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日常をぶち壊せ!
第六話
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……あの後のことは思い出したくない。
男にイカされた後、タイミング良く電車が止まり、俺は死に物狂いでホームに出た。
周りの迷惑を考えず、男から逃げることしか考えられなかった俺は、人混みを押しのけて改札まで走った。
駅を出た所で、追いかけてくる影がないことにホッとする。
(……なんで)
今になって、心臓がバクバクしてくる。
自分がどれだけ余裕がなかったのかわかる。
扉が閉まる瞬間に、男が言った言葉が忘れられない。
「君はもうこの快感から逃げられない。……二度とね」
胸の奥がざわつく。
今回はなんとか逃げ切ったけど、次は?
今度あの男と会ったら、俺はどうなるんだろう。
知らなかった未知の世界へ無理矢理引きずり込まれていく……。
もうこれ以上、乱さないで欲しい。
気持ちを切り替えるように周りを見回すと、3つ前の駅で下りてしまったことに気付いた。
(……マジかよ)
今から電車に乗れば、ギリギリ間に合うだろうが、電車に乗る気分になれない。
俺は遅刻覚悟で、学校まで歩くことにした。
(……気まずい)
気分が落ち込んでいたこともあり、歩くペースがいつもより遅かった俺が学校に着いたのは、二時間目が終わった頃だった。
二日連続の遅刻で肩身の狭い俺は、なるべく音をたてないように扉を開けたが、教室の中の光景を見た瞬間、思わず扉を閉めた。
(なんで!?)
自分の目で見た物が信じられない。
いや……、まさかね。一年の教室にいるわけないし……。
今見た物が見間違いであって欲しい。
そんな思いで、教室を見つめていると――。
「……昨日から、いい度胸だな?咲」
中から扉が開け放たれ、目の据わった兄貴が出てきた。
(……うわー)
回れ右して、本気で逃げ出したい気分だ。
これはもうキレてるなんてもんじゃない。
「質問に答えて貰おうか?咲。なんで遅刻した?」
地の底から響くような悪魔の声に、俺は咄嗟に逃げ出した。
逃げたら更に怒りを注ぐのはわかっているが、今捕まったら殺されそうな勢いだ。
俺は必死で階段を駆け上り、屋上に着くと扉を閉めた。
鍵が掛からないから、扉が開かないように扉の前に座る。
階下から走ってくる足音が聞こえ、恐怖を覚えながら、扉に力をかけた。
ドカンッ!!!
(ひぇ~)
兄貴が力任せに扉を蹴り上げたのか、凄い音と衝撃が背中にくる。
どこのヤクザの取り立てかと思うようなやり方だ。
「咲、俺が冷静なうちに扉を開けたほうがいいぞ」
……冷静なヤツなら扉なんか蹴らないと思うが、それを今の兄貴に言う勇気はない。
どちらにしても、このままだと蹴破られるのは時間の問題だ。
考え込んでいるうちに、更に激しくなった扉への攻撃に取りあえず隠れる場所がないかと探すが、こんな最上階にそんな場所があるわけない。
(なんで俺は下に逃げなかったんだ)
自分で自分の首を絞めたのがわかった俺は、自分の馬鹿さ加減を呪いたくなった。
「……咲」
外からの圧力に負け、とうとう扉がこじ開けられる。
入ってきた兄貴を見た瞬間、あまりの迫力に硬直してしまった。
整い過ぎた顔は、今はもう笑みさえ浮かべていない。
(……あぁ)
これはもう駄目だ。
「よくもこんなに逃げ回ってくれたな。……もう逃げ場はないけどな」
兄貴の言う通り、これ以上逃げようと思ったら、屋上から飛び降りるしかない。
だが五階の高さから飛び降りて、生きていられる自信はない。
「まぁ、例え逃げ場があったとしても逃がしはしないけど?」
「……っ!」
ツカツカと歩み寄ってきた兄貴に腕を掴まれる。
かなり力が込められていて、痣になりそうだ。
なんとか手を離してもらいたいが、今の状況では無理だろう。
俺には何故こんなに兄貴が怒っているのかわからない。
確かに部屋に籠城したり、顔を見た瞬間逃げたりしたけど、どちらかと言えば兄貴は俺に甘い。
普通だったら、こんなに絡まれることはない。
「兄貴、なんでそんなに怒ってるの?」
「……お前がそれを訊くのか?」
地を這うような声で言われて、ビクッとする。
わからないから、訊いてるんだけど……。
男にイカされた後、タイミング良く電車が止まり、俺は死に物狂いでホームに出た。
周りの迷惑を考えず、男から逃げることしか考えられなかった俺は、人混みを押しのけて改札まで走った。
駅を出た所で、追いかけてくる影がないことにホッとする。
(……なんで)
今になって、心臓がバクバクしてくる。
自分がどれだけ余裕がなかったのかわかる。
扉が閉まる瞬間に、男が言った言葉が忘れられない。
「君はもうこの快感から逃げられない。……二度とね」
胸の奥がざわつく。
今回はなんとか逃げ切ったけど、次は?
