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3.帝国編
第35章 隣国の姫は覚醒する
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「クラウディア様、先日言われた件調べてきましたよ。ほら、リリー様の後でいじめのターゲットになった人のこと」
学院での休み時間、ローズマリーがクラウディアの教室までやって来た。
「ありがとう。調査は苦手なんて言ってたけどやるじゃない」
「何と、クラウディア様も知っている方でしたよ。正確にはその妹ですけど。生徒会長のミア・シェネガンの妹のアリッサ・シェネガン、2年生です」
「まあ、案外近くじゃないの。自分の妹がいじめられているのに生徒会長は何してるの?訳が分からないわ」
「どうせまた例の実力主義ってやつじゃないですか? 一番偉い皇女様だっていじめるくらいだから、生徒会長の妹だって意味ないですよ」
それもそうか、とクラウディアも納得した。
「じゃあ次の休み時間に早速アリッサのところに行ってみましょう
二人はリリーを連れてアリッサのクラスに行った。すると、折しもアリッサがいじめられている現場に遭遇してしまった。
「全く、ここの生徒は余程いじめが好きなのね。どうしようもない学院だわ」
「多分、行き過ぎた実力主義が相当ストレスなんだと思う。みんな自分を追いつめるうちに視野が狭くなって他人が妬ましくなってくるのよ」
リリーは自分のことと照らし合わせながら分析した。
「どっちにしてもしょうがないわね。さて、リリー様出番ですわよ。あのいじめの現場を止めてきましょう」
「え? 私がやるの? クラウディアがやってくれるんじゃないの?」
「何をおっしゃるんですか。あなた様のサロンですわよ。あなたが中心にならなくてどうするんですか」
クラウディアに押し切られる形でリリーは彼女らの輪の中に入って行った。とはいえ、どうすればいいかさっぱり分からない。
「あ……あの……あなたたち、いじめはやめてください」
リリーは消え入りそうな声でいじめをしている生徒たちに向かって言った。言われた方ははあ? とせせら笑いながらリリーの方を向いた。
「皇女様何言ってんですか? ここ2年のクラスですよ? それに分からないところを教えてあげただけでいじめてなんかないんですけど? 言いがかりはやめて下さい」
「そんなこと言っていると今度はまたあなたの番になっちゃいますよー」
一人が言うと、吊られて他の者もへらへらと笑った。
「私はもう一方的にやられたりしません。そしてこの学院からいじめをなくしたいと思います。そのためにサロンを作ります」
少女たちはそれを聞いて笑い転げた。いじめをなくすためのサロンなんて聞いたことがない。
「わっ、私は本気です。いじめられた人をサロンに招いて心のケアを行います。私だからこそできる仕事だと思います。お、同じ痛みを知っているからこそ」
柱の陰から聞いていたクラウディアは、リリーがそこまで考えていたことに静かに感動していた。「リリー様やるじゃない! 頑張れ!」と心の中でエールを送っていた。
「皇女様にサロンなんか運営できるんですか? コミュ障の皇女様が? サロンの中心メンバーってもっと気配りや話術ができなきゃ務まらないんですよ?」
「とっ! とにかく私はやります! あなた、ちょっと来てください!」
リリーはアリッサの手を取ると無理やり立たせてクラウディアたちのいるところまで引っ張ってきた。
「クラウディア! 私頑張ったわ!」
「ちょっと、何のことかさっぱり分からないんですけど!」
連れて来られたアリッサは慌ててリリーの手を振り払った。
「リリー様ご立派でしたね。そんな先のことまでお考えになっていたとは正直想像してませんでした」
「だから、何で私のいないところで話が進んでいるんですか!」
「あなたは皇女様が新たに設立するサロンの栄えある最初のメンバーになったのよ。おめでとう、と言っておくわ」
感極まったクラウディアとリリーの代わりにローズマリーが説明した。
「はあっ? サロンなんて聞いてません。それに勝手に話が進んでいるみたいなんですけど」
