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第二章 救いを追い求めて
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ディルクはその後、アマデウスと色々と話をしたら大分遅い時間になったため、この日は宿に一泊し、次の日に再びアマデウスの家を訪ねた。
話の中で邪悪な魔術師が言っていたこと、魔導書を追えという言葉についても二人で考えてある。相手にとって都合よく誘導されているに違いないという結論には至ったが、それ以上の手がかりもなければ当てもない現状は魔導書を追うしかない。
とりあえずは手直なところから情報を集めようと、二人はケメルダの街にある書店へと向かうことにした。こんなところにかの危険な魔導書はないだろうとは思われるが、もしかしたら何か知っているかもしれないと地道な捜索をするつもりなのだ。
まだまだ識字率が高いとは言えないこの世の中では、書店という存在は侯爵家から近いところにあり、慎重に捜査を進める必要がある。色々と噂になるのを避けるため、まずは目立ちにくいアマデウスが店のカウンターから店主に話しかけてみる。
「ちょっと聞きたいことがあるのだが……」
「はい、なんでしょう?」
その声に反応して顔を上げた店主は、眼鏡をかけた細身の男性。サラリとした髪質の黒い髪が顔を細く見せている。
「実は古臭い本を集めるのが趣味なのだが、ここにはそういう本は売っているか?」
「それは具体的にどのような?」
「うむ、そうだな……古代の文字が書いてあるような年代物の本だな」
「古代の文字ですか。誠に残念ながらそのような本はここでは取り扱っておりませんね。何分読める方がほとんどいらっしゃらないので」
「そうか……ではそのような本が手に入るようなところには心当たりはないか?」
「そうですねえ……」
店主は眼鏡の下の瞳を左上に逸らしながら唸るように考え込む。さらには自然と腕を組み首を捻った。
書店の店主として本のことについて知らないと言いたくない上、全く心当たりがないわけではないらしい。
「古い書物を扱う店を知ってはいるのですが……」
「なんだ。もったいぶらずに教えてくれないか」
「その書店の店主が私の祖母なのですが、少々独特な人なのですよ」
「構わない。この際店主の人格には目を瞑ろう」
「そうですか。彼女はここから南のオーヴェンデの街で書店を営んでいます。街に行けば書店はあそこしかありませんからすぐにわかるでしょう」
「助かった。さっそく向かうとしよう」
「あの……お気をつけて」
意味深な言葉をかけられて疑問が浮かんだが、とりあえず差し当たっての目的地を決めることができた二人はすぐさまケメルダの街を出て、徒歩で数時間南に下る。
森とまではいかないくらいの木々の間をぬって進み、見えてきた街はケメルダの街と似ているが、規模はそこよりもやや小さい。
それによってより閉塞感がより強調される土地で、ディルクとアマデウスは書店を探すが、それはあっという間に見つかった。
その書店は妙に派手な色材を使って目立つように装飾され、あろうことか街に似合わぬ暖色ばかりを使っている。オレンジの屋根に赤い外壁。隣の家屋と比較しても場違いそのもののそこは書店と書かれた看板を見てもどこか入り辛い。
思わず顔を顰めたディルクだったが、仕方なくその中に入ったアマデウスに続いて店内に入った。
話の中で邪悪な魔術師が言っていたこと、魔導書を追えという言葉についても二人で考えてある。相手にとって都合よく誘導されているに違いないという結論には至ったが、それ以上の手がかりもなければ当てもない現状は魔導書を追うしかない。
とりあえずは手直なところから情報を集めようと、二人はケメルダの街にある書店へと向かうことにした。こんなところにかの危険な魔導書はないだろうとは思われるが、もしかしたら何か知っているかもしれないと地道な捜索をするつもりなのだ。
まだまだ識字率が高いとは言えないこの世の中では、書店という存在は侯爵家から近いところにあり、慎重に捜査を進める必要がある。色々と噂になるのを避けるため、まずは目立ちにくいアマデウスが店のカウンターから店主に話しかけてみる。
「ちょっと聞きたいことがあるのだが……」
「はい、なんでしょう?」
その声に反応して顔を上げた店主は、眼鏡をかけた細身の男性。サラリとした髪質の黒い髪が顔を細く見せている。
「実は古臭い本を集めるのが趣味なのだが、ここにはそういう本は売っているか?」
「それは具体的にどのような?」
「うむ、そうだな……古代の文字が書いてあるような年代物の本だな」
「古代の文字ですか。誠に残念ながらそのような本はここでは取り扱っておりませんね。何分読める方がほとんどいらっしゃらないので」
「そうか……ではそのような本が手に入るようなところには心当たりはないか?」
「そうですねえ……」
店主は眼鏡の下の瞳を左上に逸らしながら唸るように考え込む。さらには自然と腕を組み首を捻った。
書店の店主として本のことについて知らないと言いたくない上、全く心当たりがないわけではないらしい。
「古い書物を扱う店を知ってはいるのですが……」
「なんだ。もったいぶらずに教えてくれないか」
「その書店の店主が私の祖母なのですが、少々独特な人なのですよ」
「構わない。この際店主の人格には目を瞑ろう」
「そうですか。彼女はここから南のオーヴェンデの街で書店を営んでいます。街に行けば書店はあそこしかありませんからすぐにわかるでしょう」
「助かった。さっそく向かうとしよう」
「あの……お気をつけて」
意味深な言葉をかけられて疑問が浮かんだが、とりあえず差し当たっての目的地を決めることができた二人はすぐさまケメルダの街を出て、徒歩で数時間南に下る。
森とまではいかないくらいの木々の間をぬって進み、見えてきた街はケメルダの街と似ているが、規模はそこよりもやや小さい。
それによってより閉塞感がより強調される土地で、ディルクとアマデウスは書店を探すが、それはあっという間に見つかった。
その書店は妙に派手な色材を使って目立つように装飾され、あろうことか街に似合わぬ暖色ばかりを使っている。オレンジの屋根に赤い外壁。隣の家屋と比較しても場違いそのもののそこは書店と書かれた看板を見てもどこか入り辛い。
思わず顔を顰めたディルクだったが、仕方なくその中に入ったアマデウスに続いて店内に入った。
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