上 下
25 / 28
後日談

17.救い?

しおりを挟む



 一瞬呆けたシンシアだったが、自分の側でゆらゆら蠢く触手がどこか見覚えのあるものだと気づく。

(これはラーシュの……。ということは、彼が……? でも今のこの感じ、「攻撃を防がなきゃ」って私の考えに合わせて動いたみたいだった)

 這い寄る違和感が、彼女の心をざわつかせる。

(これじゃ、これじゃまるで、私が魔物と同じに……触手を操った、みたいな……)

 思い至ってしまった可能性に、ぶるりと身震いした。


「ふふっ、ははは……! 見たぞ、見ましたよ……!」


 眼鏡の男の高笑いに、シンシアの意識が引き戻される。

 聖魔法を呑み込みながら術者に迫った火球は、魔法障壁を張って防いだようだ。

「はっははははは!! これで単なるという線は完全に消え失せた!」

 瞳を狂喜に煌めかせた男は、ひとしきり笑った後、急にトーンを落として目を伏せた。

「正直なところ半信半疑でしたが、やはりワタクシの推理は正しかった。
奴の食事傾向と矛盾して、打ち棄てられることなくの人物。その直後に、その人物に呪具を使用していたと推測される者達の変死、不当に扱っていたであろう者達の不審死。
これは即ち──にわかには信じがたいことですが──、奴がそのたった一人の人間に執着し、かけられた呪術を破り、を害した者達への報復に動いたことを示している。
あの『落とし子』がそうまでに入れ込み、伴侶と決めて懐に隠した人間であること。
たった今見せたこの女の能力こそが、その証明というわけですよ!」

 ボソボソと早口で捲し立てる台詞からは意味をほとんど拾えなかったが、ひとつの単語がシンシアの耳に残った。

「『落とし子』?」

 聞き慣れない言葉に首を傾げる。

 ここでようやく眼鏡の男はシンシアとまともに目を合わせた。

「知らないのですか? 危険度特級の魔族、『暗晦あんかいの落とし子』を。他でもない、貴女をここに閉じ込めた化け物をそう呼ぶのです」
「化け物……」
「そうです。我々人間にとって、奴は非常に危険な化け物。ワタクシたちはに連れ去られた被害者である貴女を助けるため、危険を冒してここに来たのですよ」
「私を? どうしてそんな」
「先ほどは手荒な真似をしてしまい、大変失礼いたしました。ですが、あれは貴女の現状を確認するために必要なことだったのです。
改めて自己紹介を……ワタクシの名はブレイン。諸国を渡り歩き、困っている方々をお助けする冒険業を営んでおります。
後ろにいるのはグレッグとゲスラー、同じく冒険者であり、ワタクシの心強い協力者です。見た目は厳ついですが、どちらも気のいい男たちですよ。
……さあ、突然恐ろしい化け物にさらわれて、さぞ怖かったでしょう? もう大丈夫です。奴がここを空けている今のうちに、共に逃げましょう。どうぞこの手を取って」
「!」

 唐突に差しのべられた手を前にして、シンシアの瞳は揺れた。

(人里に、帰れる……?)

 それは、ここへ連れ込まれて以来考えたこともない可能性だった。

 ラーシュという存在を前に、できるとも思えなかったからだ。

 だからこそ、急に現れた選択肢に動揺する。

(もしそんなことができるなら……私は……)

 自身の胸の内を探るように手を当てたシンシアは、ブレインと、後ろに控えるグレッグ、ゲスラーを見回した後、そっと目を閉じた。

(……)

 暫しの逡巡の後、彼女は静かに首を振り、口を開く。

「……助けに来てくれたことには感謝する、ありがとう。
でも、そちらが思うほど、私は酷い目に遭ってはいないんだ。あの魔族ひとは私と番……夫婦になりたいと言ったし、私も今は彼に好意を抱いている」
「!」
「……それにあんたたち、何か変だ。悪いけど、急に現れた他人を手放しに信用できるほどいい目を見てきた人間じゃない。
申し訳ないけれど、あの魔族ひとに見つかる前にここを離れてくれないか」
「……」

 シンシアの返答を聞いたブレインは、その神経質そうな顔に怒り、もしくは悲しみ――ではなく、あからさまな同情の色を浮かべた。

「そう……奴の本性を全く知らないまま突然拐われ、このような場所に監禁され、騙されてしまったのですね……

 そう前置きしながら、眼鏡のブリッジをクイッと押し上げる。

 レンズの奥で、ヘーゼルの瞳が貪欲に光った。

「では、奴がこれまでに行った残虐な所業を教えてさしあげましょう。貴女がに戻れるよう、余すところなく、たっぷりとね」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!

臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。 そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。 ※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

処理中です...