愛されベータ

マロン

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 ふっと目が覚めたときフェロモン覚醒状態はすっかり落ち着いていた。

 腕の点滴も外れている。

 起き上がって時間を見た。午前10時だった。

 喉が渇いたな…と思ってベッドから降りようとしたらドアがノックされて湯川先生が入ってきた。

「おっやっと起きたな。どうだ?気分は?」

「はい。大丈夫です。喉が渇いたなって思って。」

 先生は病室の冷蔵庫からペットボトルの水を出してキャップを外して渡してくれた。

 お礼を言って一気に飲み干す。相当渇いていたみたいだ。

「どこまで覚えてる?」と聞かれてぼんやりと思い出す。

 高人と海里と本屋さんへ行って、悠斗を迎えに行ったら汐李がいて…。

 高人と汐李が運命の番で…僕がおかしくなって海里にタクシーに乗せてもらってバースセンターまで来たんだっけ。
 最後に2人を見たのは2人が抱き合う瞬間で…そこまで思い出して急に胸が苦しくなる。

 涙が止まらずしばらくグズグズと泣いてしまった。

 それからバースセンターの病室でラットとヒートを同時に起こしてて…ここまで思い出して急に顔がカッと熱くなる。

 そうだ、僕自分の身体がどうにもできなくて湯川先生に…恥ずかしくて先生の方を見られない。

 先生はいつも通り優しい声で

「朔くんは恥ずかしいかもしれないけど気にしなくていい。あれは治療だよ。」と言って頭を撫でてくれた。

 しばらく入院してフェロモンが安定するのを待たないといけないと言われた。

 そしてこの状態になってしまったからにはアルファの高校にはもう通えないとも…。

 ショックだった…でも高人に会わなくて済むならちょうど良いとも思った。

 僕を好きだと言って恋人にまでしてくれたけど運命の番には敵わない。

 これから先どうしたら良いのかな…と思っていたら湯川先生から提案があった。

「実は前々からお母さんにはもしもの時は朔くんをバースセンターで保護して欲しいって言われていたんだ。」

 万が一フェロモンが暴発してしまったりしたらベータだけどアルファやオメガを保護する様に扱って欲しいとお母さんが言ってくれてたんだって。

 バースセンターは国の機関だからね、いろんなことを機密にしながら僕を守ることができるんだそうだ。

 湯川先生から今後の方針と提案があった。

 「もうすぐ新学期だから。まずはシェルターに入って国の通信制高校で高校3年生を修了しよう。

 大学はおいおい考えていくとして、地方の大学でも留学しても良いんだよ。」

 ひとまず僕の身体に合わせた抑制剤をいろいろ調合しながらシェルターで高校3年生の課程を勉強しながら1年過ごすことになった。

 高人と汐李があれからどうなったのか…わからないまま1ヶ月が過ぎた頃だった。

 シェルターの歓談室にいたオメガの子たちが楽しそうにおしゃべりしてる横を通り過ぎた時に聞こえてきた話に胸が抉られるような気持ちになった。

「小鳥遊グループの御曹司が婚約したんだって!運命の番らしいよ!ロマンチックだねー羨ましい!お相手も素敵な人らしいよ!」

 目の前が真っ暗になった…そっか汐李は運命の番なら番ってもいいって言ってたもんね。

 高人と汐李が婚約したんだ…良かった…小鳥遊夫妻も安心しただろうな…2人とも綺麗だしかっこいいしお似合いだな…。

 そう思いながらシェルターの庭へ出た。庭の隅っこの木陰へ隠れるようにうずくまりしゃくり上げるように泣き続けた。

 泣いても泣いても苦しくてただただ辛かった…どのくらい泣いたかわからないけどしばらくして誰かの足音が近づいてきた。

「朔くんどうしたの?部屋にいないから探したよ。大丈夫かい?」

 湯川先生が僕の顔を覗き込んだ。

「何か辛いことでもあった?僕で良かったら話してみない?気持ちが楽になるかもしれないよ。」

 僕は先生に幼馴染みの汐李のこと家柄とバース性のことで一緒に居られずに離れたこと、それから高校で恋人になった高人のこと。

 そして汐李と高人が運命の番だったこと…。

 そのせいで僕が覚醒したこと。

 さっき2人が婚約したようだと噂を聞いてしまったこと…。

 話しながらまだまだ溢れ出る涙をハンカチで拭いながら湯川先生が抱きしめてくれた。

 「大丈夫だよ。君はまだ若い…これからまだまだ時間はある。できることも沢山あるし出会いだってある。僕もそばにいるよ。」

 そう言いながらいつもみたいに頭を撫でてくれた。

 先生は優しくてあったかいな…と思いながら泣き疲れてそのまま眠ってしまったようだった。

 先生は僕をベッドに寝かしておでこにキスしてつぶやいた「僕なら君を悲しませないのに…」

 眠っていた僕には聞こえなかった。
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