【完結】忘れられた王女は獣人皇帝に溺愛される

雑食ハラミ

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第35話 エピローグ

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「ちょっと! そこじゃま! それはこっちに運んでって言ったでしょう! ほんっと使えないわね!」

「俺ここの配属じゃないんだけど! 持ち場離れて別の仕事してるのバレたら上司に怒られるよ!」

「いつもお菓子つまみ食いしてるんだから、たまには恩返ししなさい! こっちは猫の手も借りたい状況なの!」

ロザリンドの部屋では、ケビンとハンナがわあわあ言い合いながら準備をしていた。タルホディア皇帝の結婚式を間近に控え、宮殿は上へ下への大騒ぎだ。

レグルスは、とにかくロザリンドを美しく飾り立てるように、そのためなら出し惜しみはしないと宣言した。これには流石のロザリンドも前からの遠慮癖が出てしまったが、レグルスに説得され、了承せざるを得なかった。

「贅沢を覚えろと言ってるんじゃない。ただ、皇妃としてふさわしい扱いをしているだけだ。あなたは皇妃という役を演じるのが仕事だ、そんな風に考えてみて」

一見もっともらしく聞こえるが、やはりロザリンドの着飾った姿を見たいだけなのではと思えてしまう。それくらい、彼女のウェディングドレスのデザインに口出ししたり、会場の飾り付けに夜遅くまで悩んだり、アクセサリーも選びきれないので全部買い取ろうなどと言い出したりして周囲を困らせていた。

また、結婚式に先立ち、レグルスは声明を発表した。それまで表舞台に出ることがなかったリゲルの存在を公表することにしたのだ。今までは、虚実混じった噂が一人歩きしていたが、つまびらかにすることで憶測からの邪推を排除しようと考えた。リゲルの存在が明らかになっても、彼は政治には参加せず今まで通りに過ごす、表面上は何も変わらないと言うことで、彼を政治的に利用しそうな勢力を事前に牽制した。同時にアルビノへの差別撤廃に向け動き出し、異能を持つ獣人の保護を強化する政策を進めることになった。

「リゲル、何か変わったことがあったらすぐに言ってね?」

「別に今までと変わりないよ。でも、何となく周囲の目が優しくなった気がする。自分がここにいてもいいと思えるようになったからかな?」

「まあ、あなたもなの? 私も同じなの」

そう言ってお互い笑みを交わす。リゲルは、並外れた美しさは変わらないが、最近は雰囲気が少し柔らかくなった気がする。これまでは限られた家臣としか接してこなかったのが、色々な人と関わるようになり早くも変化が出ているようだ。こちらも雪解けの様相を呈していた。

「ここのところロザリンド様はどんどんお美しくなっていると思います。お世辞ではなく、内側から発光してるみたい」

「皇后としての自覚が早くも芽生えつつあるのでしょう。いいことね」

忙しい隙間を縫って、レジーナとアシモフ夫人が会いに来てくれた。レジーナには日記帳の中身を説明してお礼を言った。レジーナは驚いていたが、カッサンドラが繋いでくれた縁に感謝して涙を流していた。

「今回のこともカッサンドラ様のお陰のような気がするの。陛下とリゲル様を立ち直らせるために天から導いてくださったに違いないわ」

「それもあるでしょうけど、実際はあなたが、先代皇妃の遺志を受け継いでうまく立ち回ったというのが本当のところじゃないかしら」

「そうですよ! ロザリンド様がいらっしゃらなかったらもっと混乱していたと思います」

「レジーナ、あなたったらすっかりロザリンドの信奉者になったのね。最初と正反対じゃない」

「はい! もう強硬派とか融和派なんてのは古いと思うんです。ご婦人方の間では、そういう事にこだわってる人はいなくなったし、各々の夫や父親にも説得しているらしいです。古い派閥なんて、女の力で壊して行きましょう!」

これにはロザリンドも苦笑いしてしまう。確かに、最近派閥を超えて友好関係を求めにくる人が増えた。レジーナの言う通り、強硬派や融和派という考えは古くなりつつあるのかもしれない。

結婚式の前日の昼下がり、ロザリンドはレグルスと共にカッサンドラの墓参りをした。手には、カッサンドラの好きだった花から作った花束を持っている。

「この花は庭園から採取したの。リゲルの部屋にも同じ花が生けてあったわ。今でも彼女が忘れられないのかしら」

「無理に忘れる必要はない。自然に任せていればなるようになるさ」

レグルスはリラックスした様子でそう言った。カッサンドラの記憶で見た、恐れを知らなかった頃の彼とは違うが、痛みを知り思慮深くなった今の彼もまた素敵だ。明日私はこの人と結婚式を挙げるのだ。

「そうですね。今でも天から見守ってくださってる気がするんです。もし生きていらしたらいいお友達になれたかもしれない。出会うはずもないけどそんな事を考えてしまいます」

「そうだね。色々辛い体験もしたが、全てはあなたに会うために必要だったと考えたら、全てが報われた。こんな安らかな気持ちになったのはいつぶりだろう」

二人はぴったり寄り添いながらカッサンドラの墓に花を捧げ、しばらくお祈りをした。そして、談笑しながら来た道を戻って行った。

翌日、タルホディアは祝日となり、全国民が人間の花嫁を祝福した。盛大に執り行われた結婚式は近隣諸国まで伝わり、タルホディアの新しい幕開けを印象付けた。

その後、紆余曲折を経ながらも、レグルスの治世は繁栄と平和を享受した時代として後世に語り継がれることとなる。皇妃は公私共に皇帝を支え、子宝にも恵まれ、幸せにくらしたとされた。


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みんなの感想(17件)

てん
2024.05.18 てん

最後まで読みました!いい話だ…( *´艸`)
途中、ロザリンドとリゲルの話にしたほうが良いのではないかと感じていましたが、そうではなかった!

雑食ハラミ
2024.05.20 雑食ハラミ

最後までお読みいただきありがとうございますー!10万字以上読むのって大変ですよね…私も絵が描ければなあと思うことしきりです。リゲルはもっと戦闘力高いヒロインでないと引っ張り上げられない気がします。もしスピンオフ書くとしたらヒロインはこの人と決めているのですが、彼女をヘイト溜めたキャラにしなくてよかったと思いましたw 少しでも楽しんでいただけたならよかったです。

解除
てん
2024.05.03 てん

25話の伏線はどこに⁉

雑食ハラミ
2024.05.03 雑食ハラミ

伏線…まではいかないけど、敢えて言うならヒロインが子供で状況把握が不十分だったこと、夫婦で世界が完結してて子供の存在は埒外(つまり仲間はずれ)だったことですかね?ここ説得力持たせた方がいいなら今すぐ改変します!なろう版は明日完結→完結ブースト来ると思うんで!

解除
てん
2024.05.01 てん

23話から物語が進んできたと感じました。
それ以前の数話は、正直、なんとなくよくある流れでトーンダウンしているような気がしていたので、ここで一気にオリジナリティが爆発したかな、と思ったのです。やはり、リゲルが良い仕事をしています=(^.^)=

雑食ハラミ
2024.05.02 雑食ハラミ

23話まで読み進められたならあとは展開が早いです。ラストまで一気に駆け上がります。そろそろ風呂敷畳まなくちゃと思ったのがこの辺りで、急いで伏線回収したのでバタバタしてるかもですが。

解除

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