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日常をぶち壊せ!
第七話
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「咲。俺は前に言わなかったか?言えないことは言わなくてもいいけど、嘘だけは吐くなと」
「あ……」
確かに兄貴は昔からよく言っていた。
いくら兄弟でも言いたくないことはあるし、知られたくないことだってある。それは仕方がない。
ただ嘘を吐かれるのだけは我慢出来ないと……。
「ゴメン。兄貴」
俺が素直に謝ると、少し兄貴の表情が和らいだ。
「今日も遅刻してきて、どれだけ心配したか!……昨日、俺達が問い詰め過ぎたっていうのもあるかもしれないけど、それ以外にも何かあったんだろ?」
「…………」
心配そうに見つめられると、罪悪感が湧いてくる。
正直、今朝のことは思い出したくもないし、言いたくもない。
だけど、このまま兄貴に心配かけたままでいいのか?
「……兄貴、馬鹿にしない?」
「は?何をだ?」
兄貴が訝しげな顔をする。
「あのさ……」
俺は重たい口を開いた。
「……痴漢……された」
「…………は?」
兄貴が呆気に取られたような顔をしている。
(……やっぱり言うんじゃなかった)
今更後悔しても、口に出したことをなかったことには出来ない。
痴漢されたなんて、兄貴や渚みたいに容姿が優れていれば別だけど、俺みたいな平凡なヤツだと笑い話にしかならないだろう。
というか、本気にされないかもしれない。
「…………。(どこのどいつだ?俺のものに手を出した馬鹿は)」
「え……?」
兄貴の声が小さ過ぎて聞き取れず、首を傾げると兄貴が不敵な笑みを浮かべた。
(なんか、怖いんだけど)
どちらかと言うと、あまり表情の動かない兄貴が笑うとめちゃめちゃ怖い。
ゾクリと背筋が震えるのが自分でもわかる。
「で、咲。お前どこまで触られた?」
「どこまでって……」
朝の出来事を思い出して、カァッと顔が熱くなる。
そんなこと言えるわけがない。
「咲、お前……」
「え?」
「まさかとは、思うが最後までされたのか?」
最後までって、男にバージン奪われたとか、そういう……。
「…………。ええ~っ!?」
兄貴の台詞が脳内へ届いた瞬間、俺は思わず大声で叫んでいた。
「咲?」
「ない、ない!そんなのないっ!」
取れそうなくらい頭を振って否定する俺に、ほっとしたのか兄貴の表情が和らぐ。
それは他人にはわからないようなちょっとした変化だったが、兄貴の顔を見慣れている俺にはわかった。
「じゃあ、ちょっと触られただけか?」
「……うん」
ちょっとどころの話じゃないけど、そんなことを言うとせっかく収まりかけていたのにまた大変なことになりそうだ。
とりあえず、この場を穏便に収めることが先決だ。
「そうか、良かった。相手はどんなヤツか、見たのか?」
「ううん。見てない。直ぐに電車から降りたし」
「…………ふ~ん」
兄貴の沈黙が怖い。
ジッと見つめられて、思わず後ずさりそうになるのを必死で堪える。
そんな態度をとったら、後ろめたいことがあるのがバレバレだ。
蛇に睨まれた蛙のように立ち尽くす俺を救ったのは、授業開始を知らせるチャイムの音だった。
「兄貴、授業始まったから、教室に戻るね!」
「待て、咲!」
兄貴の呼び止める声が聞こえたが、これを逃したら兄貴から逃れる術はない。
俺は一目散に、屋上から飛び出した。
「あ……」
確かに兄貴は昔からよく言っていた。
いくら兄弟でも言いたくないことはあるし、知られたくないことだってある。それは仕方がない。
ただ嘘を吐かれるのだけは我慢出来ないと……。
「ゴメン。兄貴」
俺が素直に謝ると、少し兄貴の表情が和らいだ。
「今日も遅刻してきて、どれだけ心配したか!……昨日、俺達が問い詰め過ぎたっていうのもあるかもしれないけど、それ以外にも何かあったんだろ?」
「…………」
心配そうに見つめられると、罪悪感が湧いてくる。
正直、今朝のことは思い出したくもないし、言いたくもない。
だけど、このまま兄貴に心配かけたままでいいのか?
「……兄貴、馬鹿にしない?」
「は?何をだ?」
兄貴が訝しげな顔をする。
「あのさ……」
俺は重たい口を開いた。
「……痴漢……された」
「…………は?」
兄貴が呆気に取られたような顔をしている。
(……やっぱり言うんじゃなかった)
今更後悔しても、口に出したことをなかったことには出来ない。
痴漢されたなんて、兄貴や渚みたいに容姿が優れていれば別だけど、俺みたいな平凡なヤツだと笑い話にしかならないだろう。
というか、本気にされないかもしれない。
「…………。(どこのどいつだ?俺のものに手を出した馬鹿は)」
「え……?」
兄貴の声が小さ過ぎて聞き取れず、首を傾げると兄貴が不敵な笑みを浮かべた。
(なんか、怖いんだけど)
どちらかと言うと、あまり表情の動かない兄貴が笑うとめちゃめちゃ怖い。
ゾクリと背筋が震えるのが自分でもわかる。
「で、咲。お前どこまで触られた?」
「どこまでって……」
朝の出来事を思い出して、カァッと顔が熱くなる。
そんなこと言えるわけがない。
「咲、お前……」
「え?」
「まさかとは、思うが最後までされたのか?」
最後までって、男にバージン奪われたとか、そういう……。
「…………。ええ~っ!?」
兄貴の台詞が脳内へ届いた瞬間、俺は思わず大声で叫んでいた。
「咲?」
「ない、ない!そんなのないっ!」
取れそうなくらい頭を振って否定する俺に、ほっとしたのか兄貴の表情が和らぐ。
それは他人にはわからないようなちょっとした変化だったが、兄貴の顔を見慣れている俺にはわかった。
「じゃあ、ちょっと触られただけか?」
「……うん」
ちょっとどころの話じゃないけど、そんなことを言うとせっかく収まりかけていたのにまた大変なことになりそうだ。
とりあえず、この場を穏便に収めることが先決だ。
「そうか、良かった。相手はどんなヤツか、見たのか?」
「ううん。見てない。直ぐに電車から降りたし」
「…………ふ~ん」
兄貴の沈黙が怖い。
ジッと見つめられて、思わず後ずさりそうになるのを必死で堪える。
そんな態度をとったら、後ろめたいことがあるのがバレバレだ。
蛇に睨まれた蛙のように立ち尽くす俺を救ったのは、授業開始を知らせるチャイムの音だった。
「兄貴、授業始まったから、教室に戻るね!」
「待て、咲!」
兄貴の呼び止める声が聞こえたが、これを逃したら兄貴から逃れる術はない。
俺は一目散に、屋上から飛び出した。
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