「全く、アッシャー帝国の女の子は誰もかれも強情で嫌になりますわ。この国ではサロンに入れるのはステータスなんでしょ? この先の進路でも有利に働くとか何とか。それならこのチャンスに乗っかる以外に手はないんじゃなくて? サロンに入ったら一目置かれていじめもなくなるだろうし」
「そんな……降って湧いたようなチャンスに乗っかるようじゃ実力主義とは……」
クラウディアに説得されてもなお迷っているアリッサにリリーが追い打ちをかけた。
「何と今なら! 入会特典として『国民の絶大な人気を誇るロジャー皇太子』をゲストに呼んじゃいまーす! 握手はもちろん直筆サインも貰えるかも!」
「えっ!? 何それ??? ロジャー皇太子が?」
目を丸くして驚いたのはアリッサだけでなくクラウディアたちもだった。
「ねえ? ねえ? 本当にロジャー皇太子がいらっしゃるの?」
「わたくし何も聞いてませんわよ? 殿下にはOKもらったんですの?」
「ほ、ほ、本当よ!? 妹のためなら一肌も二肌も脱いでくれる兄上ですもの!」
リリーは目を白黒させながら言った。それを聞いたアリッサの目は、突然キラキラ輝きだした。ロジャーの人気は相当なものであることがそれだけで分かる。
「サロンに入らせて頂くわ。リリー様よろしくお願いいたします」
ロジャーの名前を聞いた途端アリッサは、手のひらを返したように二つ返事をした。さっきとは打って変わって意気揚々と教室に戻ったアリッサの後ろ姿を見送りながら、クラウディアはリリーに尋ねた。
「今の話本当ですの? ロジャー皇太子がサロンにいらっしゃるって…」
「こ、これから話をつけに行く! だってこうでもしなきゃOKしてくれそうになかったし……兄上も『他人に頼るのも必要だ』って仰ってたから……それより、兄上と会ったらさっさとサロン脱退なんてことにならないかしら?」
「それはさすがにないと思うけど……ってそっちを心配してるんですか!?」
結局ロジャーに頭を下げて必ず来てもらえるようお願いするしかなかった。学院から戻り王宮に帰ったクラウディアたちは、王宮に戻っていたロジャーを捕まえて事情を説明した。案の定ロジャーは顔をしかめた。
「勝手に話を進めてごめんなさい! でも私だけじゃ人が集まらないからこうするしかなかったの!」
「確かにあらかじめ相談しなかったのは悪いですが、今回だけはリリー様のお願いを聞いてあげて下さい。リリー様の取り組みで本当にいじめがなくなれば素晴らしいことだと思うんです」
クラウディアもリリーに加勢して一緒に頭を下げた。ロジャーはしかめ面のまま話を聞いていたが、やがて諦めたように口を開いた。
「分かった。ただし1度だけだぞ。後はお前が頑張るんだ。俺のサロンじゃないんだからな。せっかく俺を利用するならサロンを継続できるように綿密に計画を立てておけ。あと、いじめをなくすための取り組みももっと具体的に考えろ。分かっていると思うが、忙しいからいつ来られるか分からない。予定が立ったらその時知らせる。それまでサロンメンバーを離すんじゃないぞ」
リリーはぱっと顔を輝かせた。
「お兄様、ありがとうございます! クラウディアのお陰と分かっているけどそれでも嬉しいです!」
「何言ってるんだ? お前が俺に頼って来るなんて初めてだろう? だから聞いてやったんだよ。クラウディアは関係ない」
それだけ言うとロジャーは別件があると言っていなくなった。二人のやり取りを見ていたクラウディアは、これがつい最近まで険悪だった兄妹の会話とは思えなかった。
「よかったですね、リリー様。殿下のおっしゃる通りアリッサ嬢が逃げないように手を打たねばなりませんね。どうすればいいか一緒に考えましょう」
「よかった……本当によかった……お兄様は私のことずっと嫌いだと思ってたから正直不安だったの。お母様がお兄様を毛嫌いしてたから。反対にお兄様とオリガ夫人は仲良しだからティムのことも可愛がっていて。私はずっと蚊帳の外に置かれた気持ちだった……」
「オリガ夫人と殿下が? それは初耳でしたわ」
「お兄様がオリガ夫人を慕ってる風だったわ。もう大分前の話だけど、お父様が気分を害するほどだから当時はかなり入れ込んでたかも。お兄様も思春期だったしきれいなお姉様という感じだったのかしら」
