73 / 84
第八章
死刑宣告
しおりを挟む
アロイスたちが出発してから、その日を含めて二日が経ち、さらに三日目に突入する。もうずいぶん長いこと歩いては休んでを繰り返して迎えたその日、朝から続く曇天からは、太陽の光があまり差し込んでこない。
マデリエネはそれでも時間の感覚を失ったりはしないが、そのおかげで不安を抱えてもいた。アロイスの話では、順調にいけば三日目のどこかで合流できるかもしれないとのことだったのだ。
スレイプニルの足ならば出発した日にはもうテロフィの街に着くくらいで、あとは治療に数時間。それが終わればまたあのとんでもない速さの馬に乗っているはずだ。
しかしこちらも今日という日を迎えてからもうそれなりの時間歩いたのだが、まだ目立つ軍馬の姿は見えてこない。ザルムがそれに気付き始める頃には、彼女の不安は確信に変わっていた。何かがあったのだ。
アロイスがスレイプニルの制御に失敗して予定よりも遅く街に着いたのか。それとも治療に手間取っているのか。治療は終わったが、アロイスが力を使い切って馬を呼べなかったのか。
可能性はいろいろあったが、考えても答えは出ない。こうなってはもうどうしようもなく、今できることをするしかなかった。それはいち早くテロフィの街に着くことだ。
マデリエネは仲間に声をかけて少しペースを上げるように提案した。それによって仲間たちも危機感を覚え始めることになるが、彼らを心配させようがさせまいが事実は、今起こっていることは何も変わらない。聡明な彼女は、こうして正しい決断をした。
司祭の力も限界に近い。アロイスはそう感じていた。
天馬の制御に加え、門番の厄介な質問攻めにも上手く答えた。ここに来た理由、この街の領主の病気の件だって隠し通すことができた。
それなのに肝心の治療がはかどらなかったのだ。もう何日もこの状態で、領主を治すことはできないと思われた。
これは決してイングヴァル司祭のせいではない。領主にかけられた“呪い”が強力すぎたのだ。
司祭が最大まで拡大した10レベル魔法“リカバリー”の魔法でさえ一歩及ばない。これではもうどうしようもない。
しかもかけられた呪いの内容は死を招くもの。力を奪うだけ奪ってさらに命までも奪うというシンプルだが危険な魔法だった。これではまるで死刑宣告だ。
天賦の恵水を余計に汲んでおけばアロイスが思ったとき、入られては困りますと領主の下働きをしていた女性の声が聞こえた。その次には領主の寝室の戸が豪快に開けられる。
強引に入ってくるのはストレンジの冒険者たち。
その彼らはイングヴァル司祭とアロイスが手詰まりに陥っているのはとっくに予測済みだったようで、カイネがすぐにアロイスと司祭の間に割って入った。
それを下働きの女性は止めようとするが、イングヴァル司祭は大丈夫だと言って彼女を下がらせてくれた。
「アロイスさん、ここはワタシと領主様だけにしてほしいです」
「……そうですか。カイネさんがそうおっしゃるのならそうしましょう。では行きましょうか、イングヴァル司祭様」
アロイスがすんなりと引くのを見て、司祭は困惑する。自分でも解呪できないのにどうするつもりなのか皆目見当もつかないのだから。
だがもちろんアロイスには心当たりがあった。彼女には彼女にしかない力がある。あの聖なる力だ。
彼女を信頼してくださいというザルムの後押しもあって、イングヴァル司祭は他の冒険者と一緒に部屋の外に出た。そこからマデリエネは、下働きの女性も含めて全員が領主の部屋から離れるように誘導した。
領主が良くなったときのための食事の用意は出来ているかや、自分たちも休みたいと、少々無礼ながらももてなしを期待する発言をしたのだ。
これによって一応不満そうな顔をされながらも、全員応接間のような場所に通される。
ところがイングヴァル司祭は応接間の上品なソファに座る直前で、大胆にふらついてしまった。
ザルムが素早くその支えに入る。司祭はアロイスの読み通り、長時間の集中で疲労しきっていたのだ。
ゲルセルが気を利かせて下働きの女性に休める場所を聞いてくれる。すると二階に客間があるそうで、とにかくそこに司祭様を運んでしばらく休んでもらうことにした。
司祭様を寝かせてから応接間に戻り、アロイスとその他でお互いに何があったのかを報告し合う。
アロイスは馬で出発したその日にテロフィの街について、そこから司祭と共に領主の状態を確認した。
しかしこれが予想外にも強力な呪いであることがわかり、その日は一旦休んで、次の日にイングヴァル司祭が儀式をすることになった。
アロイスはその儀式の効果を高めて補助するために街で香料や特殊な加工がされた木の枝など、色々と準備に回っていたそうだ。
それでも儀式は上手くいかずに結局解呪は失敗に終わる。そうであっても諦めるわけにはいかず、なんとか呪いの進行を抑えるため、領主の彼に自分たちの力を全力で注ぎこんでいたというのが経緯らしい。
アロイスがそうしていた間、残りのメンバーはテロフィまでの残りの旅路を急いでいたのだが、そのときにカイネがまた天からの声を聞いた。
その言葉はテロフィの領主が呪いに苦しんでいるらしいことや、肝心の聖句について述べていたのだそうだ。領主が苦しんでいる原因が病気ではなく呪いだということがそこで明らかになり、より一層早く着かなくてはという思いが強くなったのだった。
マデリエネはそれでも時間の感覚を失ったりはしないが、そのおかげで不安を抱えてもいた。アロイスの話では、順調にいけば三日目のどこかで合流できるかもしれないとのことだったのだ。
スレイプニルの足ならば出発した日にはもうテロフィの街に着くくらいで、あとは治療に数時間。それが終わればまたあのとんでもない速さの馬に乗っているはずだ。
しかしこちらも今日という日を迎えてからもうそれなりの時間歩いたのだが、まだ目立つ軍馬の姿は見えてこない。ザルムがそれに気付き始める頃には、彼女の不安は確信に変わっていた。何かがあったのだ。
アロイスがスレイプニルの制御に失敗して予定よりも遅く街に着いたのか。それとも治療に手間取っているのか。治療は終わったが、アロイスが力を使い切って馬を呼べなかったのか。
