
クラウディアはぱちくりと目を瞬いた。
「えっ? 今まで散々婚約者も同然とか言ってたじゃありませんか……」
「冗談ぽく言ってなし崩しになるのは嫌なんだ。ちゃんと真面目にお願いしたい。答えはイエス? ノー?」
「急かさないで下さい! ……そんなの……イエスに決まってるじゃないですか」
急に改まって言われるととても恥ずかしい。クラウディアは視線を外してもじもじしながら小声で言った。
「ありがとう!」
返答を聞いたマクシミリアンはぱっと顔を輝かせた。
「実はまだ現実味がないんだ。こんなに幸せなことがあっていいのかなって。クラウディアみたいな素敵な女性が僕のお嫁さんになってくれるなんて本当なのか信じられない」
マクシミリアンはそう言うと、クラウディアの手をぎゅっと握った。彼が喜ぶ顔を見るのはやはり嬉しい。
「殿下がおっしゃるほど素敵かどうかは分かりませんよ。それに殿下は今までの分を取り返す勢いでどんどん幸せになるべきだと思います。そのお手伝いをわたくしができるのなら、喜んで務めさせていただきますわ」
それから二人は長い間キスを交わした。それはアンが戻ってくるまで続いた。
駅に着くと、こちらも大勢の人が迎えに来ていた。アレックスを始め、クラウディアの父と兄、グラン、ドン、サミュエル、ロベルト、それにジュリアンまで来ていた。
「お帰り! 二人とも元気じゃん! 事件に巻き込まれたって聞いたから心配したよ」
「よく頑張ったな、クラウディア。国王陛下は直接来れないがとてもお喜びになっている。二人ともお疲れ様」
「運悪く襲われてしまったが、クラウディア嬢を軽々と抱き上げたと聞いたぞ。それだけでも訓練の甲斐あったな」
「俺はローズマリーの迎えに来ただけだ。別にお前らのことは…………マクシミリアン無事でよかったな。クラウディアも、そ、その、色々あったけど……過去のことはすまなかったと思ってる」
「おばあ様に頼んで王都まで来ちゃった。スゲー都会でにぎやかで面白いな。あ、二人に会いに来たのが本当の目的だよ」
みんなめいめいのことを言って二人を祝福した。王宮へ戻ると国王がひしっとマクシミリアンを抱きしめた。マクシミリアンが表に出るようになってから彼を試すことが多かった国王だったが、やはり心の底から心配していたのがそれだけで分かった。
「マックス、よくやったな。頑張った。お前を誇りに思うよ」
言葉は短かったが万感の思いが込められていた。
「レオ皇帝が父上ともぜひ会いたいと仰っておりました。母上のこともお許しになったようです」
「……そうか。やっと歴史が動き出したのか……」
国王は感慨深げに言った。
「ところで父上、早速お願いがあるのですが……」
マクシミリアンはそれよりも大事なことがある言いたげに、いそいそとお伺いを立てた。
「クラウディアと結婚したいので、まずは婚約をさせて下さい! 本人からも同意を取っています!」
「何だ、いきなり……旅の疲れを癒してからゆっくり話せばいいのではないか?」
「嫌です! というか、ただいまの挨拶より先に言いたくてうずうずしてたんです!」
という訳で、うららかな春の日に二人の婚約式が執り行われた。満を持しての婚約は皆に祝福された。婚約の儀式が終わりひと段落してから、前にも来たことのある庭園を二人は手をつないで歩いていた。
「ねえクラウディア……無事婚約もできたことだし、そろそろマックスって呼んでくれないかな?」
「殿下……まだ諦めてなかったのですね……どうしても愛称で呼んで欲しいですか? もう殿下呼びが慣れているんですけどどうしても駄目ですか?」
「駄目。お願い」
マクシミリアンの意思は固かった。
「では……ま……まっく…… す?」
「そんなんじゃ駄目。ちゃんと呼んで」
「ええい、マックス! これでいいですか?」
クラウディアはやけっぱちに叫ぶように言った。すると、マクシミリアンが不意にキスをしてきたので、そのまま動けなくなった。
「はい、合格。ではこれからもマックスでよろしくね」
マクシミリアンは唇を放すととろけるような笑顔でクラウディアに微笑みかかた。ず……ずるすぎる。これから毎日これに耐えなければならないのか。とても心臓が持ちそうにない。
これからどんな試練が待っているのだろう。例えどんな終わりが来ようともこの日は永遠に忘れない一日になるだろう。二人を祝福するように庭園に咲き誇る花たちがそよ風に揺れた。
「私たちの疑いを晴らしてくれて本当にありがとうございました。またいつでもいらして来てくださいね」
「マックスも一緒だよ!」
マクシミリアンがクラウディアと帰国日を合わせるために、アッシャー帝国に残っている間は、ティムの良き遊び相手となっていた。その結果、ティムは3人目のマックス呼びとなった。
「うう……ひっく……クラウディアがいなかったら今頃私……本当は心細くて仕方ないの。でも頑張るわ。マクシミリアン殿下とお幸せにね」