今度あの男と会ったら、俺はどうなるんだろう。
知らなかった未知の世界へ無理矢理引きずり込まれていく……。
もうこれ以上、乱さないで欲しい。
気持ちを切り替えるように周りを見回すと、3つ前の駅で下りてしまったことに気付いた。
(……マジかよ)
今から電車に乗れば、ギリギリ間に合うだろうが、電車に乗る気分になれない。
俺は遅刻覚悟で、学校まで歩くことにした。
(……気まずい)
気分が落ち込んでいたこともあり、歩くペースがいつもより遅かった俺が学校に着いたのは、二時間目が終わった頃だった。
二日連続の遅刻で肩身の狭い俺は、なるべく音をたてないように扉を開けたが、教室の中の光景を見た瞬間、思わず扉を閉めた。
(なんで!?)
自分の目で見た物が信じられない。
いや……、まさかね。一年の教室にいるわけないし……。
今見た物が見間違いであって欲しい。
そんな思いで、教室を見つめていると――。
「……昨日から、いい度胸だな?咲」
中から扉が開け放たれ、目の据わった兄貴が出てきた。
(……うわー)
回れ右して、本気で逃げ出したい気分だ。
これはもうキレてるなんてもんじゃない。
「質問に答えて貰おうか?咲。なんで遅刻した?」
地の底から響くような悪魔の声に、俺は咄嗟に逃げ出した。
逃げたら更に怒りを注ぐのはわかっているが、今捕まったら殺されそうな勢いだ。
俺は必死で階段を駆け上り、屋上に着くと扉を閉めた。
鍵が掛からないから、扉が開かないように扉の前に座る。
階下から走ってくる足音が聞こえ、恐怖を覚えながら、扉に力をかけた。
ドカンッ!!!
(ひぇ~)
兄貴が力任せに扉を蹴り上げたのか、凄い音と衝撃が背中にくる。
どこのヤクザの取り立てかと思うようなやり方だ。
「咲、俺が冷静なうちに扉を開けたほうがいいぞ」
……冷静なヤツなら扉なんか蹴らないと思うが、それを今の兄貴に言う勇気はない。
どちらにしても、このままだと蹴破られるのは時間の問題だ。
考え込んでいるうちに、更に激しくなった扉への攻撃に取りあえず隠れる場所がないかと探すが、こんな最上階にそんな場所があるわけない。
(なんで俺は下に逃げなかったんだ)
自分で自分の首を絞めたのがわかった俺は、自分の馬鹿さ加減を呪いたくなった。
「……咲」
外からの圧力に負け、とうとう扉がこじ開けられる。
入ってきた兄貴を見た瞬間、あまりの迫力に硬直してしまった。
整い過ぎた顔は、今はもう笑みさえ浮かべていない。
(……あぁ)
これはもう駄目だ。
「よくもこんなに逃げ回ってくれたな。……もう逃げ場はないけどな」
兄貴の言う通り、これ以上逃げようと思ったら、屋上から飛び降りるしかない。
だが五階の高さから飛び降りて、生きていられる自信はない。
「まぁ、例え逃げ場があったとしても逃がしはしないけど?」
「……っ!」
ツカツカと歩み寄ってきた兄貴に腕を掴まれる。
かなり力が込められていて、痣になりそうだ。
なんとか手を離してもらいたいが、今の状況では無理だろう。
俺には何故こんなに兄貴が怒っているのかわからない。
確かに部屋に籠城したり、顔を見た瞬間逃げたりしたけど、どちらかと言えば兄貴は俺に甘い。
普通だったら、こんなに絡まれることはない。
「兄貴、なんでそんなに怒ってるの?」
「……お前がそれを訊くのか?」
地を這うような声で言われて、ビクッとする。
わからないから、訊いてるんだけど……。
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