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第一章 痛みの連鎖
結末
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「待て! 魔術師!」
王国を出ても尚追って来る騎士たちは、森の中までもきちんと統率を取って迫ってくる。ガサガサと草木をかき分け、がむしゃらに前に進もうとする人一人と、それを追い続ける人の群が森を騒がせる。
乱立する木々と丁度良い背丈の低木の枝によって死角に入った一瞬の隙をついて、カイルは魔術で自身の周囲の音を消し、真横にあった大きな木の根元に身を潜めた。
ガシャガシャとうるさい鎧の音がすぐそばまで近づく。だが姿の見えない相手を追い続ける騎士たちの立てるやかましい音は、そのままどこかへと遠ざかっていった。
極度の緊迫感から安心感へと心が流れてふうっと息を吐いたカイルに、いきなり何者かの声が聞こえてくる。
「我を見つけよ――」
魔力を通して伝わってくるそれは心地の良いものではなかったが、カイルは何故かそれに引き寄せられる感覚を覚える。そしていつの間にか、カイルはその声を辿って森をさまよっていた。
向かった先は、木々の群生地にも関わらずその一か所だけ草木がなくなっている不思議な場所。円形に更地が広がるその中央に、骸骨の手が地面から少しだけ覗いている良からぬ地だった。
気味が悪い光景だが好奇心に勝てずに、カイルは恐る恐るその骸骨に近付く。全体がわかる程度に魔術で穴を掘ってみれば、古代の魔術師なる人物がここで息絶えたのだろうとすぐにわかった。
見つけた骸骨は紫の布地に金の文様が描かれたボロボロのローブを着て、一冊の魔導書をもう一方の手で大層大事そうに抱えていたのだ。やがて聞こえていた声が先ほどよりも強く、カイルにその魔導書を手に取るよう囁く。
「我を手にせよ――そして力を求めよ!」
この時点で既に、カイルの意志は薄弱で風前の灯のように脆くなっていた。彼自身が元々そうであったわけではない。かの邪悪なる書の意志が、声の聞こえる者の心を酷くかき乱すのだ。
「あそこにいたぞ!」
遠くで激しい発光があり、騎士たちがカイルを補足して集まってくる。しかし彼らは全員、ハッと息を呑んだ。
見つけた魔術師は黒い荘厳な魔導書の不気味な暗い光に包まれて、激しく捲られる本のページに魅了されている。その目を赤く煌めかせて、複雑な文字の羅列をとめどなく瞳に映し出していた。
それと同時に辺り一帯の空気がいやというほど振動し、ゴゴゴゴという鳴動が騎士たちを後ずさりさせた。一目見れば狂気さえ感じる相手の様子に、騎士たちは危険を感じ取ったのかもしれない。
カイルはそんな彼らに、彼自身のものではない低い声でこう告げる。
「幸運な者たちよ、今はまだそのときではない。だがいずれ我が力を取り戻した暁には、再びこの地を訪れて災厄をもたらそう」
そう言葉にした直後に、カイルの姿は足元に表れた魔法陣と一緒になってフッと消えてしまった。後に残された騎士たちは、緊張の糸が一気に解けて脱力する。それからしばらく、彼らは森の中で長らく動けずにいたという。
王国を出ても尚追って来る騎士たちは、森の中までもきちんと統率を取って迫ってくる。ガサガサと草木をかき分け、がむしゃらに前に進もうとする人一人と、それを追い続ける人の群が森を騒がせる。
乱立する木々と丁度良い背丈の低木の枝によって死角に入った一瞬の隙をついて、カイルは魔術で自身の周囲の音を消し、真横にあった大きな木の根元に身を潜めた。
ガシャガシャとうるさい鎧の音がすぐそばまで近づく。だが姿の見えない相手を追い続ける騎士たちの立てるやかましい音は、そのままどこかへと遠ざかっていった。
極度の緊迫感から安心感へと心が流れてふうっと息を吐いたカイルに、いきなり何者かの声が聞こえてくる。
「我を見つけよ――」
魔力を通して伝わってくるそれは心地の良いものではなかったが、カイルは何故かそれに引き寄せられる感覚を覚える。そしていつの間にか、カイルはその声を辿って森をさまよっていた。
向かった先は、木々の群生地にも関わらずその一か所だけ草木がなくなっている不思議な場所。円形に更地が広がるその中央に、骸骨の手が地面から少しだけ覗いている良からぬ地だった。
気味が悪い光景だが好奇心に勝てずに、カイルは恐る恐るその骸骨に近付く。全体がわかる程度に魔術で穴を掘ってみれば、古代の魔術師なる人物がここで息絶えたのだろうとすぐにわかった。
見つけた骸骨は紫の布地に金の文様が描かれたボロボロのローブを着て、一冊の魔導書をもう一方の手で大層大事そうに抱えていたのだ。やがて聞こえていた声が先ほどよりも強く、カイルにその魔導書を手に取るよう囁く。
「我を手にせよ――そして力を求めよ!」
この時点で既に、カイルの意志は薄弱で風前の灯のように脆くなっていた。彼自身が元々そうであったわけではない。かの邪悪なる書の意志が、声の聞こえる者の心を酷くかき乱すのだ。
「あそこにいたぞ!」
遠くで激しい発光があり、騎士たちがカイルを補足して集まってくる。しかし彼らは全員、ハッと息を呑んだ。
見つけた魔術師は黒い荘厳な魔導書の不気味な暗い光に包まれて、激しく捲られる本のページに魅了されている。その目を赤く煌めかせて、複雑な文字の羅列をとめどなく瞳に映し出していた。
それと同時に辺り一帯の空気がいやというほど振動し、ゴゴゴゴという鳴動が騎士たちを後ずさりさせた。一目見れば狂気さえ感じる相手の様子に、騎士たちは危険を感じ取ったのかもしれない。
カイルはそんな彼らに、彼自身のものではない低い声でこう告げる。
「幸運な者たちよ、今はまだそのときではない。だがいずれ我が力を取り戻した暁には、再びこの地を訪れて災厄をもたらそう」
そう言葉にした直後に、カイルの姿は足元に表れた魔法陣と一緒になってフッと消えてしまった。後に残された騎士たちは、緊張の糸が一気に解けて脱力する。それからしばらく、彼らは森の中で長らく動けずにいたという。
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