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とある研究員の軌跡
とある大学生が新米研究員として活躍するまで(2)
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ッカチ!
…
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私は固く目を閉じて、ここで死ぬんだと生きることを諦めていた。いや生きたいと願い続けているが、その願いは届かないと諦めながらも、ダメ元で願っているにすぎない。しかし、そんな状況でも何か変わった感じがしない。
もしかしてもう死んでたりしない?
人生を諦めていたその時に目の前から声が聞こえた。
「安心してください。この銃は空です。弾は込めてません。これは私の大事なものでして、いつも持ち歩いていないと落ち着かないのですよ。あ、他の職員にもちゃんと説明してありますし、その際の取り扱いについても話し合いをしましたのでご安心を」
私は何がなんだか分からずに目を開けた。その先には銃を撫でているニコライ教授の姿があった。
本当に今、何が起こっているのか理解出来ていないが、ただ一つ理解出来ていることは、私は今、生きているということだ。
私はあまりの出来事に腰を抜かして立つことが出来ないでいた。
「どうですか? あなたは今、現実にいる。私は少なくともそう思っています。あなたは今でも現実ではないと思いますか?」
ニコライ教授が手を差し出していたので、反射的に手を伸ばしてしまう。そして、ニコライ教授に引き上げられ、ようやく立つことが出来た。
「あの、なんでこんなことをするんですか? 悪趣味にもほどがあります」
実はまだ体が震えている。ニコライ教授に対してトラウマに成りかけているように感じた。いや、多分既になっている。あんなことを突然されて恐怖しない人はいないだろう。この人のことが怖くて仕方ない。
「これはいずれやろうとしていたことです。未確認生物について、ある程度理解した状態で色々と話そうかと思っていたのですが、まあいいでしょう。どうせやる予定のテストをもうしてしまいましたからね。話しましょうか」
ニコライ教授は顎を指で摩りながら私の目を見る。
「ある一体の未確認生物……。いや、研究が進んでいて、ほぼ解明状態だったので未確認とは呼べませんね。仮称ですが【ハンター】と名付けられた生物が過去に脱走したことがあります。その生物は獰猛で、目に見えるものは全て敵だと思っているかの如く職員たちを襲った。しかし、とある対象だけは襲われなかった。その対象はなんだか分かりますか?」
私は首をブンブンと横に振った。
「よろしい。では答えましょうか。それは動いていないものです。その生物は動いているものだけが敵、つまりはハントの対象としていたのです。研究では動く時に送られる電気信号を読み取って相手を襲うことが判明しました。目が悪かったわけじゃない。これは本能的なものであったのです。不運なことにその研究が分かって数時間後に脱走されましたので、情報伝達が遅れてしまいました。だから、多くの犠牲者が出ましたよ。あの時は大変でしたね」
やはりこういう場所でも動物園と同様に脱走なんてこともあり得るのかと漠然とした感覚で話を聞いていた。だからか未だに先ほどのニコライ教授の行動と語っている話の共通点が分からない。
「ふむ、どうやら共通点が分からないというような顔をしていますね」
私は図星を突かれて体がビクッと跳ねてしまった。ニコライ教授は私のその動作を見て小さなため息を吐いた。
「なら、単刀直入にお答えしましょう。先ほどのは冷静に対処するためのテストです。避難訓練なんてすることはありませんでしたか? まさにそれですよ。私は避難訓練を実施するなら誰にも知らせずにいきなり実施した方がより効果的だと考えていますからね。初めはですね、あなたにどこかのタイミングでピンチの場面を作るとは連絡する予定で、そしてそれを実施する日は教えないようにしようと考えていました。まぁ、先ほどのが私がしたかったことで、実施するならタイミングが良いなと思いまして唐突に始めてしまいました」
私はその回答に唖然としていた。そんな無茶苦茶があるものか。こっちは死にそうな思いをしたのに避難訓練と同様なものと吐き捨てるなんて、正気ではないのではないかと疑ってしまう。
