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鳥のラブソング
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「フォグね、フォグ、ふぉー……お」
いろいろ気にしてると疲れるだけだ、と気づいて
真面目にフォグを探す。
そして。
「どうした?」
「すっげー集まってる。あそこ」
「どこだ」
「噴水の周り。びっくりするくらいうじゃうじゃいる…」
ここが街の中心地です、と言わんばかりに、開けた場所の中心に大きな噴水があった。
「よしっ」
ノアが急に言う。
「なんだよ」
「お前ならできる」
「は?」
「お前はフォグが見える」
「……うん」
「見えるだけじゃないはずだ」
「……ん?」
「私もセトも実体を捉えなければどうしようもないが、お前は違う」
なんだか嫌な予感がするんだけど…。
「セイレーンも味方につけて、少しは腕に自信がついただろう」
「ちょっと待って」
「お前は勇者だ。フォグが見える、千年に一人の勇者だ」
「うん、ノアちょっと待って」
「頑張れ」
「ちょっと待っ…えっ」
隠れていたはずだったのにドーンと背中を押され
俺だけが全身きれーに姿があらわになる。
「セト」
「オッケー。あーちゃん、ちゃんと見てるから頑張って」
「ちょっと!」
言いかけて、もうノアとセトの姿が目の前から消えていた。
うそだろ!?
振り返れば、案の定飛び出した俺に気づいたフォグ状態の魔物が、どうみても俺を見ている。
もやっとしていてわかりづらいが、少なくとも5,6体はいる。
本来見えないフォグが俺には見えているから
だから実体じゃなくてもそこにいることは確認できてる。
できてるけど、どうしたらいいんだよ。
銃は相変わらず一発撃ったら気絶しちゃうし、何か弾を探そうにも、こういう時に限ってちょうどいい石ころすら見つけられない。
というか、今魔物から目をそらしたらすぐ襲われる。弾をこめる余裕がない。
銃一発で全部仕留められたらいいが、全部一発で仕留めるなら綺麗に並んでもらわないといけない。
並んでもらうなんて絶対無理だ…。じゃあどうする、どうする!?
―グオオオオオッ
地響きのような声を出して、形がまだよくわからないフォグ状態のままの魔物が向ってきた。
確か、あいつらもフォグのままではこちらに攻撃できないはずだ。攻撃する時は実体を現す。じゃあその時に?
いや、フォグ状態を解除した時はもう攻撃の最中だ。
今の俺に魔物の攻撃が防げるか?
物理攻撃なら剣で、…でも、もし魔法だったら?この中で魔法が使える魔物がいたとしたら?
「うわあああっ」
考え事している間にも魔物が迫ってくる。
僅かに宙に浮いてる奴もいて、そいつは特に移動速度が速い。
ちょっと待って、俺にもう少し時間くれ。なんかこう考え…ってか無理だああああ!!!!
とにかく走り出す。
セトと戦って、セイレーンと戦って、どちらも俺が勝った。
勝ったけど、どっちも偶然のようなものだ。どっちも。
勇者なのに。俺。
なにやってんだろう…。
【「見えるだけじゃないはずだ」】
ノアの言葉が頭をよぎる。
【「私もセトも実体を捉えなければどうしようもないが、お前は違う」】
このまま走逃げていてもどうせ追いつかれる。
追いつかれたらもう立ち向かうしかなくなる。
ノアの言葉。
見えるだけじゃないのか。見えるってだけで勇者になったんじゃないのか。
俺だけができること。
見えるってことは、もしかして俺は。
-----
その頃
:西側施設『アヴェリア記念総合会館』
--------------------------------
嗚呼
どうしてそんなにまぶしいのかしら
どうしてそんなに美しいのかしら
純粋な優しさ
私を掴んで離さないその瞳
嗚呼~嗚呼~嗚呼~嗚呼~嗚呼~
生意気な小娘
頭がからっぽそうな小娘
憎しみのわくこの現実に嘆く日々を
あなたは笑って救い出す すべてが嘘だったように
あなたが全て あなたが全て
嗚呼~嗚呼~嗚呼~嗚呼~嗚呼~
愛しの 愛しの 愛しの
嗚呼~嗚呼~嗚呼~嗚呼~嗚呼~
--------------------------------
高波の海に、波とは別の飛沫が上がっている。
魔物がぞろぞろと、建物の裏手の海へ、遠くを見据え
そのまま次々と落下していく。
「シナさん!一応窓も玄関も、出入口は全部バリアで塞ぎました」
「ありがとうございます。建物全体もバリアで包んだから、これで大丈夫だと思うんですが」
シェリーナの歌声にひきつけられているのは、魔物だけではなかった。
「…海の真ん中で、しかも船も沈めさせてくれないとやる気でないって言ってたんだけどなあ」
歌声につられ、住人まで建物から出てきそうになったのを見て
慌てて魔法の使える兵と一緒に、外に出られないようにバリアを張った。
乗り気じゃなかったのに歌いだしてから
ずっと、おそらく勇者様へのラブソングを熱心に歌い続けている。
「いつまで続くんでしょうか…」
「たぶん、勇者様がここに来て『もういいよ』って言われるまで、続くかも…」
「ええっ…バリアがもてばいいんですが…」
魔物がシェリーナさんのおかげで楽に退治できて
街の人を守るのは大丈夫って思ってたんだけど、別の意味で大変になっちゃったなあ…。
(…にしても、『生意気な小娘』がノアちゃんの事だとしたら
『頭がからっぽそうな小娘』って、まさか、私じゃないよね…)
いろいろ気にしてると疲れるだけだ、と気づいて
真面目にフォグを探す。
そして。
「どうした?」
「すっげー集まってる。あそこ」
「どこだ」
「噴水の周り。びっくりするくらいうじゃうじゃいる…」
ここが街の中心地です、と言わんばかりに、開けた場所の中心に大きな噴水があった。
「よしっ」
ノアが急に言う。
「なんだよ」
「お前ならできる」
「は?」
「お前はフォグが見える」
「……うん」
「見えるだけじゃないはずだ」
「……ん?」
「私もセトも実体を捉えなければどうしようもないが、お前は違う」
なんだか嫌な予感がするんだけど…。
「セイレーンも味方につけて、少しは腕に自信がついただろう」
「ちょっと待って」
「お前は勇者だ。フォグが見える、千年に一人の勇者だ」
「うん、ノアちょっと待って」
「頑張れ」
「ちょっと待っ…えっ」
隠れていたはずだったのにドーンと背中を押され
俺だけが全身きれーに姿があらわになる。
「セト」
「オッケー。あーちゃん、ちゃんと見てるから頑張って」
「ちょっと!」
言いかけて、もうノアとセトの姿が目の前から消えていた。
うそだろ!?
