固定観念(いま)をぶち壊せ!

椎奈風音

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日常をぶち壊せ!

第一話

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(マジで、ありえねぇ……)
 人がひしめき合って、身動きすることすら難しい満員電車の中。 
 俺は壁に凭れるように立っていた。

 私立藤宮学園。 
 都内でも有名な良家の坊ちゃんが通う男子校に、俺はある事情から1ヶ月前に転校した。 
 それまでは家から近いという理由で地元の高校に通っていたから、満員電車がここまで凄まじいものだということを知らなかった。
 まず、身動きが取れない。 
 気を抜くと、人に押されて倒れそうになる。
 そして、ハイヒールで踏まれたり、鞄で殴られたりする。 
 不可抗力なんだろうけど、最寄りの駅に着くまでの40分間は本当に地獄だ。
 最近は少し学習して、出来るだけ壁側に避難するようにしている。 
 ……運良く空いてればの話だが……。

「……っ!?」
 さっきから気になっていたが、腰の辺りに人の手が触れている気がする。
 満員電車の中では、人に触れずにいることなんて不可能だ。
 それはわかっているのだが、意志を持ったようにゆっくりと尻を撫で回され動揺する。
(まさか、痴漢?) 
 いや、いや。男相手に痴漢なんて、ありえねぇだろう。 
 ……これは、たまたま後ろの人の手が当たっただけ……。

 俺が抵抗しないことに気を良くしたのか、明らかに男だとわかる手が俺の尻を鷲掴みにした。
「……ゃ!」
 悲鳴をかみ殺せたのは、奇跡に近い。
(俺を女と間違えてるのか?) 
 一瞬そう思ったが、制服を着ていてそれはありえない。 
 じゃあ、コイツは何? 

 尻を撫でていた手が前に回り、俺の大事な所をズボンの上からなぞってくる。 
 流石にここまでくると、俺が男だとわかっていて痴漢をしているのがわかる。
(でも、なんで俺なんだ?)
 自分で言うのもなんだが、俺はどこにでもいそうな平凡な男子高校生だ。 
 顔も十人並みだし、身長も中肉中背で、これといった特徴もない。 
 超絶美形の兄貴や、美少女顔負けの弟ならまだわかるが、俺に食指が動くなんて信じられない。

「……抵抗しないの?」 
 耳元で低い男の声がして、背筋がゾクリとする。 
 声の感じからすると、まだ若そうだ。 
 後ろから押さえつけられていて、男の顔は見えない。
(馬鹿か、コイツは) 
 こんな満員電車の中で、抵抗なんて出来るわけがない。 
「抵抗しないなら、……食べちゃうよ?」 
 男がベルトを外し、直接ズボンの中に手を入れた。
「嫌だ!」 
 思わず身体を捻るが、周りの人に迷惑そうな視線を向けられて、その場から動けなくなる。
 男が男に痴漢されているなんて、誰にも知られたくない。 
 それが男の思う壺だとは知らずに……。

 更に大胆になった男の手が、俺の中心を直接触る。 
 この異常な状況に萎えているはずのそこは、男の手によって段々勃ちあがっていく。 
 こすりあげられて、淫らな音が聞こえてきそうだ。
「もう、びしょ濡れだね、君のここ」 
 気を抜くと変な声が出そうで、俺は唇を噛んだ。 
 無理矢理されているはずなのに、感じてる自分がわからない。
「……ほら、もう音が聞こえる」 
「……やっ」 
 男がわざと強く扱く。
 俺は腰が砕けそうになって、前の壁に凭れかかる。 
「……恥ずかしいね。こんな公共の場所でイッたりしたら」 
 男の舌が耳に差し込まれ、直接言葉を吹き込まれる。 
 その刺激にさえ感じてしまい、腰が痙攣した。 
 もう時間の問題な気がする。
 男の愛撫は巧みすぎて、自慰しかしたこのない俺には刺激が強すぎる。

(……ヤバイ!イク……っ!)
 そう思った瞬間、電車がホームに着きドアが開く。
 人の波に流されホームまで押し出されて、そこが学校の最寄りの駅だったことに気付く。
「残念。タイムリミットか。またね、さき君」
「は?」
(なんで、俺の名前を知ってるんだ?) 
 俺は人混みに紛れて消えていく男と、持て余したままの欲望を抱えながら、呆然と立ち竦んだ。 
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