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とある研究員の軌跡

とある大学生が研究員になるまで(3)

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 絶賛誘拐され中と言わんばかりに車で連れていかれるまで、私はこの研究所に対して大きな疑心を持った。しかし、これはまだ序章に過ぎず、これから辿り着く場所で、ただでさえ大きな疑心がさらに高まることとなった。
 目隠しをしていた私は目的地に着いたのか車を降ろされて、誰かに誘導されながら暗闇の中を歩かされた。
 カツンカツンと足音が鳴り響く。しかも複数の音が耳に入ってくる。おそらく車の中にいた黒服の二人が近くにいるのだろうと思ったけど、その時はなんとなく足音が多い気がした。そんなことを思いながら導かれるままに歩いていたけど、突然に私を誘導してくれている人の足が止まった。
 ゴォォォという音が鳴り響く。しかし、その音が段々と弱くなっていき、音が収まったと同時にチンッと鳴り出した。そう、先ほどの全ての音はエレベーターからの音だった。私はそのまま前進させられてエレベーターへと乗り込む。そして、乗り込んで少し待った後に大きな音を鳴らして下に降りていく感覚が体に伝わってくる。

 私はエレベーターで下へ下へと運ばれている時に、あの人が口を開いたこと、そして会話をしたことは今でも覚えている。
「すみません、手荒いマネをしてしまいましたね。どうしてもこの研究所の場所は知られるわけにはいかないのですよ」
 その声は高く響き、感じからして若いように聞こえた。
「私の目隠しはまだ外してくれないんですね。ここは研究所の中じゃないんですか?」
 この時の私は強く言ったつもりだけど、怖さで少し震えていて弱々しかったかもしれない。だって、奮い立たせるために拳は強く握りしめていて、そのせいか体がこわばっていたのが自身でも十分に感じたからだ。
 すると、また若そうな声が響いてきた。
「ああ、そうでしたね。もう研究所の中ですし、外してあげましょうか。あなたはここの職員になるのですし。それに、この景色は一度見てほしいですからね」
 突然に後ろから気配がし、同時に私の目隠しが外された。
 私が研究所に入って初めて見た景色は、全体が黒く、弧を描くように扉ばかりが見え、明らかに一般の人が見られるわけがない不思議な光景だった。
「どうですか? ここが曙光研究所です。壮観でしょう?」
「ええ、そうですね……。この場所って円状に建てられているってことですか? 角が見当たらないですけど。」
「その通り。この場所は地下に作られていましてね、中央の穴にはとある存在を隔離するために大きく開いているそうで……。あ、これは言っても良かったんでしたっけ? まあいいでしょう。所詮は噂ですからね。機密事項じゃないですし」
 ウンウンと首を縦に振っている胡散臭い人に私は目を向けた。横から顔を見てみたけど、顔は最初に声を聞いた時と同じで若そうに見え、堀も深くてイケメンに見える。そして体型を次に見ると、白衣のせいでシルエットは分からないけれど、雰囲気的には細身に感じる。見た目通り、筋肉は少なそうだった。
「穴って、もしかして真下に見えている『アレ』ですか?」
 私はエレベーターの下の方を指差す。このエレベーターは床と外側はガラス張りになっていて、外の景色が良く見える。だからか下の方に見える巨大な穴がまるで私達を吸い込むかのように存在を示していた。
「そう、その穴ですよ。とても大きいでしょう? 巨大な隕石が落ちてこない限りは出来ないでしょうね。とても興味深いでしょう?」
「確かに、こんなものが地球上にあったなんて知らなかったです」
「知っていたらこちらもビックリしますよ。その人とお話ししないといけなくなりますから、こちらの仕事が増えますし、知ってほしくはないんですけどね」
「もしかして、これって本来は見えないってことですか?」
「あなたの見えないというのはどれを指しているかは分かりませんが、『普通の人』には絶対に見ることは出来ません。これだけ言えば、賢い人なら分かることですが、どうですか?」
 笑いながらあの人は私の顔を見てきたけど、私にはその目が笑っているようには見えなかった。私はあの人に恐怖して思わず首を縦に振ってしまった。いや、あの人の圧だけじゃない。その時はこの穴に少しばかりの恐怖を抱いていたのかもしれない。
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