振り返れば、案の定飛び出した俺に気づいたフォグ状態の魔物が、どうみても俺を見ている。
もやっとしていてわかりづらいが、少なくとも5,6体はいる。
本来見えないフォグが俺には見えているから
だから実体じゃなくてもそこにいることは確認できてる。
できてるけど、どうしたらいいんだよ。
銃は相変わらず一発撃ったら気絶しちゃうし、何か弾を探そうにも、こういう時に限ってちょうどいい石ころすら見つけられない。
というか、今魔物から目をそらしたらすぐ襲われる。弾をこめる余裕がない。
銃一発で全部仕留められたらいいが、全部一発で仕留めるなら綺麗に並んでもらわないといけない。
並んでもらうなんて絶対無理だ…。じゃあどうする、どうする!?
―グオオオオオッ
地響きのような声を出して、形がまだよくわからないフォグ状態のままの魔物が向ってきた。
確か、あいつらもフォグのままではこちらに攻撃できないはずだ。攻撃する時は実体を現す。じゃあその時に?
いや、フォグ状態を解除した時はもう攻撃の最中だ。
今の俺に魔物の攻撃が防げるか?
物理攻撃なら剣で、…でも、もし魔法だったら?この中で魔法が使える魔物がいたとしたら?
「うわあああっ」
考え事している間にも魔物が迫ってくる。
僅かに宙に浮いてる奴もいて、そいつは特に移動速度が速い。
ちょっと待って、俺にもう少し時間くれ。なんかこう考え…ってか無理だああああ!!!!
とにかく走り出す。
セトと戦って、セイレーンと戦って、どちらも俺が勝った。
勝ったけど、どっちも偶然のようなものだ。どっちも。
勇者なのに。俺。
なにやってんだろう…。
【「見えるだけじゃないはずだ」】
ノアの言葉が頭をよぎる。
【「私もセトも実体を捉えなければどうしようもないが、お前は違う」】
このまま走逃げていてもどうせ追いつかれる。
追いつかれたらもう立ち向かうしかなくなる。
ノアの言葉。
見えるだけじゃないのか。見えるってだけで勇者になったんじゃないのか。
俺だけができること。
見えるってことは、もしかして俺は。
-----
その頃
:西側施設『アヴェリア記念総合会館』
--------------------------------
嗚呼
どうしてそんなにまぶしいのかしら
どうしてそんなに美しいのかしら
純粋な優しさ
私を掴んで離さないその瞳
嗚呼~嗚呼~嗚呼~嗚呼~嗚呼~
生意気な小娘
頭がからっぽそうな小娘
憎しみのわくこの現実に嘆く日々を
あなたは笑って救い出す すべてが嘘だったように
あなたが全て あなたが全て
嗚呼~嗚呼~嗚呼~嗚呼~嗚呼~
愛しの 愛しの 愛しの
嗚呼~嗚呼~嗚呼~嗚呼~嗚呼~
--------------------------------
高波の海に、波とは別の飛沫が上がっている。
魔物がぞろぞろと、建物の裏手の海へ、遠くを見据え
そのまま次々と落下していく。
「シナさん!一応窓も玄関も、出入口は全部バリアで塞ぎました」
「ありがとうございます。建物全体もバリアで包んだから、これで大丈夫だと思うんですが」
シェリーナの歌声にひきつけられているのは、魔物だけではなかった。
「…海の真ん中で、しかも船も沈めさせてくれないとやる気でないって言ってたんだけどなあ」
歌声につられ、住人まで建物から出てきそうになったのを見て
慌てて魔法の使える兵と一緒に、外に出られないようにバリアを張った。
乗り気じゃなかったのに歌いだしてから
ずっと、おそらく勇者様へのラブソングを熱心に歌い続けている。
「いつまで続くんでしょうか…」
「たぶん、勇者様がここに来て『もういいよ』って言われるまで、続くかも…」
「ええっ…バリアがもてばいいんですが…」
魔物がシェリーナさんのおかげで楽に退治できて
街の人を守るのは大丈夫って思ってたんだけど、別の意味で大変になっちゃったなあ…。
(…にしても、『生意気な小娘』がノアちゃんの事だとしたら
『頭がからっぽそうな小娘』って、まさか、私じゃないよね…)
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