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とある研究員の軌跡

とある新米研究員がリーダーとなるまで(3)

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 私はニコライ教授が話していた中で一つだけ気になるものがあった。
「あの、一つ質問させていただいてもよろしいですか?」
「ええ、構いませんよ。もし捕まった時の処遇等ですか?」
「確かにそれも気になりますけど……。私がお聞きしたいのは情報を横流しした研究員の送った先が【別の組織】っておっしゃっていましたが、それは一体何の組織なのでしょうか?」
 私の質問を聞くと急にニコライ教授の表情が険しくなった。
「それは不明です。電波は傍受出来ても、送信先までは特定出来なかったそうです。なので、私からは答えられないですね」
 ニコライ教授は淡々と話していたが、その声にはどこか黒い何かを感じた。私はその先に踏み込みたかったが、その話し方が何者も触れてほしくないような雰囲気を出していたため、私はどうしてもその一歩が踏み出せなかった。
「はい、分かりました。余計なことを聞いてしまいすみませんでした」
 ニコライ教授は眉間を摘まんでマッサージをした後に私に顔を向けた。私はその表情がなんだか憂いを帯びているように見えた。
「あなたが謝る必要はありません。ただ、あまりその話に触れない方がいいですよ。嫌な事件は実際にあったのですからね」
「はい、分かりました。以後、気を付けます……」





 ピリリリリリリ!!



 少しの沈黙の後、空気を変えるかのようにニコライ教授から電話の音が聞こえた。
「ああ、すみませんね。チームリーダーの件、おそらく今度は上層部からあなたに直接連絡が来ると思いますので、それまでは今のチームの手伝いをお願いします。では私は電話に出ますので、先に部屋を出ても構いませんからね。これからも頑張ってください」
 騒々しい電話の着信音が響く部屋でニコライ教授は私に微笑みかけた。私はその顔につい見惚れてしまったが、ニコライ教授が折り畳みの携帯電話をすぐに取り出して会話を始めてしまった。
 私は「失礼します」とニコライ教授に向かって軽く会釈した後、邪魔にならないように物音をあまり立てず、且つ迅速に外へと出て行った。



 私はチームの元に戻るためにゆっくりと歩みだす。私の研究内容は既にレポートにまとめてある。他にやることといえば、チームの一人が提案した角の一部を粉にした場合はどのような特性が得られるかという実験の手伝いをするぐらいしかない。手伝いだから私がメインではないし、引継ぎするための資料作成なんて現状では多くないから焦ることもないしで、そこまで急いで戻る理由なんてなかった。
 研究所の長い通路を抜けて外に出る。外と言っても、太陽の光が入るわけでもなく、ただ人工の光で周りが照らされており、足場や部屋が点々と見え、出た先の下側に大きな穴が見えるぐらいの趣なんてない空間だ。地下世界みたいな作りだから殺風景この故ないけど、まだ自分の中では狭苦しい場所から広くて開放的な場所に出られたことにホッとしてしまう。
 かれこれ1年以上もここで暮らしてきたけど、なんだかまだ慣れていないような気がする。これからさらに忙しくなるっていうのに、こんなんじゃダメだと自分でも分かってはいるけど、これから一生ここで働いていけるのかと自分に問い掛けても答えなんて出せないでいる。向いてないとかそんなことはないとは思っているけど、ただ今の自分に自信が持てなくなっているのだけは感じていた。
「どうにかして、モチベーションを上げたいなぁ」
 暗く深淵と思える大穴の上の足場から、つい思ったことが声に出てしまった。私は恥ずかしさのあまり慌てて周りを見回す。周りには誰もおらず、向かい側の方でお喋りしている研究員二人と足場を歩いている何名かの研究員が目に留まったぐらいだ。遠くから見た感じでは私に気づいた様子もないし、どうやら遠くて聞こえていないようだった。
 今ので自分が如何に後ろ向きで生きているかがなんとなくだが分かった。私はモヤモヤしたものを抱えてもどうにもならないと思い、不安を払拭するように頭を左右に素早く振ってから私の向かうべきチームの元へ急ぐことにした。
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