「どう思われようとも私は構いませんよ。ただ、理知的に動くことはこの場所ではとても大切なことです。特殊な能力を持つ生物や脱走してひたすらに殺し回ってくる生物だって出会う可能性が高いのですから。先ほどのあなたの行動だと、うるさくて殺されるか、オモチャにされるかされていたでしょう。そのように殺された職員は多いですよ。私もその中に含まれそうだった者の一人です。私はここで管理されている生物の全てに対して知識を持っているわけではありません。担当が違うのと、私も忙しいのでじっくりと担当外の生物についての情報を頭に叩き込むことができないのですよ。そして、その結果、運が悪く特性を知らない生物と出くわしてしまったことがあります。その時はその生物の全体を観察し、次に瞳孔の確認、後は刺激しないように静かに動く。それで難は逃れ、捕獲部隊を呼ぶことに成功しました。ここで思い返してみてください。先ほど、あなたはピンチになった時、どんなことをしていましたか?」
確かにいつ何が起こるか分からないということは分かる。そして、思い返してみると銃口を額に突き付けられた時の状態は助かりたい一心で叫ぶことしか出来なかった。今回はニコライ教授であったが、相手が人であるという保証がないのも事実だ。まだ会ったこともない生物の話ばかりで、この研究所で保管されている生物で完全に安全と言える生物がいるかどうかも分からない。そんな生物と出会ってしまえば、よくパニック系ホラー映画で出てくる人と同様にすぐに殺されてしまうかもしれない。
「まあ、あのようになるのは仕方ないですね。邪魔してすみませんね。引き続き資料に目を通しておいてください。私は他の作業がありますから、そろそろお暇しますよ」
ニコライ教授は扉の方へ向かい、そのまま出て行ってしまった。私はというと頭の整理が追い付かず、ニコライ教授の背中をただただ見ていることしか出来なかった。
ニコライ教授は悪い人ではないと先ほどの話しで感じたけど、どうしても先ほどの体験が頭から離れない。ここで生きるための術を教えてもらっていたのだろうけど、恐怖が勝ってしまっていた。そのせいでこの研究所で上手くやっていけるか、そしてどれだけ生きていられるかという不安が私の中で大きく成長してしまった。
「これから私、どうなっちゃうんだろう」
あまりの不安から誰もいない部屋の中で独り言をつぶやいた。
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私は固く目を閉じて、ここで死ぬんだと生きることを諦めていた。いや生きたいと願い続けているが、その願いは届かないと諦めながらも、ダメ元で願っているにすぎない。しかし、そんな状況でも何か変わった感じがしない。
もしかしてもう死んでたりしない?
人生を諦めていたその時に目の前から声が聞こえた。
「安心してください。この銃は空です。弾は込めてません。これは私の大事なものでして、いつも持ち歩いていないと落ち着かないのですよ。あ、他の職員にもちゃんと説明してありますし、その際の取り扱いについても話し合いをしましたのでご安心を」
私は何がなんだか分からずに目を開けた。その先には銃を撫でているニコライ教授の姿があった。
本当に今、何が起こっているのか理解出来ていないが、ただ一つ理解出来ていることは、私は今、生きているということだ。
私はあまりの出来事に腰を抜かして立つことが出来ないでいた。
「どうですか? あなたは今、現実にいる。私は少なくともそう思っています。あなたは今でも現実ではないと思いますか?」
ニコライ教授が手を差し出していたので、反射的に手を伸ばしてしまう。そして、ニコライ教授に引き上げられ、ようやく立つことが出来た。
「あの、なんでこんなことをするんですか? 悪趣味にもほどがあります」
実はまだ体が震えている。ニコライ教授に対してトラウマに成りかけているように感じた。いや、多分既になっている。あんなことを突然されて恐怖しない人はいないだろう。この人のことが怖くて仕方ない。
「これはいずれやろうとしていたことです。未確認生物について、ある程度理解した状態で色々と話そうかと思っていたのですが、まあいいでしょう。どうせやる予定のテストをもうしてしまいましたからね。話しましょうか」
ニコライ教授は顎を指で摩りながら私の目を見る。
「ある一体の未確認生物……。いや、研究が進んでいて、ほぼ解明状態だったので未確認とは呼べませんね。仮称ですが【ハンター】と名付けられた生物が過去に脱走したことがあります。その生物は獰猛で、目に見えるものは全て敵だと思っているかの如く職員たちを襲った。しかし、とある対象だけは襲われなかった。その対象はなんだか分かりますか?」
私は首をブンブンと横に振った。
「よろしい。では答えましょうか。それは動いていないものです。その生物は動いているものだけが敵、つまりはハントの対象としていたのです。研究では動く時に送られる電気信号を読み取って相手を襲うことが判明しました。目が悪かったわけじゃない。これは本能的なものであったのです。不運なことにその研究が分かって数時間後に脱走されましたので、情報伝達が遅れてしまいました。だから、多くの犠牲者が出ましたよ。あの時は大変でしたね」
やはりこういう場所でも動物園と同様に脱走なんてこともあり得るのかと漠然とした感覚で話を聞いていた。だからか未だに先ほどのニコライ教授の行動と語っている話の共通点が分からない。
「ふむ、どうやら共通点が分からないというような顔をしていますね」
私は図星を突かれて体がビクッと跳ねてしまった。ニコライ教授は私のその動作を見て小さなため息を吐いた。
「なら、単刀直入にお答えしましょう。先ほどのは冷静に対処するためのテストです。避難訓練なんてすることはありませんでしたか? まさにそれですよ。私は避難訓練を実施するなら誰にも知らせずにいきなり実施した方がより効果的だと考えていますからね。初めはですね、あなたにどこかのタイミングでピンチの場面を作るとは連絡する予定で、そしてそれを実施する日は教えないようにしようと考えていました。まぁ、先ほどのが私がしたかったことで、実施するならタイミングが良いなと思いまして唐突に始めてしまいました」
私はその回答に唖然としていた。そんな無茶苦茶があるものか。こっちは死にそうな思いをしたのに避難訓練と同様なものと吐き捨てるなんて、正気ではないのではないかと疑ってしまう。
「どう思われようとも私は構いませんよ。ただ、理知的に動くことはこの場所ではとても大切なことです。特殊な能力を持つ生物や脱走してひたすらに殺し回ってくる生物だって出会う可能性が高いのですから。先ほどのあなたの行動だと、うるさくて殺されるか、オモチャにされるかされていたでしょう。そのように殺された職員は多いですよ。私もその中に含まれそうだった者の一人です。私はここで管理されている生物の全てに対して知識を持っているわけではありません。担当が違うのと、私も忙しいのでじっくりと担当外の生物についての情報を頭に叩き込むことができないのですよ。そして、その結果、運が悪く特性を知らない生物と出くわしてしまったことがあります。その時はその生物の全体を観察し、次に瞳孔の確認、後は刺激しないように静かに動く。それで難は逃れ、捕獲部隊を呼ぶことに成功しました。ここで思い返してみてください。先ほど、あなたはピンチになった時、どんなことをしていましたか?」
確かにいつ何が起こるか分からないということは分かる。そして、思い返してみると銃口を額に突き付けられた時の状態は助かりたい一心で叫ぶことしか出来なかった。今回はニコライ教授であったが、相手が人であるという保証がないのも事実だ。まだ会ったこともない生物の話ばかりで、この研究所で保管されている生物で完全に安全と言える生物がいるかどうかも分からない。そんな生物と出会ってしまえば、よくパニック系ホラー映画で出てくる人と同様にすぐに殺されてしまうかもしれない。
「まあ、あのようになるのは仕方ないですね。邪魔してすみませんね。引き続き資料に目を通しておいてください。私は他の作業がありますから、そろそろお暇しますよ」
ニコライ教授は扉の方へ向かい、そのまま出て行ってしまった。私はというと頭の整理が追い付かず、ニコライ教授の背中をただただ見ていることしか出来なかった。
ニコライ教授は悪い人ではないと先ほどの話しで感じたけど、どうしても先ほどの体験が頭から離れない。ここで生きるための術を教えてもらっていたのだろうけど、恐怖が勝ってしまっていた。そのせいでこの研究所で上手くやっていけるか、そしてどれだけ生きていられるかという不安が私の中で大きく成長してしまった。
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