Voice

椎奈風音

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衝撃

第二話

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(マジでありえねぇ)
 予想していた通り、本当に翔梧の手伝いをすることになった俺の心境は複雑だ。
 撮影の準備だけでも、慣れない俺はあたふたしてしまう。
 慣れない作業のせいで、余計疲れを感じる。
 隣で涼しげな顔をしている翔梧を睨むが、翔梧はまるで気にしていない。
(……マジで最低だよ、お前は)

 準備が終わり、まだCMに出演するモデルが来ていないということで、俺は道具を抱えたまま、ぼんやりとしていた。


「遅くなって、すみません」
 ぼんやりしていた俺は、扉が開く音にビクッとして、思わず道具を落としてしまい、翔梧に睨まれる。
 翔梧に小声で、ごめんと謝っていると、三人の少年達が入ってきた。
 
 一人は藤堂で、もう一人は前回のCMにも出ているモデルのタカ。
 そして最後の一人は、繊細な美貌の少年だった。

「今日はよろしくお願いします」
(この声……)
 俺は弾かれたように、声の主を見た。
(まさか……)
 俺はタカの端整な顔を見ながら、呆然とした。
 一言だけだったが、何回もVoiceのCMを見ていた俺には、『あの声』と同じにしか聞こえない。

 だけど……、何故か『あの声』を聞いた時の様な高揚感はない。
(もしかして、俺の勘違いなのか?)

『あの声』を自分が聞き間違えることはないと思うが、釈然としない。
 あまりにも彼をマジマジと見続けたせいか、彼がこっちに歩いてくる。
 さすがモデルというような華麗なウォーキングと煌びやかな雰囲気に圧倒される。

「やぁ、翔梧。今回も美しい映像を期待してるよ」
「それはモデル次第だな」
 淡々と答えた翔梧に、タカは苦笑いを浮かべた。
(なんだ。俺に用ってわけじゃないんだ)
 よく考えれば、わかることなのに、一人で舞い上がって恥ずかしい。 

「……翔梧、彼は?」
 あまりにもじっと見つめていたせいか、タカが俺の方に目を向けた。
「ああ、コイツは幼なじみの奏。今日は手伝いに来てもらった」
「そうなんだ。初めまして。俺は司堂貴明しどうたかあき。今日はよろしく」
「……よろしくお願いします」
 憧れの声を間近で聞いたせいで、舞い上がって声がうわずってしまう。

(……とりあえず、落ち着かないと)
 俺は皆にバレないように、こっそり深呼吸をした。
 それでも、ドキドキした心臓は治まらない。
(マジでヤバイ)
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