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番外編
愛するベータ 三枝海里②
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それはある日突然だった。
朔の情緒が安定して少しずつ外出できるようになっていて僕も朔も少し油断していたのかもしれない。
僕の同室の悠斗の仕事おわりに一緒にご飯を食べに行こうと出かけた時だった。
まさか悠斗の仕事相手が汐李だったとは思いもよらなかった。
汐李に出くわして後ずさる朔に近づこうとする汐李から僕は守るように立ちはだかった。
その瞬間周りの空気が変わったのがわかった。
後ろから来た高人の様子と汐李の様子がおかしい…と思った瞬間朔のリストバンドからけたたましくブザーがなった。
朔を見ると真っ赤な顔でうずくまる。
朔に頼まれてタクシーへ押し込む、行き先はバースセンターだ。
タクシーの扉が閉まって走りだした瞬間身体が吹っ飛ばされて衝撃が走る。
悠斗が目を血走らせて僕をぶっ飛ばしたのだ。
朔のタクシーが走りだしてフェロモンが消えた時悠斗が冷静さを取り戻した。
「何だったんだ…今のは…朔から抗えないほどのフェロモンが出てた。あいつベータだろ?何でだ?」
と呟いていた。
悠斗もまぁまぁ上位クラスに入るアルファだ、でもこいつに吹っ飛ばされるようではダメだ。
こんなんじゃ朔を守りきれない。鍛えないと…。
そう思いながらまずは朔に会いたいとバースセンターを訪ねるが会うことは叶わなかった。
それどころか行方も教えてもらえない。
呆然としながら学校の寮へ帰る。
そこへ朔が戻ってくることはなくいつの間にか荷物も片付けられていた。
汐李は小鳥遊グループの力を使って朔の居場所を探しまくったみたいだけど国の力が介入していて上手くはいかないようだった。
高人と汐李は運命の番だったようだけどお互いに興味はなく2人は朔への執着で繋がっているようだった。
僕は朔を幸せにしてくれるなら高人でも汐李でもどちらでも良いのだ。
2人とも僕の小姑目線では合格なんだから。
2人で結託して探してくれるならそれで良い。
それに僕には何故だか高人と汐李が朔を必ず見つけるという確信に近いものを感じていた。
3人は強烈に惹かれあっていると思うのだ。
僕は自分ができることを考えた。
鍵はバースセンターにあると踏んだ。
普通のベータの僕がバースセンターへ侵入するにはどうしたら良い?
悩んだ末に医者になることにした。
必死に勉強をして医学部へ入り研修医となってバースセンターへ入局を果たした。
医者になることを決めてからもう一つ始めたことがある。
それは身体を鍛えることだ。
ラットに入りかけたアルファの悠斗に吹っ飛ばされた時に強くなることを決意したのだ。
もちろん朔を守るために。
医学部へ入るための勉強をしながら、両親の知り合いの要人警備の会社でSPのトレーニングに混ぜてもらった。
トレーニングはかなり厳しかった。
アルファからオメガを守らなくてはいけない場面も多いのでアルファと対等いやそれ以上の力がいるのだ。
正直勉強との両立は大変だったけど朔を思えば何と言うこともなかった。
朔に会うため守るためにやるべきことをやるだけだった。
アルバイトで時々SPの仕事をしながら医学部へ通うようになると、警備で僕を知った有名企業のベータ御令嬢からの縁談が沢山舞い込んできた。
なかには女優さんにもなれそうな御令嬢もいたみたいだけど本当にどうでも良かった。
僕は朔にしか興味がないんだから。
両親の会社も政略結婚を謀るほどの会社じゃないし、経営も普通に順調だし僕にもしがらみないしで全く相手にしなかったらだんだん諦めてくれるようになって助かった。
医学部で研修先を決める時迷わずバースセンターの病院を希望した。
まずは中に入り込まなければ話にならない。
僕の指導医は湯川先生というベータの先生だった。
ベータはアルファやオメガのフェロモンが感じられないからバース科の医者になるのは少しハンデがあるけれどフェロモンが暴走したときなんかはベータが良いから十分な戦力なんだよって教えてくれた。
膨大にある医学書や論文など読み放題で僕は夢中になって読み漁った。
朔の情報は見つからないけどまずは自分のすべきことをしようと勉強をした。
そんなある日、たまたまパソコンのフォルダに書きかけの論文を見つけた。
普段なら未完成の論文は読み飛ばすのにそれはなぜだか気になった。
研究者は湯川先生だった。
【両性ベータの覚醒とそれに伴う変化について】
両性ベータという言葉に引っ掛かりを感じて読んでいく。