可能性はいろいろあったが、考えても答えは出ない。こうなってはもうどうしようもなく、今できることをするしかなかった。それはいち早くテロフィの街に着くことだ。
マデリエネは仲間に声をかけて少しペースを上げるように提案した。それによって仲間たちも危機感を覚え始めることになるが、彼らを心配させようがさせまいが事実は、今起こっていることは何も変わらない。聡明な彼女は、こうして正しい決断をした。
司祭の力も限界に近い。アロイスはそう感じていた。
天馬の制御に加え、門番の厄介な質問攻めにも上手く答えた。ここに来た理由、この街の領主の病気の件だって隠し通すことができた。
それなのに肝心の治療がはかどらなかったのだ。もう何日もこの状態で、領主を治すことはできないと思われた。
これは決してイングヴァル司祭のせいではない。領主にかけられた“呪い”が強力すぎたのだ。
司祭が最大まで拡大した10レベル魔法“リカバリー”の魔法でさえ一歩及ばない。これではもうどうしようもない。
しかもかけられた呪いの内容は死を招くもの。力を奪うだけ奪ってさらに命までも奪うというシンプルだが危険な魔法だった。これではまるで死刑宣告だ。
天賦の恵水を余計に汲んでおけばアロイスが思ったとき、入られては困りますと領主の下働きをしていた女性の声が聞こえた。その次には領主の寝室の戸が豪快に開けられる。
強引に入ってくるのはストレンジの冒険者たち。
その彼らはイングヴァル司祭とアロイスが手詰まりに陥っているのはとっくに予測済みだったようで、カイネがすぐにアロイスと司祭の間に割って入った。
それを下働きの女性は止めようとするが、イングヴァル司祭は大丈夫だと言って彼女を下がらせてくれた。
「アロイスさん、ここはワタシと領主様だけにしてほしいです」
「……そうですか。カイネさんがそうおっしゃるのならそうしましょう。では行きましょうか、イングヴァル司祭様」
アロイスがすんなりと引くのを見て、司祭は困惑する。自分でも解呪できないのにどうするつもりなのか皆目見当もつかないのだから。
だがもちろんアロイスには心当たりがあった。彼女には彼女にしかない力がある。あの聖なる力だ。
彼女を信頼してくださいというザルムの後押しもあって、イングヴァル司祭は他の冒険者と一緒に部屋の外に出た。そこからマデリエネは、下働きの女性も含めて全員が領主の部屋から離れるように誘導した。
領主が良くなったときのための食事の用意は出来ているかや、自分たちも休みたいと、少々無礼ながらももてなしを期待する発言をしたのだ。
これによって一応不満そうな顔をされながらも、全員応接間のような場所に通される。
ところがイングヴァル司祭は応接間の上品なソファに座る直前で、大胆にふらついてしまった。
ザルムが素早くその支えに入る。司祭はアロイスの読み通り、長時間の集中で疲労しきっていたのだ。
ゲルセルが気を利かせて下働きの女性に休める場所を聞いてくれる。すると二階に客間があるそうで、とにかくそこに司祭様を運んでしばらく休んでもらうことにした。
司祭様を寝かせてから応接間に戻り、アロイスとその他でお互いに何があったのかを報告し合う。
アロイスは馬で出発したその日にテロフィの街について、そこから司祭と共に領主の状態を確認した。
しかしこれが予想外にも強力な呪いであることがわかり、その日は一旦休んで、次の日にイングヴァル司祭が儀式をすることになった。
アロイスはその儀式の効果を高めて補助するために街で香料や特殊な加工がされた木の枝など、色々と準備に回っていたそうだ。
それでも儀式は上手くいかずに結局解呪は失敗に終わる。そうであっても諦めるわけにはいかず、なんとか呪いの進行を抑えるため、領主の彼に自分たちの力を全力で注ぎこんでいたというのが経緯らしい。
アロイスがそうしていた間、残りのメンバーはテロフィまでの残りの旅路を急いでいたのだが、そのときにカイネがまた天からの声を聞いた。
その言葉はテロフィの領主が呪いに苦しんでいるらしいことや、肝心の聖句について述べていたのだそうだ。領主が苦しんでいる原因が病気ではなく呪いだということがそこで明らかになり、より一層早く着かなくてはという思いが強くなったのだった。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!
ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!?
夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。
しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。
うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。
次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。
そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。
遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。
別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。
Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって!
すごいよね。
―――――――――
以前公開していた小説のセルフリメイクです。
アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。
基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。
1話2000~3000文字で毎日更新してます。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる