愛されベータ

マロン

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なかなかお見合いを勧める話を切り出せないまま月に一度の検診の日が迫って来た。

「検診は何時に行くの?迎えに行くよ!なんなら僕も一緒に話を聞くし!」
 汐李が僕に向かって息まいた。

 お見合いの話をするなら今がチャンスだ。

「汐李明日の土曜日はお見合いがあるでしょ?大手製薬会社の三男で上位アルファのすごく素敵な方だと聞いてるよ。そろそろきちんと相手を見つけないといけないんじゃない?」

 このセリフを言うためにすごく練習したからね。多分自然な感じで話せたと思う。表情にも気をつけた。

 汐李の表情がみるみる険しくなった。

「何それ!なんで朔がそんなこと言うの?どうして?」

 僕の両肩を掴んで揺さぶる。僕は目を合わすことも出来ずに俯いて「ごめん」って言うのが精一杯だった。

 汐李は俯く僕を見て、自分の両親の差し金だと気づいたようですぐに小鳥遊夫妻の元へ向かった。

 バンッと両親の執務室の扉を開ける。

「汐李ノックもなしにいきなり部屋へ入って来るとは何ごとですか?」

 奥さまが厳しい顔で汐李を嗜めた。

「僕にお見合いをちゃんと受けるようにと朔を差し向けましたね。」

 旦那さまが
「なんだわかっていたのか。ならば話は早い。朔くんに取りなしてもらわないといけない程大切なお見合いなんだ。お前も会社経営の一端を担っているのだからわかるだろう?」

 汐李を追いかけて執務室の入り口にいた僕に向かって旦那さまは言った。

「朔くんご苦労様。明日は検診だと聞いている。今日はもう帰りなさい。」

 そう言われてしまったので頭を下げて出て行こうとしたら汐李に腕を掴まれた。

「父さん母さん僕は誰とも番うつもりはありません。跡取りなら小鳥遊の親戚中に優秀なアルファが沢山いるじゃないですか。そもそもうちは小鳥遊グループの本家じゃない。本家の叔父さんのところから跡取りを呼んだら良いんだ。僕はその跡取りを経営者として支えて育てることにする。」
 と言い放った。

 それを聞いてた皆は呆然としていたが奥さまがハッとして口を開いた。

「あなたはオメガなのよ。良いアルファと番うことがどれほど幸せなことか!」

「アルファと番うことがオメガの幸せなの?じゃあ運命の番が現れたら考えるよ。見つかるかわからないけどね。」

 明日のお見合いはキャンセルしてと横にいた秘書に告げてから汐李は僕を連れて部屋から出た。

 残された小鳥遊夫妻は頭を抱えたのだった。

 検診へどうしてもついて行くと玄関先でごねる汐李を諭したのは僕のお母さんだった。

 今日はお屋敷の仕事を休んで一緒に検診に行くと言った。

 お母さんも両性ベータだから貴重なサンプルとしてバースセンターに協力している。

 いつも別々に行くのにどうやら昨日の出来事で小鳥遊夫妻に相談されたらしい。

 お母さんは僕に汐李のお見合いを勧めさせたことを怒ってた。

 自分たちの問題に僕を巻き込むなんて…と。

 そして小鳥遊夫妻から頼まれたからって何でも言うことを聞く必要はないということ、困ったときは必ずお父さんかお母さんに相談して欲しいと話した。

 僕も心配かけちゃいけないと自分で抱え込んじゃう時があるから気をつけないと。

 お母さんは汐李に、バースセンターは家族以外付き添えないこと、それから両親ときちんと納得できるまで話をすべきだということを言い聞かせた。

 汐李は僕のお母さんのことも大好きだから渋々ながらも聞き入れて帰って行った。
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