読んでいくうちにこれは朔のことだと確信をした。
そして朔は高人と汐李によって覚醒し、アルファの子供を孕むことができオメガを孕ませることができると書いてある。
もちろん名前は伏せてあるが明らかに朔のことだ。
高人と汐李が鉢合わせた時に朔は覚醒したんだ。
なんという僥倖だろうか…いつか朔の子どもを見られるかもしれない。
その子を取り上げるのは僕が良い…。
産科医になることを決めた瞬間だった。
研修医になってしばらくしてからシェルターへの入室を許された。
朔が居た場所に違いない。
流石に朔はもう居なかった。
シェルターにはフェロモンが安定しなかったり抑制剤が合わないオメガの子たちが数人いた。
シェルター内で通信制の中学や高校の勉強をしているという。
時々彼らの勉強を教えたりしていると休憩時間にいろんな話をするようになった。
何年か前まで綺麗なベータのお兄さんがいたという話も聞けた。
朔のことに違いない。なるべく冷静にそのお兄さんどこに行ったの?って聞いてみたら
「なんかすっごく頭が良くってお医者さんになるからって外国に行ったよ。」
「外国?」
「うん。あっアメリカって言ってたかも!すごいよね!」
そうか。朔はアメリカで医者になるつもりか。
仕事おわりに高人と汐李に会いにいった。
2人はお互いが朔を独り占めしないように仕事上のパートナーとして一緒にいた。
汐李の両親が流した噂のせいで婚約者ということになっているようだが2人の間にそんな感情は全くないようだった。
2人に朔がアメリカ留学をしていて医師を目指しているらしいと告げた。
2人は朔が国内にいないことは突き止めていたようだけどアメリカとまでは特定できていなかったようだ。
早急に調査すると返事をもらいとりあえずあとは2人に任せることにする。
僕はここからひたすらに産科医としてのキャリアを積むことに集中した。
医者になってから四年が経った。
SPのトレーニングをしていたから体力は並はずれていたようで僕は通常あり得ないほどの産科医の経験を積んだ。
技術と経験で産科医としてはそこそこ有名になったのでフリーの産科医となっていつ朔に会っても守れるように備えた。
高人と汐李は朔を見つけたようだったけど、異国の法と日本政府のガードで接触は難しかったようだ。
ただ朔の上司と話は出来たようで日本で開催される小児科学会に参加するように促してくれるといっていたらしい。
朔が日本に帰ってくる…そう思うだけで浮き足立った。
朔の情緒が安定して少しずつ外出できるようになっていて僕も朔も少し油断していたのかもしれない。
僕の同室の悠斗の仕事おわりに一緒にご飯を食べに行こうと出かけた時だった。
まさか悠斗の仕事相手が汐李だったとは思いもよらなかった。
汐李に出くわして後ずさる朔に近づこうとする汐李から僕は守るように立ちはだかった。
その瞬間周りの空気が変わったのがわかった。
後ろから来た高人の様子と汐李の様子がおかしい…と思った瞬間朔のリストバンドからけたたましくブザーがなった。
朔を見ると真っ赤な顔でうずくまる。
朔に頼まれてタクシーへ押し込む、行き先はバースセンターだ。
タクシーの扉が閉まって走りだした瞬間身体が吹っ飛ばされて衝撃が走る。
悠斗が目を血走らせて僕をぶっ飛ばしたのだ。
朔のタクシーが走りだしてフェロモンが消えた時悠斗が冷静さを取り戻した。
「何だったんだ…今のは…朔から抗えないほどのフェロモンが出てた。あいつベータだろ?何でだ?」
と呟いていた。
悠斗もまぁまぁ上位クラスに入るアルファだ、でもこいつに吹っ飛ばされるようではダメだ。
こんなんじゃ朔を守りきれない。鍛えないと…。
そう思いながらまずは朔に会いたいとバースセンターを訪ねるが会うことは叶わなかった。
それどころか行方も教えてもらえない。
呆然としながら学校の寮へ帰る。
そこへ朔が戻ってくることはなくいつの間にか荷物も片付けられていた。
汐李は小鳥遊グループの力を使って朔の居場所を探しまくったみたいだけど国の力が介入していて上手くはいかないようだった。
高人と汐李は運命の番だったようだけどお互いに興味はなく2人は朔への執着で繋がっているようだった。
僕は朔を幸せにしてくれるなら高人でも汐李でもどちらでも良いのだ。
2人とも僕の小姑目線では合格なんだから。
2人で結託して探してくれるならそれで良い。
それに僕には何故だか高人と汐李が朔を必ず見つけるという確信に近いものを感じていた。
3人は強烈に惹かれあっていると思うのだ。
僕は自分ができることを考えた。
鍵はバースセンターにあると踏んだ。
普通のベータの僕がバースセンターへ侵入するにはどうしたら良い?