既に大成した感のあるロジャーに思春期の頃があったとはにわかに信じがたかった。しかもオリガ夫人を慕っていたとは。確かにロジャーとオリガ夫人は姉と弟みたいなものである。しかし、恋愛感情があったとは意外だった。これならティムのお誕生日を毎年祝っているのも納得がいく。
次の日、いつものように学院に登校したクラウディアは生徒会長のミアに声をかけられた。
「ちょっと、私の妹がリリー様のサロンに呼ばれたと聞いたのだけど、私はそんな話聞いてませんが」
「あら、お呼ばれしたのはあなたじゃなくてアリッサ様よ? お姉様には関係のないことだから心配いりませんわ」
「姉としても、生徒会長としても看過できないわ。大体妹の監督をする責任もあるのに私のいないところで勝手に話を進めないでいただきたいの」
「それなら妹がいじめられているのになぜ放置してましたの? 監督不行き届きどころの話じゃなくてよ?」
せせら笑いながら言うクラウディアを、ミアは睨みつけた。
「とにかく、この話はなかったことにしてちょうだい。アリッサにも話しました」
「あなたに妹の行動を制限する権利はありません。最初から『妹だけサロンに入るなんてずるい』と言えばいいのに。実力至上主義のあなた方からすれば、何の努力もしてない者が得をするのは許せないということなんでしょうが、それならこの事態を招いた己の不甲斐なさを呪いなさい。この学院の改革は生徒会長のあなたではなく、リリー様が行います」
「私に楯突いたらどうなるか見てなさいよ! どうせ腰掛けの留学生の癖に!」
ミアは捨て台詞を吐くとクラウディアの見えないところへ行ってしまった。クラウディアも言いたいことが言えてすっきりしたが、これからのことを考えるとそうも言ってられなかった。
(こればっかりはわたくしが引き受けないと駄目ね……リリー様には荷が重すぎる)
実力主義という名の弱者いじめシステムは破壊しなければならない。しかし、やっと立ち上がったばかりのリリーには余りに強大な敵だ。そこは婚約破棄も乗り越えた百戦錬磨? のクラウディアが受けて立たなくてはならない。
(確かに腰掛けの立場に過ぎないけど、けしかけたのはわたくしだから責任もあるし……)
ふと、なぜ他国で自分はこんなことをしているのだろう? と思ったが、乗りかかった船である以上やるより仕方がなかった。
学院での休み時間、ローズマリーがクラウディアの教室までやって来た。
「ありがとう。調査は苦手なんて言ってたけどやるじゃない」
「何と、クラウディア様も知っている方でしたよ。正確にはその妹ですけど。生徒会長のミア・シェネガンの妹のアリッサ・シェネガン、2年生です」
「まあ、案外近くじゃないの。自分の妹がいじめられているのに生徒会長は何してるの?訳が分からないわ」
「どうせまた例の実力主義ってやつじゃないですか? 一番偉い皇女様だっていじめるくらいだから、生徒会長の妹だって意味ないですよ」
それもそうか、とクラウディアも納得した。
「じゃあ次の休み時間に早速アリッサのところに行ってみましょう
二人はリリーを連れてアリッサのクラスに行った。すると、折しもアリッサがいじめられている現場に遭遇してしまった。
「全く、ここの生徒は余程いじめが好きなのね。どうしようもない学院だわ」
「多分、行き過ぎた実力主義が相当ストレスなんだと思う。みんな自分を追いつめるうちに視野が狭くなって他人が妬ましくなってくるのよ」
リリーは自分のことと照らし合わせながら分析した。
「どっちにしてもしょうがないわね。さて、リリー様出番ですわよ。あのいじめの現場を止めてきましょう」
「え? 私がやるの? クラウディアがやってくれるんじゃないの?」
「何をおっしゃるんですか。あなた様のサロンですわよ。あなたが中心にならなくてどうするんですか」
クラウディアに押し切られる形でリリーは彼女らの輪の中に入って行った。とはいえ、どうすればいいかさっぱり分からない。
「あ……あの……あなたたち、いじめはやめてください」
リリーは消え入りそうな声でいじめをしている生徒たちに向かって言った。言われた方ははあ? とせせら笑いながらリリーの方を向いた。
「皇女様何言ってんですか? ここ2年のクラスですよ? それに分からないところを教えてあげただけでいじめてなんかないんですけど? 言いがかりはやめて下さい」
