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第三章 足掻き、突き進む者

参戦

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 ディルクは闘技場の中の雰囲気に圧倒されていた。外観から想像はできるものの、実際中に入るとかなりの広さの空間が広がり、熱気が入り口まで届いてくる。

 建物のほとんどは石造りだが、中央の戦闘フィールドだけは明るい土の色が見え、そこかしこの松明が観客たちの視界を確保している。

 今はまだ試合は行われていないが、場所を確保するためか、石の観客席に人がひしめき合っているのが見える。観客席から離れたところには受付があり、その奥に下に降りられる階段が見える。そこから入場するのだろうと何となく予想がついた。

 ディルクは胸の迷いを晴らすべくふっと息を吐いてから、恐る恐る受付に赴き声をかける。

「闘士として戦うために来たのだが、手続きはここで行えるのだろうか?」

「はい。大丈夫ですよ。この用紙に記入と、こちらをよく読んでから署名をお願いします」

 受付の若い女性に差し出されたのは、名前や出身地など諸々闘士の紹介となりそうな項目を書く用紙と、いわゆる同意書なるものの二枚だ。特に同意書の方は何やら不穏な文句が書かれおり、怪我や死亡の場合でも闘技場関係者は一切責任を負わないとあった。

 怪我の場合もかとディルクは目を鋭くするが、その下に書かれた金銭についてはなかなかの額が記されている。連勝をしていくにつれて金額は大きくなっていき、すぐに負けた場合も治療費ぐらいにはなりそうな高額になっている。死にさえしなければそこまで大きな痛手にはならないようだ。怪我の度合いにもよるだろうが。
 
「はい。ありがとうございます。ええと……コドラク・バルダンさんですね。こちらの階段から下りていただくと闘士たちの控え場になっております。今日の出場表から考えて……あなたはレッドブロックですね。右の階段を下りて赤い旗を持っているスタンリーっていう人を探してください。ご武運をお祈りしております」

 当たり前のように偽名を使ったディルクは女性に促されて受付奥の階段を下りていった。

 そこから広がる空間は丁度円月状になっていて、それが石の壁で適度に区切られた構造になっている。その中にいる多くの闘士は各々思い思いに過ごしていた。

 素振りをする者や精神統一をする者。中には酒盛りをする者たちもいて、本当にそれぞれで気ままな感じだ。

 赤い旗を探してその中を歩くと、チラッとこちらを見る人もいる。その目線は明らかな値踏みの目線だとディルクはすぐに気付いたが、それはすぐに途切れたので彼は気にしなかった。

 そんな中、目立つ赤い旗を持った男は真ん中の区画の部屋のようなところにいた。敢えて闘士たちの目線に入らない位置にいるのだろう。

 彼は長椅子に座って何やら書類を眺めながら唸っている。何となく声をかけ辛くディルクがしり込みしていると、ふと書類から目線を上げた向こうから声をかけてきた。

「新人だな。お前、名前は?」

「コドラク・バルダンだ。受付が言っていたスタンリーはあなただな?」

「ああ。今日は出場者が多くてな。試合繰りが大変だよ。まああんたは……そうだな。第二試合に入れておくか。それまでは好きに過ごしてくれて構わん。外に出てもらっても良いが、しっかり戻って来てくれ。大体あと二時間くらいだろう」

「わかった」

 それからスタンリーはまた唸りだしたので、ディルクは開いている場所に座って闘士たちの観察をし始めた。ほとんどは実力が烏合の衆のように見えるのだが、数人は強力な使い手がいそうな感じだった。もちろん戦闘態勢に入っていないので正確にはわからないのだが、体つきや細かい所作である程度の判断はできる。

 特に強そうなのは三人。一人目は自身よりも大きな黒と赤の巨大な斧を背負った女性。服装もそれにあった革鎧で動きやすいように調整してある。女性だが体格がかなり良く、金髪の髪を振り乱しながら斧の素振りをしているが、風切り音が遠くからも聞こえてくる。

 二人目は全身黒ずくめの隙のない男性。左右の腰に短剣を差して座り精神統一をしている。目を閉じているようだが、その佇まいから少しでも悪意を持って近づけばすぐに気付かれてしまいそうな集中度合だ。

 三人目はここに来る道中であった目隠しの男だ。椅子に座って食事をしているが、目が見えていない素振りが全くない。ごく普通に皿を手に取り、ごく普通にテーブルのパンも取る。

 最初に会った時もそうだが、動作一つ一つが丁寧で落ち着いている。得体の知れない不気味さのある男だった。

 あとはあまり脅威にはならなそうだと一通り闘士たちの観察を終えて、ディルクは剣の手入れを始めた。すぐに来る出番に備えて。
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