悩んだ末に医者になることにした。
必死に勉強をして医学部へ入り研修医となってバースセンターへ入局を果たした。
医者になることを決めてからもう一つ始めたことがある。
それは身体を鍛えることだ。
ラットに入りかけたアルファの悠斗に吹っ飛ばされた時に強くなることを決意したのだ。
もちろん朔を守るために。
医学部へ入るための勉強をしながら、両親の知り合いの要人警備の会社でSPのトレーニングに混ぜてもらった。
トレーニングはかなり厳しかった。
アルファからオメガを守らなくてはいけない場面も多いのでアルファと対等いやそれ以上の力がいるのだ。
正直勉強との両立は大変だったけど朔を思えば何と言うこともなかった。
朔に会うため守るためにやるべきことをやるだけだった。
アルバイトで時々SPの仕事をしながら医学部へ通うようになると、警備で僕を知った有名企業のベータ御令嬢からの縁談が沢山舞い込んできた。
なかには女優さんにもなれそうな御令嬢もいたみたいだけど本当にどうでも良かった。
僕は朔にしか興味がないんだから。
両親の会社も政略結婚を謀るほどの会社じゃないし、経営も普通に順調だし僕にもしがらみないしで全く相手にしなかったらだんだん諦めてくれるようになって助かった。
医学部で研修先を決める時迷わずバースセンターの病院を希望した。
まずは中に入り込まなければ話にならない。
僕の指導医は湯川先生というベータの先生だった。
ベータはアルファやオメガのフェロモンが感じられないからバース科の医者になるのは少しハンデがあるけれどフェロモンが暴走したときなんかはベータが良いから十分な戦力なんだよって教えてくれた。
膨大にある医学書や論文など読み放題で僕は夢中になって読み漁った。
朔の情報は見つからないけどまずは自分のすべきことをしようと勉強をした。
そんなある日、たまたまパソコンのフォルダに書きかけの論文を見つけた。
普段なら未完成の論文は読み飛ばすのにそれはなぜだか気になった。
研究者は湯川先生だった。
【両性ベータの覚醒とそれに伴う変化について】
両性ベータという言葉に引っ掛かりを感じて読んでいく。
読んでいくうちにこれは朔のことだと確信をした。
そして朔は高人と汐李によって覚醒し、アルファの子供を孕むことができオメガを孕ませることができると書いてある。
もちろん名前は伏せてあるが明らかに朔のことだ。
高人と汐李が鉢合わせた時に朔は覚醒したんだ。
なんという僥倖だろうか…いつか朔の子どもを見られるかもしれない。
その子を取り上げるのは僕が良い…。
産科医になることを決めた瞬間だった。
研修医になってしばらくしてからシェルターへの入室を許された。
朔が居た場所に違いない。
流石に朔はもう居なかった。
シェルターにはフェロモンが安定しなかったり抑制剤が合わないオメガの子たちが数人いた。
シェルター内で通信制の中学や高校の勉強をしているという。
時々彼らの勉強を教えたりしていると休憩時間にいろんな話をするようになった。
何年か前まで綺麗なベータのお兄さんがいたという話も聞けた。
朔のことに違いない。なるべく冷静にそのお兄さんどこに行ったの?って聞いてみたら
「なんかすっごく頭が良くってお医者さんになるからって外国に行ったよ。」
「外国?」
「うん。あっアメリカって言ってたかも!すごいよね!」
そうか。朔はアメリカで医者になるつもりか。
仕事おわりに高人と汐李に会いにいった。
2人はお互いが朔を独り占めしないように仕事上のパートナーとして一緒にいた。
汐李の両親が流した噂のせいで婚約者ということになっているようだが2人の間にそんな感情は全くないようだった。
2人に朔がアメリカ留学をしていて医師を目指しているらしいと告げた。
2人は朔が国内にいないことは突き止めていたようだけどアメリカとまでは特定できていなかったようだ。
早急に調査すると返事をもらいとりあえずあとは2人に任せることにする。
僕はここからひたすらに産科医としてのキャリアを積むことに集中した。
医者になってから四年が経った。
SPのトレーニングをしていたから体力は並はずれていたようで僕は通常あり得ないほどの産科医の経験を積んだ。
技術と経験で産科医としてはそこそこ有名になったのでフリーの産科医となっていつ朔に会っても守れるように備えた。
高人と汐李は朔を見つけたようだったけど、異国の法と日本政府のガードで接触は難しかったようだ。
ただ朔の上司と話は出来たようで日本で開催される小児科学会に参加するように促してくれるといっていたらしい。
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