リリーは顔をぐしゃぐしゃにして泣いている。クラウディアは「リリー様なら大丈夫ですよ」と優しく声をかけた。
ロジャーも来ていた。いつもと変わらぬ元気な様子だったが、クラウディアを見ると少し声を落として言った。
「父上に俺のことかばってくれたんだってな。あれから謝られて……一瞬何が起きたのか分からなかったよ。それからお互いじっくり話し合ったんだ。ここまで腹を割って話したのは初めてかもしれない。父上も歩み寄ってくれて家族で夕食を摂る回数を増やすことにしたんだ。いきなりは無理だけどだんだんいい方向に向かっていくと思う。ありがとな、クラウディア。恩に着る」
「二人で何こそこそ話しているの?」
マクシミリアンがにゅっと首を突っ込んだ。
「マックスに愛想尽きたらいつでも俺のところに来いって言ったんだよ。俺はいつでも待ってるからな」
「それは1000%ないから安心してよ」
マクシミリアンは胸を張って言った。いつの間にかロジャー相手にも軽口をたたくようになり、物怖じしなくなっていた。
最後に皇帝が二人の所にやって来た。
「今回は二人にとって災難続きの滞在だったことを心よりお詫びする。それにも関わらず、恩ばかり受ける形になって感謝してもしきれない。子供たちの表情も明るくなって私も家族と正面から向き合う勇気が出てきた。この恩は別の形で返させてもらう。本当にありがとう」
皇帝も心なしか穏やかな表情をしていた。するとマクシミリアンが懐から何かを取り出した。
「そうだ、これを皇帝陛下にお渡ししようと思ってずっと忘れていました。最後になって申し訳ありませんがお受け取り下さい。母上の遺品の中にあったものです」
それはペンダント型のロケットだった。皇帝が蓋を開けると幼い頃の兄妹の写真が入っていた。
「家でくつろいでいる時はこれを身に着けることが多かったそうです。父から聞きました」
皇帝はマクシミリアンを真正面から見据えたままロケットを胸に抱きしめ、小声で「ありがとう」と呟いた。
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こうして盛大に見送られながらクラウディアたち一行は帰国の途に着いた。列車が間もなく王都の終着駅に到着しようという時、クラウディアとアンのいたコンパートメントにマクシミリアンがひょいと顔を覗かせた。
「ねえ、ちょっとクラウディアと2人だけで話をさせてよ。着いたらそれどころではなくなるから」
「わっ、私はクラウディア様をお守りするためにおりますので。もちろん殿下からも!」
「僕が何するって言うのさ、ねえ、クラウディア?」
いや、今のお前は本当に何するか分からないだろとクラウディアは内心突っ込んだが、「アン、ちょっと下がって」と小声で指示した。アンはふくれ面になりながらも「少しだけですよ」と席を立った。
「色々あったけどアッシャー帝国に行ってよかった。今まで放ったらかしにしていた宿題を一気に片づけた気分だ。その……楽しいことばかりじゃなかったけど……」
マクシミリアンはクラウディアの隣に座るとしみじみした口調で言った。晴れ晴れした表情を取り繕ったが、どうしても一抹の寂しさを隠しきれなかった。
「殿下、いいんんですのよ。ここにはわたくししかいませんから」
クラウディアは優しくそっと囁いた。それを聞いて安心したかのようにマクシミリアンはクラウディアの肩に頭を持たせかけた。
「シーモア夫人とはきれいな形で別れたかった。でもそれは虫のいい綺麗ごとだったんだな。彼女の中では全然終わってなかった。あそこまで暴走させたのは僕のせいかもしれない……」
マクシミリアンは自分に語り掛けるように呟いた。
「殿下が責任を感じる必要はありませんわ。全てあの人の選択の結果です。ならぬものはならぬ、ただそれだけです」
「クラウディアは強いな……やっぱり君がいないと駄目みたいだ……」
マクシミリアンは弱々しく微笑んだ。
「地下水道で、どうして僕のこと今更利用する気になったんだと聞いたんだ。その気になれば僕を洗脳することだってできたのに。マール王国を憎むように仕向けてアッシャー帝国の色に染め上げれば、計画はもっと簡単なはずだった。答えを聞く前にあの人は逝ってしまったけど、最後に『このまま』と言いかけていた。その意味をずっと考えていたんだ。もしかしたら、ずっとこのままあの場所で変わらぬ生活をしたかったのかもしれない……愛する母上の忘れ形見をそばに置いて静かに生きたかったのかもしれない……そんな気がしてならないんだ」
マクシミリアンは顔を伏せたままクラウディアを横から抱きしめた。その状態のまま話し続け、話が終わると抱きしめる手に力を込めた。クラウディアは無言のまま彼の腕に自分の手を添え、しばらくそのままにしていた。マクシミリアンの考えていることが、クラウディアには分かるような気がした。人は生きているだけで誰かを傷つける存在だ。そのことを認めるのは非常に辛い。
