愛されベータ

マロン

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番外編

愛するベータ 三枝海里③

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 小児科学会の会場へ行くと朔を見つけた。

 湯川先生と一緒にいる。

 こっそりと会場に入り2人の様子を見る。

 学会が終わって会場を出たところを高人と汐李が待っていた。

 2人を見た朔はものすごく狼狽えて逃げ出した。

 湯川先生も後を追う。

 僕は高人と汐李の前に行き頷いた。

 朔の泊まっているホテルと部屋は汐李が調べてくれた。

 小鳥遊の名前は入っていないけど小鳥遊グループ系列のビジネスホテルだ。

 部屋の前まで行って深呼吸をした。

 もうすぐ朔に会える…。

 待ち望んだ朔に…胸が高鳴る…。

 部屋をノックしたら湯川先生が出てきた。

 僕を見て驚いている。

 僕たちが友人だとは知らないからね。

 朔はものすごく喜んでくれた。
 懐かしくて嬉しくなる。

 湯川先生が朔に好意を寄せていることは気付いていた。

 今日の高人と汐李を見て慌てて告白でもしたんじゃないだろうか?と予測を立てた。

 湯川先生には悪いけど朔は渡せない。
 
 湯川先生では朔を幸せには出来ないと断言できるんだ。

 僕は湯川先生に朔に隠していることをちゃんと言うべきだと伝えて、朔がアルファの子を孕むことが出来てオメガに子為すことが出来る、ーそしてそれは高人と汐李なら可能だと言うことを告げさせた。

 畳み掛けるようにあの2人は朔ことをずっと探してて婚約もしていなければ番ってもいないことを伝えた。

 そして2人に会って欲しいとお願いした。

 そして朔は2人と会って3人で生きることを決めた。

 僕は心底嬉しかった。

 朔の幸せが僕の幸せで僕の全てだ。

 仕事を辞めるためにアメリカへ一旦帰ることになって、僕は一も二もなくついて行くことにした。

 高人と汐李は今の仕事が忙しいからついてはいけないのだ。

 2人は僕を警戒したけど朔は全く気付いていない。

 ただ僕からは手を出すことはないから安心はして欲しいんだけどね。

 僕が欲しいのは朔からの信頼。
 とにかく頼られたい守らせて欲しいのだ。

 そして高人の祖母の祖国へ渡り朔が複数婚をした。

 朔は僕を全く警戒していないから一緒に住めば良いと言いだしたけど流石に高人と汐李が許さなかった。

 僕はそこはそのことは全く構わなかった。

 近くにいて僕の存在を朔が認めてくれている…ただそれだけで幸せだった。

 朔に一度心配されたことがあった。

 自分の世話ばかりだけど結婚はしないのか?と。

 とんでもない話だ、僕は朔さえいたらそれで良いのに。

 実は僕には性欲がない、無精子症でもある。

 自分で自分の身体を研究してみたところ、幼い頃から今までずっとアルファやオメガの威圧フェロモンを浴び続けたことによる弊害のようだ。

 でもそのおかげで朔に邪な思いは抱かない。

 自分で朔の隣にいるにだと言うことと守られている自覚を持って欲しいことを伝えた。

 全く無自覚だったようだけど僕に守られていないと外出もさせてもらえないことを知って驚いていた。

 上位アルファの高人と上位オメガの汐李…普通のベータの僕では到底太刀打ちできないんだけど、ベータだからこその強みもある。

 朔は覚醒したとはいえ元は普通のベータなのだ。

 自分のことは自分でできるし、本人もやれることはやりたいタイプの自立した男なのだ。

 番を甘やかしたり甘やかされたりが当たり前のアルファやオメガにはその辺のことがわからない。

 何もかも高人と汐李がやってしまう状態は朔にとって嬉しい反面少し辛いのだ。

 僕はベータだからそこは共感出来るからね。

 だから病院の仕事の時は、あえて僕の受け持ちのバース科の患者さんのことで頼ったりする。

 朔は小児科医としてとても優れているけれどバース科の医師としてもものすごく優秀なのだ。

 ベータでフェロモン値は機械でしかわからないけれど、抑制剤の処方の調整が天才的に上手いのだ。

 本人曰く覚醒した時にいろんな抑制剤を調合して試したから感覚的にわかるのだと言っていた。

 そこを利用して僕は朔にわざと色々頼って朔の心の安定を図っているのだ。

 朔は高人と汐李に頼ってもらえない分僕に頼られることが嬉しいみたいで2人へとは違う心の開き方をしてくれている。

 僕はそれがとても嬉しい。

 高人と汐李は気に食わないようだけど、僕もいることが朔の情緒の安定に繋がっていると理解しているので受け入れてくれている。

 朔と汐李の出産は僕が執刀した。

 誰よりも一番に朔の子どもに会えて抱き抱えることが出来る。

 何という幸せだろう。

 汐李は僕の気持ちを察していて僕に執刀されるのを嫌がったけど、無自覚な朔が説得してくれた。

 当然朔も僕に執刀して欲しいと言ってくれた。

 しかも留学中から薬で散らしてきた盲腸をとって欲しいとまで!

 嬉しかった。朔のお腹の中に手を入れることが出来る。

 手袋越しとはいえ内臓に触れることが許される。

 取った盲腸はホルマリンに浸けて今は僕の寝室の枕元にある。

 朔が一緒に居てくれているようで本当に嬉しくなる。

 朔の初めての出産を終えてから僕は前々から計画していたことを実行した。

 それはこの国へ移住してきた朔の両親の養子になること。

 朔の両親には、自分は一人でこの国へ来て近くに身内がいないことやこの先結婚する気がないことを話して朔と養子とはいえ兄弟となることで将来的な不安を取り除きたいことや、両親の老後のことも任せて欲しいことを伝えて養子にしてもらったのだ。

 朔より2ヶ月先に生まれているので朔に「海里お兄ちゃんだね」って言われた瞬間思いっきり威圧フェロモンを浴びてしまった。

 でもこれで朔と僕は書類上とはいえ兄弟なのだ。

 きっと威圧フェロモンを浴びすぎててそれほど長生き出来そうにないから僕が先に死ぬだろう。
 その時朔には弟として看取って貰える…。
 いつ死んでも良いな。
 
 生まれた子供は朔が産んだ子も汐李が産んだ子も成長とともに顔立ちは朔にそっくりに育っていった。

 その子たちの世話も積極的に手伝う。

 叱るのは高人と汐李の役目だから僕は思いっきり甘やかす。

 朔にそっくりな子どもたちが「かいりーかいりー」とまとわりついてくるのも嬉しくてたまらない。

 こうやってこれからも朔の隣で朔の幸せを見つめながら朔を守って行こうと思っている。

 朔の隣にいたかったらアルファやオメガでは居られなかった。

 ベータでも女だったら今の状態にはなれなかった。

 アルファやオメガの家系で僕だけベータに産まれたことは意味があったことなんだと思っている。

 ベータの僕はこれからもベータの朔を心から愛していくのだ。
 
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