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逃がさない
第四話
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「はぁ……」
今日のバイトは失敗続きだった。
客の注文は間違えるし、グラスはひっくり返すしで、役に立つどころか邪魔にしかならなかった。
見兼ねた店長に、定時よりも早く上がらされたくらいだ。
週末でみんなが忙しく働いている中、上がるのは気が引けたが、集中力を欠いた自分が何か出来るとも思えず店長の言葉に甘えることにした。
仕事なのに全く集中出来なくて、みんなに迷惑かけて、本当に最低だ。
自己嫌悪に陥っていた俺は、背後に近付く影に全く気付いていなかった。
アパートに着き、自分の部屋の鍵を開けた瞬間、背後から押され無理矢理部屋の中に押し込まれた。
突然のことに、何が起こったのかわからない。
暗闇の中に、自分と見知らぬ誰かがいる。
それがわかった瞬間、俺は必死に逃げようとしたが、出来なかった。
掴まれた手の力は強く、ビクともしない。
こんな力、女の人じゃありえない。
相手は……男?
もしかしたら、強盗かもしれない。
こんな学生アパートに金目の物なんてないとは思うが、以前同じアパートの人が空き巣にあったと言っていたから、ないとも言い切れない。
それに強盗だったら、何か凶器を持っていてもおかしくない。
そう思うと、下手に暴れられない。
かと言って、このまま大人しくしてても事態が良くなるとも思えない。
そうこうしているうちに、後ろ手で縛られ、床に転がされる。
かなりキツく縛られているのか、手が痺れてくる。
目を布で塞がれ、少し暗闇に慣れてきた視界が一気に暗くなる。
「だ、誰か……っ」
叫ぼうとした口は男の手に塞がれ、呻き声しか出ない。
(……殺されるっ!)
恐怖に身体が震える。
そんな俺に、男が笑った。
「そんなに怯えるなよ、美咲」
男の低い声は、どこかで聞いたことのあるような気がしたが、恐怖で気が動転している俺にはそれが誰だかわからなかった。
「会いたかったよ、美咲。俺がどれだけ、君のことばかり見ていたか、君だって知ってるだろう?」
俺のことばかり、見てた?
俺の中で、散らばっていたピースがピタリと嵌った。
「あの、ストーカー……」
「酷いな、ストーカーなんて。俺は君を愛してるだけなのに」
人の後をつけて盗撮して、更には部屋に勝手に入って来たあげく、人を拘束して……。
それが、犯罪じゃないと?
「ふざけんな!」
恐怖を通り越して、心底頭にきた。
「ふざけてなんかいない。君は、俺の物になる運命。……逃がさないよ」
男の低い声と共に、腹に衝撃を受け俺の意識は深く沈んだ。
今日のバイトは失敗続きだった。
客の注文は間違えるし、グラスはひっくり返すしで、役に立つどころか邪魔にしかならなかった。
見兼ねた店長に、定時よりも早く上がらされたくらいだ。
週末でみんなが忙しく働いている中、上がるのは気が引けたが、集中力を欠いた自分が何か出来るとも思えず店長の言葉に甘えることにした。
仕事なのに全く集中出来なくて、みんなに迷惑かけて、本当に最低だ。
自己嫌悪に陥っていた俺は、背後に近付く影に全く気付いていなかった。
アパートに着き、自分の部屋の鍵を開けた瞬間、背後から押され無理矢理部屋の中に押し込まれた。
突然のことに、何が起こったのかわからない。
暗闇の中に、自分と見知らぬ誰かがいる。
それがわかった瞬間、俺は必死に逃げようとしたが、出来なかった。
掴まれた手の力は強く、ビクともしない。
こんな力、女の人じゃありえない。
相手は……男?
もしかしたら、強盗かもしれない。
こんな学生アパートに金目の物なんてないとは思うが、以前同じアパートの人が空き巣にあったと言っていたから、ないとも言い切れない。
それに強盗だったら、何か凶器を持っていてもおかしくない。
そう思うと、下手に暴れられない。
かと言って、このまま大人しくしてても事態が良くなるとも思えない。
そうこうしているうちに、後ろ手で縛られ、床に転がされる。
かなりキツく縛られているのか、手が痺れてくる。
目を布で塞がれ、少し暗闇に慣れてきた視界が一気に暗くなる。
「だ、誰か……っ」
叫ぼうとした口は男の手に塞がれ、呻き声しか出ない。
(……殺されるっ!)
恐怖に身体が震える。
そんな俺に、男が笑った。
「そんなに怯えるなよ、美咲」
男の低い声は、どこかで聞いたことのあるような気がしたが、恐怖で気が動転している俺にはそれが誰だかわからなかった。
「会いたかったよ、美咲。俺がどれだけ、君のことばかり見ていたか、君だって知ってるだろう?」
俺のことばかり、見てた?
俺の中で、散らばっていたピースがピタリと嵌った。
「あの、ストーカー……」
「酷いな、ストーカーなんて。俺は君を愛してるだけなのに」
人の後をつけて盗撮して、更には部屋に勝手に入って来たあげく、人を拘束して……。
それが、犯罪じゃないと?
「ふざけんな!」
恐怖を通り越して、心底頭にきた。
「ふざけてなんかいない。君は、俺の物になる運命。……逃がさないよ」
男の低い声と共に、腹に衝撃を受け俺の意識は深く沈んだ。
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