固定観念(いま)をぶち壊せ!

椎奈風音

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日常をぶち壊せ!

譲 side

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「……ちっ!逃げられたか」
 肝心なことを訊く前に逃げられてしまい、舌打ちをする。
 咲は意外に足が速い。
 階段を駆け下りる音が、次第に小さくなっていく。
 今更追いかけても追いつけはしないだろう。


(……アイツ、まだ何か隠しているな)
 本人はバレないように気を使っていたようだが、顔や態度に直ぐ出る咲は隠し事には向いていない。
 ちょっと下手にでて咲の罪悪感を煽れば、向こうからボロを出す。
 俺に隠し事なんて、100年早いんだよ!
 咲が俺から『逃げた』ということは、俺に知られたくないことがまだあるということだ。
 口での勝負になったら、絶対咲は俺には勝てない。
 だから、俺から逃げようとする。

 ……まぁ、逃がしはしないけどな。

 唇が無意識に笑みを形どる。
 逃げ道は全て塞いでやる。

 今回はいつもみたいに渚を味方につけるなんてことも出来ないだろうし。
 渚も咲が何か隠していることに気付いている。
 アイツも俺と同じように、咲に問い詰めようとするだろう。
 そんな渚を味方につけるのは、自分の首を絞めるのと同じことだ。

 いつも邪魔ばかりする生意気なもう一人の弟を思い浮かべる。
 渚はまだ中学生だが、誰に似たのか裏表が激しい。
 俺には絶対甘えてこないくせに、咲には人目を憚らずべったりだ。
 しかも、咲が甘やかすからタチが悪い。
 ソイツはお前が思っているほど、人畜無害じゃないと教えてやりたいくらいだ。
 油断してたら、パクリと喰われるぞ。

(まぁ、でも一歩前進か?)
 渚よりも俺の方が情報を持っている。
 それだけでも有利だ。
 咲を手に入れるために……。

 だけど、まさか咲からあんなことを告げられるとは思わなかった。
 聞いたときは、本気で腸が煮えくりかえるかと思った。
(よりによって、痴漢だと?)
 どこのどいつが汚い手で、俺の咲に触ったんだ!
 折角、今まで悪い虫がつかないように大事に囲ってきたのに。

 あの身体に触れた男がいるなんて許せない。
 咲は自分の容姿にコンプレックスがあるようだが、地味で目立たないだけでよく見ると整った顔立ちをしている。
 睫毛は影を作るほど長いし、切れ長の瞳は澄んでいる。
 漆黒の髪から覗くうなじは白くて妙に色っぽいし、手足はすらりと長い。
 腰は細くて、強く抱くと折れてしまいそうだ。
 咲はまるで自覚がないだろうが、その気のある男から見れば咲の身体は魅力的だ。
 あの桜色の唇から、どんな声が出るのか。
 真っ白な身体が快感に溺れたら、どんな色に染まるのか。
 一つになったら、どんな快感が得られるのか。
 それを考えただけでも、身体の中心が滾りそうだ。

 咲の身体に触れていいのも、快感を覚えさせるのも俺じゃなくてはならない。
 血の繋がった実の弟に、こんな感情を持つのは異常だとわかっている。
 だけど、他の誰にも、咲を渡す気はない。
 必ず、手に入れてみせる。
 例え、どんな手を使っても――。


 そんな俺の考えを遮るように、携帯の着信音が鳴る。
(……うるさいな)
 不機嫌なままスマホの画面を見ると、これまた俺を不機嫌にさせる相手からだった。
 取りたくないと思っても、どうせ出るまでかかってくる。
 それがわかっているから、嫌々ながらも電話を取った。

「……なんの用ですか」
 愛想の欠片もない声を出すと、相手が声も出さずに笑ったのがわかった。
 何もかも見透かされているようで、余計腹が立つ。
『ご機嫌斜めだな』
 わかりきっていることを聞いてくる男に、益々俺の気分は下降する。
「用がないんなら切りますよ」
 これ以上、意味のない会話を続ける気になれず、電話を切ろうとした俺の耳に聞き捨てならない言葉が聞こえた。
『咲が痴漢されたみたいだな』
「……っ!?」
 あまりの衝撃に、スマホを落とす所だった。
 なんで、この男がそんなことを知っているんだ?
 俺でさえ、今聞いたばかりの情報だ。
(まさか、咲が話したのか?)
 一瞬そう思ったが、部屋に籠城してまで隠し通していたことだ。
 それはありえない。

「なんで、知って……?」
『それを俺が教えると思うか?』
 思わない。そんな生易しい男ではない。
『一つ忠告しておく。咲に痴漢をした男を探そうと思うな』
「は?」
 思わず、耳を疑う。
 意味がわからない。

 この男だって、咲を独占したいと思っているはずだ。
 周りの反対を押し切って、咲を自分が経営する学園に編入させたくらいだ。
 このまま何もしないなんて、それこそありえないだろう。

「なんで……」
『これ以上、お前が知る必要はない』
 言いたいことだけ言うと、一方的に電話が切れた。
 また電話をかけ直したとしても男が出ることはないだろう。

「訳わかんねーよ、……叔父さん」
 俺の呟きは、誰もいない屋上に消えていった。
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感想 3

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みんなの感想(3件)

aigis
2018.08.08 aigis

とても面白くて好きな話です!
続き楽しみにしています!
執筆頑張って下さい!応援してます!

椎奈風音
2018.08.10 椎奈風音

aigis様、感想ありがとうございます。
序盤のまま更新停止していて申し訳ありません。
早目に続きを書きたいと思いますので、お待ち頂けると嬉しいです。

解除
あめいろ
2018.07.03 あめいろ

話の展開からキャラまで私の好みすぎます…
咲さん可愛いし早く続きが読みたい^ ^
執筆頑張って下さいね!応援しております!

椎奈風音
2018.07.04 椎奈風音

あめいろ様
こんなに放置している小説に、あたたかい言葉をいただき、本当にありがとうございます‼︎
この話は私の萌え要素を全開で詰め込んでいるので、話もキャラも好みと言って頂けて本当に嬉しいです。
なるべく早く続きが書けるように頑張りますので、よろしくお願いします。

解除
2017.07.28 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

椎奈風音
2017.08.03 椎奈風音

yuka様、感想ありがとうございます。
咲を可愛いと言って頂きありがとうございます。
まだ序盤で、主要人物が全て登場していませんが、なるべく早く続きをお見せ出来ればいいなと思っています。
これからもよろしくお願いします。

解除

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