「そんなこと言っていると今度はまたあなたの番になっちゃいますよー」
一人が言うと、吊られて他の者もへらへらと笑った。
「私はもう一方的にやられたりしません。そしてこの学院からいじめをなくしたいと思います。そのためにサロンを作ります」
少女たちはそれを聞いて笑い転げた。いじめをなくすためのサロンなんて聞いたことがない。
「わっ、私は本気です。いじめられた人をサロンに招いて心のケアを行います。私だからこそできる仕事だと思います。お、同じ痛みを知っているからこそ」
柱の陰から聞いていたクラウディアは、リリーがそこまで考えていたことに静かに感動していた。「リリー様やるじゃない! 頑張れ!」と心の中でエールを送っていた。
「皇女様にサロンなんか運営できるんですか? コミュ障の皇女様が? サロンの中心メンバーってもっと気配りや話術ができなきゃ務まらないんですよ?」
「とっ! とにかく私はやります! あなた、ちょっと来てください!」
リリーはアリッサの手を取ると無理やり立たせてクラウディアたちのいるところまで引っ張ってきた。
「クラウディア! 私頑張ったわ!」
「ちょっと、何のことかさっぱり分からないんですけど!」
連れて来られたアリッサは慌ててリリーの手を振り払った。
「リリー様ご立派でしたね。そんな先のことまでお考えになっていたとは正直想像してませんでした」
「だから、何で私のいないところで話が進んでいるんですか!」
「あなたは皇女様が新たに設立するサロンの栄えある最初のメンバーになったのよ。おめでとう、と言っておくわ」
感極まったクラウディアとリリーの代わりにローズマリーが説明した。
「はあっ? サロンなんて聞いてません。それに勝手に話が進んでいるみたいなんですけど」
「全く、アッシャー帝国の女の子は誰もかれも強情で嫌になりますわ。この国ではサロンに入れるのはステータスなんでしょ? この先の進路でも有利に働くとか何とか。それならこのチャンスに乗っかる以外に手はないんじゃなくて? サロンに入ったら一目置かれていじめもなくなるだろうし」
「そんな……降って湧いたようなチャンスに乗っかるようじゃ実力主義とは……」
クラウディアに説得されてもなお迷っているアリッサにリリーが追い打ちをかけた。
「何と今なら! 入会特典として『国民の絶大な人気を誇るロジャー皇太子』をゲストに呼んじゃいまーす! 握手はもちろん直筆サインも貰えるかも!」
「えっ!? 何それ??? ロジャー皇太子が?」
目を丸くして驚いたのはアリッサだけでなくクラウディアたちもだった。
「ねえ? ねえ? 本当にロジャー皇太子がいらっしゃるの?」
「わたくし何も聞いてませんわよ? 殿下にはOKもらったんですの?」
「ほ、ほ、本当よ!? 妹のためなら一肌も二肌も脱いでくれる兄上ですもの!」
リリーは目を白黒させながら言った。それを聞いたアリッサの目は、突然キラキラ輝きだした。ロジャーの人気は相当なものであることがそれだけで分かる。
「サロンに入らせて頂くわ。リリー様よろしくお願いいたします」
ロジャーの名前を聞いた途端アリッサは、手のひらを返したように二つ返事をした。さっきとは打って変わって意気揚々と教室に戻ったアリッサの後ろ姿を見送りながら、クラウディアはリリーに尋ねた。
「今の話本当ですの? ロジャー皇太子がサロンにいらっしゃるって…」
「こ、これから話をつけに行く! だってこうでもしなきゃOKしてくれそうになかったし……兄上も『他人に頼るのも必要だ』って仰ってたから……それより、兄上と会ったらさっさとサロン脱退なんてことにならないかしら?」
「それはさすがにないと思うけど……ってそっちを心配してるんですか!?」
結局ロジャーに頭を下げて必ず来てもらえるようお願いするしかなかった。学院から戻り王宮に帰ったクラウディアたちは、王宮に戻っていたロジャーを捕まえて事情を説明した。案の定ロジャーは顔をしかめた。
「勝手に話を進めてごめんなさい! でも私だけじゃ人が集まらないからこうするしかなかったの!」
「確かにあらかじめ相談しなかったのは悪いですが、今回だけはリリー様のお願いを聞いてあげて下さい。リリー様の取り組みで本当にいじめがなくなれば素晴らしいことだと思うんです」
