愛されベータ

マロン

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27 湯川サイド①

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 私は代々医者の家庭に生まれたベータだ。

 両親ともベータで祖父と父は内科医だった。

 ベータだけど勉強は好きだったし特になりたいものもなかったから医学部に進学した。

 祖父や父が内科医だったから何の疑問もなく内科医になろうと思っていた。

 見た目も悪くないようでベータの女の子たちからよくモテてた。

 医学部を卒業して国家試験も合格し研修医となった。

 その研修先の一つがバースセンター内の病棟だった。

 ベータだったからアルファやオメガとの接点も特になく抑制剤を飲み忘れたとかフェロモンコントロールが難しいとかいうクラスメイトの話も全く他人事だったからこの研修もそこそこでやっていこうくらいの気持ちだった。

 そこでの指導医が今のここの所長である梶浦先生だった。

 ベータにとってバース科は馴染みがないかもしれないけど、フェロモンに左右されないからバース科の医師はベータの人が適していると話してくれた。

 それでも私自身はさほど興味がなくその話も他人事に聞き流していた。

 そしてたまたま梶浦先生が読んでいた論文が目に入った。

 [両性ベータのフェロモン覚醒についての考察]

「何ですか?この論文」気がついたら梶浦先生に聞いていた。

 梶浦先生はベータの中に稀に両性ベータという特性を持つ人がいると言った。

 その両性ベータというのは性別はベータだけど、特殊なフェロモンを持っているらしくてアルファやオメガを惹きつけるらしい。

 両性ベータは突然変異で産まれるらしくて何故生まれるかは不明。

 両性ベータというのがハッキリ確認されたのがまだ最近で研究始まったばかりだということだ。

 現在確認されている数は世界中でも10名足らずで研究対象外もほとんどいない状態だということだった。

 あくまでもベータなのでアルファやオメガのフェロモンに惑わされないしベータからみると両性ベータの特殊なフェロモンなんてわからないので基本的にはベータの中で知らずに暮らしている人もいるかもしれないということみたいだ。

 そして両性というだけあって成長と共に見た目がアルファやオメガに近づく場合が多く両性ベータは見目麗しい見た目をしているらしい。

 ベータだけどアルファやオメガが多少好ましいと思うフェロモンが出ているだけで普通のベータと変わらない暮らしができるとされてきた両性ベータが覚醒する可能性があるとその論文には書かれていた。

 その論文が始まりだった。
 私は両性ベータについての研究にハマりバース科の医師になることを決めたのだった。

 バース科の医師になって数年が経った時にその子は現れた。

 バース科の業務はアルファやオメガのフェロモンコントロールの診察や抑制剤の処方などの他に、バース性確定の業務もある。

 中学2年生のベータの子は全員バース性の性別検査を受けることが義務付けられている。

 生まれた時にアルファやオメガならほぼ間違いはないのだけど、ベータと診断された場合ごく稀にだが実はアルファかオメガだったということがあるのだ。

 それはほとんどが中学生になるころに確定することから発情期が来る前に一斉検査をするのだ。

 中学2年生全員の血液を採取して一つ一つ調べていく。

 その子の将来を考えたら万に一つも間違いは許されないので慎重に丁寧に検査を進める。

 その沢山の血液の中にひとつだけ初めて見る反応をした血液があった。

 血液を分けてアルファに反応する液とオメガに反応する液、ベータに反応する液をそれぞれ垂らす。

 血液が反応した液がその子のバース性ということになる。

 ほとんどがベータの液に反応した中で、その子の血液はアルファオメガベータすべてに反応をしたのだ。

 梶浦先生に報告をしてさらに調べる…両性ベータの血液だった。

 




 学校経由でその両性ベータの血液を持つ生徒をバースセンターへ呼んだ。

 彼の名前は市原朔と言った。

 よくよく話を聞いたら母親も両性ベータだった。

 これはものすごく珍しいことだった。

 両性ベータについての説明を親子にする。

 朔くんはものすごく不安そうだった。

 それはそうだろう。
 普通のベータだと思って生きて来たのにいきなり特殊なベータだと言われたら不安にもなる。

 私はなるべく彼の不安を取り除くよう話をした。

 私の研究では両性ベータの覚醒にはアルファとオメガの運命の番が出会う瞬間の激しいフェロモンが必要となることがわかっている。

 覚醒した両性ベータはおそらくアルファのラットとオメガのヒートを同時に起こすような状態になるのでは…と予想される。

 だけど闇雲に不安を駆り立ててはいけないながらもそこはどうなるか不明だが身体の反応があるかもしれないと少し濁して伝える。

 運命の番が出会うことも稀なのにその瞬間に立ち会うなんてことはほとんどないから私もそこについては心配はほとんどしていなかった。

 ただし万が一その場に居合わせたらすぐにバースセンターへタクシーでくるように伝えた。

 本人がフェロモンを感じないからフェロモン値を測定するためにリストバンドをつけてもらう。

 毎月一度研究も兼ねて検診のためにバースセンターへ通ってもらうことになった。

 朔くん自身に自覚はないけど、彼は両性ベータの特徴通りとても美しい子だった。

 アルファのような強い美しさとオメガのような儚げな美しさを兼ね備えていて眩しいほどだった。

 ぱっと見黒目に見えるその瞳はよく見ると深い緑で幻想的だった。

 頭も良く聡明でいつしか月に一度の検診で会って話をすることが何よりも楽しみになった。

 私は一回り以上も年下のベータの男の子に想いを寄せるようになった。

 そんなある時梶浦所長が朔くんの検診の様子を覗きに来た。

 梶浦所長はアルファだけど番がいるからフェロモンに充てられてもヒートは起こさない。
 でもフェロモンは感じるという。

 所長が言うには朔くんは気づいてないけどオメガフェロモンをべっとりと纏っているらしい。

「ものすごい牽制だね~若いねぇ」と笑っていた。

 きっといつも話に出るオメガの子のフェロモンなんだろう。

 付き合っているのかもしれないな…と少し心が苦しくなる。

 そんな日々が続いたある日の検診日。

 いつもは1人で来る検診にお母さんと一緒に来た時があった。

 お母さんも研究サンプルとして協力してもらっているからその日は一緒に血液を採取したりフェロモン値の測定などをこなして診察が終わったころにお母さんから相談したいことがあると言われた。

 お母さんは万が一朔くんがこの先アルファやオメガのトラブルに巻き込まれてしまったらその時はバースセンターのシェルターで匿って助けてやってほしいというものだった。

 確かにバースセンターのシェルターはアルファやオメガのためのものだからベータは対象外だ。

 でも両性ベータは普通のベータとは違う。だから私はもちろん助けます。と答えた。

 その後朔くんは今まで通っていた大学までの名門一貫校の中学に通っていたのに、アルファ専用のエリート高校へ通うことになったと聞いた。

 朔くんの話によく話に出て来たフェロモンをしっかりと朔くんに付けていたオメガの子のことで何かあったのかもしれない。

 深く聞くことは憚られて見守ることしか出来なかった。

 高校へ入学してからリストバンドを変えた。

 もしもフェロモンが暴走したらブザーがなってバースセンターへ報せが飛ぶように出来ている。

 フェロモンの暴走を本人が気付けないのでこのブザーはとても重要だった。

 覚醒しなければ大丈夫だし、そもそもアルファとベータしかいない高校だから心配ないはずなんだけど虫の知らせか何なのかこのリストバンドを付けさせないといけないと思ったのだ。
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