一体どれ位の時間が経っただろう。マクシミリアンはクラウディアを放して真っ直ぐ向き合った。
「ありがとうクラウディア、もう大丈夫。もうすぐアンが帰ってくるから早くしなくちゃ。駅に着いたら暇がないから今のうちに言っておく」
そしてコホンと咳をして一息置いてから言った。
「僕のお嫁さんになって下さい」
クラウディアはぱちくりと目を瞬いた。
「えっ? 今まで散々婚約者も同然とか言ってたじゃありませんか……」
「冗談ぽく言ってなし崩しになるのは嫌なんだ。ちゃんと真面目にお願いしたい。答えはイエス? ノー?」
「急かさないで下さい! ……そんなの……イエスに決まってるじゃないですか」
急に改まって言われるととても恥ずかしい。クラウディアは視線を外してもじもじしながら小声で言った。
「ありがとう!」
返答を聞いたマクシミリアンはぱっと顔を輝かせた。
「実はまだ現実味がないんだ。こんなに幸せなことがあっていいのかなって。クラウディアみたいな素敵な女性が僕のお嫁さんになってくれるなんて本当なのか信じられない」
マクシミリアンはそう言うと、クラウディアの手をぎゅっと握った。彼が喜ぶ顔を見るのはやはり嬉しい。
「殿下がおっしゃるほど素敵かどうかは分かりませんよ。それに殿下は今までの分を取り返す勢いでどんどん幸せになるべきだと思います。そのお手伝いをわたくしができるのなら、喜んで務めさせていただきますわ」
それから二人は長い間キスを交わした。それはアンが戻ってくるまで続いた。
駅に着くと、こちらも大勢の人が迎えに来ていた。アレックスを始め、クラウディアの父と兄、グラン、ドン、サミュエル、ロベルト、それにジュリアンまで来ていた。
「お帰り! 二人とも元気じゃん! 事件に巻き込まれたって聞いたから心配したよ」
「よく頑張ったな、クラウディア。国王陛下は直接来れないがとてもお喜びになっている。二人ともお疲れ様」
「運悪く襲われてしまったが、クラウディア嬢を軽々と抱き上げたと聞いたぞ。それだけでも訓練の甲斐あったな」
「俺はローズマリーの迎えに来ただけだ。別にお前らのことは…………マクシミリアン無事でよかったな。クラウディアも、そ、その、色々あったけど……過去のことはすまなかったと思ってる」
「おばあ様に頼んで王都まで来ちゃった。スゲー都会でにぎやかで面白いな。あ、二人に会いに来たのが本当の目的だよ」
みんなめいめいのことを言って二人を祝福した。王宮へ戻ると国王がひしっとマクシミリアンを抱きしめた。マクシミリアンが表に出るようになってから彼を試すことが多かった国王だったが、やはり心の底から心配していたのがそれだけで分かった。
「マックス、よくやったな。頑張った。お前を誇りに思うよ」
言葉は短かったが万感の思いが込められていた。
「レオ皇帝が父上ともぜひ会いたいと仰っておりました。母上のこともお許しになったようです」
「……そうか。やっと歴史が動き出したのか……」
国王は感慨深げに言った。
「ところで父上、早速お願いがあるのですが……」
マクシミリアンはそれよりも大事なことがある言いたげに、いそいそとお伺いを立てた。
「クラウディアと結婚したいので、まずは婚約をさせて下さい! 本人からも同意を取っています!」
「何だ、いきなり……旅の疲れを癒してからゆっくり話せばいいのではないか?」
「嫌です! というか、ただいまの挨拶より先に言いたくてうずうずしてたんです!」
という訳で、うららかな春の日に二人の婚約式が執り行われた。満を持しての婚約は皆に祝福された。婚約の儀式が終わりひと段落してから、前にも来たことのある庭園を二人は手をつないで歩いていた。
「ねえクラウディア……無事婚約もできたことだし、そろそろマックスって呼んでくれないかな?」
「殿下……まだ諦めてなかったのですね……どうしても愛称で呼んで欲しいですか? もう殿下呼びが慣れているんですけどどうしても駄目ですか?」
「駄目。お願い」
マクシミリアンの意思は固かった。
「では……ま……まっく…… す?」
「そんなんじゃ駄目。ちゃんと呼んで」
「ええい、マックス! これでいいですか?」
クラウディアはやけっぱちに叫ぶように言った。すると、マクシミリアンが不意にキスをしてきたので、そのまま動けなくなった。
「はい、合格。ではこれからもマックスでよろしくね」
マクシミリアンは唇を放すととろけるような笑顔でクラウディアに微笑みかかた。ず……ずるすぎる。これから毎日これに耐えなければならないのか。とても心臓が持ちそうにない。
これからどんな試練が待っているのだろう。例えどんな終わりが来ようともこの日は永遠に忘れない一日になるだろう。二人を祝福するように庭園に咲き誇る花たちがそよ風に揺れた。
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