クラウディアもリリーに加勢して一緒に頭を下げた。ロジャーはしかめ面のまま話を聞いていたが、やがて諦めたように口を開いた。
「分かった。ただし1度だけだぞ。後はお前が頑張るんだ。俺のサロンじゃないんだからな。せっかく俺を利用するならサロンを継続できるように綿密に計画を立てておけ。あと、いじめをなくすための取り組みももっと具体的に考えろ。分かっていると思うが、忙しいからいつ来られるか分からない。予定が立ったらその時知らせる。それまでサロンメンバーを離すんじゃないぞ」
リリーはぱっと顔を輝かせた。
「お兄様、ありがとうございます! クラウディアのお陰と分かっているけどそれでも嬉しいです!」
「何言ってるんだ? お前が俺に頼って来るなんて初めてだろう? だから聞いてやったんだよ。クラウディアは関係ない」
それだけ言うとロジャーは別件があると言っていなくなった。二人のやり取りを見ていたクラウディアは、これがつい最近まで険悪だった兄妹の会話とは思えなかった。
「よかったですね、リリー様。殿下のおっしゃる通りアリッサ嬢が逃げないように手を打たねばなりませんね。どうすればいいか一緒に考えましょう」
「よかった……本当によかった……お兄様は私のことずっと嫌いだと思ってたから正直不安だったの。お母様がお兄様を毛嫌いしてたから。反対にお兄様とオリガ夫人は仲良しだからティムのことも可愛がっていて。私はずっと蚊帳の外に置かれた気持ちだった……」
「オリガ夫人と殿下が? それは初耳でしたわ」
「お兄様がオリガ夫人を慕ってる風だったわ。もう大分前の話だけど、お父様が気分を害するほどだから当時はかなり入れ込んでたかも。お兄様も思春期だったしきれいなお姉様という感じだったのかしら」
既に大成した感のあるロジャーに思春期の頃があったとはにわかに信じがたかった。しかもオリガ夫人を慕っていたとは。確かにロジャーとオリガ夫人は姉と弟みたいなものである。しかし、恋愛感情があったとは意外だった。これならティムのお誕生日を毎年祝っているのも納得がいく。
次の日、いつものように学院に登校したクラウディアは生徒会長のミアに声をかけられた。
「ちょっと、私の妹がリリー様のサロンに呼ばれたと聞いたのだけど、私はそんな話聞いてませんが」
「あら、お呼ばれしたのはあなたじゃなくてアリッサ様よ? お姉様には関係のないことだから心配いりませんわ」
「姉としても、生徒会長としても看過できないわ。大体妹の監督をする責任もあるのに私のいないところで勝手に話を進めないでいただきたいの」
「それなら妹がいじめられているのになぜ放置してましたの? 監督不行き届きどころの話じゃなくてよ?」
せせら笑いながら言うクラウディアを、ミアは睨みつけた。
「とにかく、この話はなかったことにしてちょうだい。アリッサにも話しました」
「あなたに妹の行動を制限する権利はありません。最初から『妹だけサロンに入るなんてずるい』と言えばいいのに。実力至上主義のあなた方からすれば、何の努力もしてない者が得をするのは許せないということなんでしょうが、それならこの事態を招いた己の不甲斐なさを呪いなさい。この学院の改革は生徒会長のあなたではなく、リリー様が行います」
「私に楯突いたらどうなるか見てなさいよ! どうせ腰掛けの留学生の癖に!」
ミアは捨て台詞を吐くとクラウディアの見えないところへ行ってしまった。クラウディアも言いたいことが言えてすっきりしたが、これからのことを考えるとそうも言ってられなかった。
(こればっかりはわたくしが引き受けないと駄目ね……リリー様には荷が重すぎる)
実力主義という名の弱者いじめシステムは破壊しなければならない。しかし、やっと立ち上がったばかりのリリーには余りに強大な敵だ。そこは婚約破棄も乗り越えた百戦錬磨? のクラウディアが受けて立たなくてはならない。
(確かに腰掛けの立場に過ぎないけど、けしかけたのはわたくしだから責任もあるし……)
ふと、なぜ他国で自分はこんなことをしているのだろう? と思ったが、乗りかかった船である以上やるより仕方がなかった。
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