愛されベータ

マロン

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番外編

愛するベータ 三枝海里①

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 典型的なベータの男である三枝海里には心の底から愛する人がいる。

 その人とは中学に入学した日に出会った。

 入学式を控えた教室で初めて見たその人は美しくてそして可愛らしい人だった。

 僕は家族の中で唯一のベータで近所の友だちも沢山いる普通の公立中学でよかったのだがなまじ出来が良かったせいで周りに言いくるめられて私立へくることになってしまい少し不貞腐れていた。

 それなのに彼を見てすっかり舞い上がってしまい今までの沈んでいた気持ちがすっかり霧散してしまった。

 付属の小学校から持ち上がりのクラスメイトに彼は市原朔と言ってベータだと教えてもらった。

 そして常に隣にいるのは小鳥遊グループの御曹司で上位オメガだから威圧が凄くて近寄るのは危ないから気をつけろとも言われた。

 近づいていくと確かに上位オメガの威圧を感じる…でも僕には耐えることが出来る。
 
 僕の両親はアルファで兄もアルファ、妹はオメガで僕だけがベータだった。

 親戚の叔父さんや叔母さんは僕だけかわいそうねって言ってたけど、両親はベータの僕のことも分け隔てなく育ててくれた。

 それは兄弟も一緒でアルファだろうがベータだろうがオメガだろうが全く対等で区別なしだった。

 だから兄弟喧嘩も普通に本気、子供だから加減なしに威圧を飛ばしてくる。

 僕も子供ながらに本気だから必死で威圧を堪えて反撃をする。

 それを繰り返すうちにちょっとくらいの威圧は平気になったし、強めの威圧もかわせるようになった。

 だから朔に近づく時に隣にいる小鳥遊汐李の威圧に負けなかった時に自分を分け隔てなく育ててくれた両親や威圧をかけまくってくれた兄弟に本気で感謝した。

 朔はずっと汐李に守られていて、その隙をつくように隣に居座ることに成功した。

 中学でずっと一緒にいたのに名前は覚えてもらえなかったけど、汐李以外の唯一の友人ポジションに満足した。

 高校をアルファ校へ編入することを知ることが出来たのは本当にラッキーだった。

 アルファ校の理事をしている叔父さんはベータに産まれた僕のことをいつもかわいそうな子として見てきてあんまり好きじゃなかったけどこの情報をもたらしてくれたから僕の中での評価は爆上がりだ。

 高校で再会したとき朔は本当にびっくりしてたけど嬉しいと言ってくれて僕は天にも昇る心地だった。

 ベータなのにアルファに狙われがちな朔を守るために僕はずっと隣にいると決意を新たにしたのだった。

 生徒のほとんどがアルファの高校は朔にとって危ない場所なんじゃないか?寮の同室のやつは大丈夫か?なんならベータ同士で部屋を代わってもらった方が良いんじゃないか?と気を揉んだりしたけれど全く問題はなかったみたいだ。

 僕自身は朔とどうにかなりたいとは思っていない。

 なれないものと最初からわかっている。

 ただただ朔のそばにいて朔を守りたい、頼られたいだけなのだ。

 だから朔に近づいても良いか相手をまるで姑か小姑のように観察する。

 誠実に朔をなによりも一番に大切にしてくれるやつかどうかを見極める。

 もしダメなやつなら身を挺しても朔をまもる。

 朔を傷つけるやつは何人たりとも許さない。

 そんな気持ちで会った朔の寮の同室者は月代高人という上位中の上位クラスのアルファだった。

 2人はすぐに意気投合して仲良くなった。

 さりげなく高人の上位アルファフェロモンでマーキングされていると僕の同室アルファ悠斗が教えてくれた。

 時々僕に威圧かけてくることがあったから、一度2人で話したことがある。

「高人は上位アルファで家柄も良さそうだけど、婚約者とか恋人とかいないの?いるなら朔にこれ以上手を出さないで。」

「僕に婚約者や恋人はいないよ。自由な家風だし次男だからね。海里が心配することじゃない。」

「僕にとって朔は大切な友人だ。恋人になりたいとかではなくて本当に大切にしたいただそれを願っているだけの友人なんだよ。だから朔を絶対に傷付けないと約束してくれ。」

「もちろんだ。朔のことは任せてくれ。」

 そんな会話をしてしばらくしてから2人は付き合い出した。

 付き合いだしてから朔の情緒はどんどん安定していったように見えた。

 その様子を見て僕は本当に安堵した。朔が幸せならそれで良い。

 纏う雰囲気も柔らかくなって、周りのアルファたちが惹きつけられているのがわかる。

 でも高人のマーキングもどんどんキツくなっているらしくてみんな近寄れないみたいだった。

 僕は本当にベータで良かった。

 アルファやオメガじゃ朔の隣に居られないんだから。
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