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後日談
17.救い?
しおりを挟む一瞬呆けたシンシアだったが、自分の側でゆらゆら蠢く触手がどこか見覚えのあるものだと気づく。
(これはラーシュの……。ということは、彼が……? でも今のこの感じ、「攻撃を防がなきゃ」って私の考えに合わせて動いたみたいだった)
這い寄る違和感が、彼女の心をざわつかせる。
(これじゃ、これじゃまるで、私が魔物と同じに……触手を操った、みたいな……)
思い至ってしまった可能性に、ぶるりと身震いした。
「ふふっ、ははは……! 見たぞ、見ましたよ……!」
眼鏡の男の高笑いに、シンシアの意識が引き戻される。
聖魔法を呑み込みながら術者に迫った火球は、魔法障壁を張って防いだようだ。
「はっははははは!! これで単なる保存食という線は完全に消え失せた!」
瞳を狂喜に煌めかせた男は、ひとしきり笑った後、急にトーンを落として目を伏せた。
「正直なところ半信半疑でしたが、やはり私の推理は正しかった。
奴の食事傾向と矛盾して、打ち棄てられることなく行方不明のままの人物。その直後に、その人物に呪具を使用していたと推測される者達の変死、不当に扱っていたであろう者達の不審死。
これは即ち──にわかには信じがたいことですが──、奴がそのたった一人の人間に執着し、かけられた呪術を破り、それを害した者達への報復に動いたことを示している。
あの『落とし子』がそうまでに入れ込み、伴侶と決めて懐に隠した人間であること。
たった今見せたこの女の能力こそが、その証明というわけですよ!」
ボソボソと早口で捲し立てる台詞からは意味をほとんど拾えなかったが、ひとつの単語がシンシアの耳に残った。
「『落とし子』?」
聞き慣れない言葉に首を傾げる。
ここでようやく眼鏡の男はシンシアとまともに目を合わせた。
「知らないのですか? 危険度特級の魔族、『暗晦の落とし子』を。他でもない、貴女をここに閉じ込めた化け物をそう呼ぶのです」
「化け物……」
「そうです。我々人間にとって、奴は非常に危険な化け物。私たちはそれに連れ去られた被害者である貴女を助けるため、危険を冒してここに来たのですよ」
「私を? どうしてそんな」
「先ほどは手荒な真似をしてしまい、大変失礼いたしました。ですが、あれは貴女の現状を確認するために必要なことだったのです。
改めて自己紹介を……私の名はブレイン。諸国を渡り歩き、困っている方々をお助けする冒険業を営んでおります。
後ろにいるのはグレッグとゲスラー、同じく冒険者であり、私の心強い協力者です。見た目は少し厳ついですが、どちらも気のいい男たちですよ。
……さあ、突然恐ろしい化け物に拐われて、さぞ怖かったでしょう? もう大丈夫です。奴がここを空けている今のうちに、共に逃げましょう。どうぞこの手を取って」
「!」
唐突に差しのべられた手を前にして、シンシアの瞳は揺れた。
(人里に、帰れる……?)
それは、ここへ連れ込まれて以来考えたこともない可能性だった。
ラーシュという存在を前に、できるとも思えなかったからだ。
だからこそ、急に現れた選択肢に動揺する。
(もしそんなことができるなら……私は……)
自身の胸の内を探るように手を当てたシンシアは、ブレインと、後ろに控えるグレッグ、ゲスラーを見回した後、そっと目を閉じた。
(……)
暫しの逡巡の後、彼女は静かに首を振り、口を開く。
「……助けに来てくれたことには感謝する、ありがとう。
でも、そちらが思うほど、私は酷い目に遭ってはいないんだ。あの魔族は私と番……夫婦になりたいと言ったし、私も今は彼に好意を抱いている」
「!」
「……それにあんたたち、何か変だ。悪いけど、急に現れた他人を手放しに信用できるほどいい目を見てきた人間じゃない。
申し訳ないけれど、あの魔族に見つかる前にここを離れてくれないか」
「……」
シンシアの返答を聞いたブレインは、その神経質そうな顔に怒り、もしくは悲しみ――ではなく、あからさまな同情の色を浮かべた。
「そう……奴の本性を全く知らないまま突然拐われ、このような場所に監禁され、騙されてしまったのですね……お可哀想に」
そう前置きしながら、眼鏡のブリッジをクイッと押し上げる。
レンズの奥で、ヘーゼルの瞳が貪欲に光った。
「では、奴がこれまでに行った残虐な所業を教えてさしあげましょう。貴女が正常に戻れるよう、余すところなく、たっぷりとね」
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