死者と竜の交わる時

逸れの二時

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第七章

疎ましい湿地

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こうして時は過ぎ、交代の時間になると、前半組はザルムとカイネを起こして番を変わった。ザルムとカイネは魔物の死体が積みあがっているのに驚くが、それによって油断ならない夜になるということを察した。

遠くに見えるレシニス山からハーピィの群れがやってきたときには、カイネが力場で地面に貼り付けにした後、ザルムがとどめを刺すという流れ業で対処し、ゾンビの大群の足音が迫ってきたときには、カイネが天から授かった聖句を唱えて怨念を浄化した。

さらなる死体を積み上げながら、彼らは見張りに集中すべく他愛もない会話をしていた。

「こういうことを聞くのは微妙かもしれないが、両親と会えなくて寂しくないか?」

いきなりの重たい質問であったが、カイネはそれに即答した。

「寂しいときもあるです。でもみなさんが優しくしてくれるから辛くはないです」

「そうか……。いや、寂しくないなんて言われるんじゃないかと思ってヒヤヒヤしたぜ。本音も言えないようじゃ仲間として失格だからな」

「そんなことを思っていたですか」

「ああ。カイネはいつもみんなに気を使っているような気がしてな」

「ワタシは逆に気を使われているような気がしていたです。その……両親が死んでしまったこととか、最後かもしれないレード族の生き残りだからだとか」

「変な気を使ってるつもりはないんだがな。やっぱりそう感じるか?」

「みんな優しすぎるからそう思ってたです。でも同じく辛い境遇にいたゲルセルさんに対する対応を見て、みんなの態度は自然に出たものだとわかったです」

「そうか。それならよかった」

「考えてみたら今はワタシが生まれた時代から300年後の世界。我ながらよくやってると思うです」

「そうだな。流石に俺には想像もつかねえが、大したもんだよ」

「みんなの優しさに助けられたと思ってるです。ありがとうです」

「俺もカイネがパーティに入ってくれて助かってるよ。マデリエネの奴は俺にだけ風当たりが強くて困るからな」

「ザルムさんを気に入ってるからだと思うですよ」

それはあり得ねえとザルムは否定する。

お互いに信頼は抱きつつも、どこか相手の欠点が目に付いてしまう。そんな関係が最適だと彼ら自身は無意識に気付いているということなのだが、口喧嘩が絶えないザルム本人にはカイネの言うことの意味はわかっていないようだった。


数は多いが魔物の強さはそこまででもなく、特に怪我をすることなく朝を迎えた。今日からようやく湿地の探索を始められる。

出発の支度を終えて全員で湿地に踏み込んだ。入り口から既に、足元の枯草がじんわりと雨水を吸っている。

グシャッという音と共に足に伝わる感触はいうなれば奇怪。目線の少し先を飛び交う小さな虫たちも、ジメリとした空気の重みを視覚的に感じさせてくるかのように鬱陶しかった。

入ってからしばらくは背丈の低い草ばかり。そのおかげで見晴らしは良好で水深もいうほど深くはなかった。

最奥を目指す彼らは、すぐに進めるときは足早に地図のルートに従って進んで行く。

そうして一時間は歩いたかと思われるくらいのところまで来ると、段々と大きな木が目立つようになってきた。そのおかげで木陰で休む小動物を度々見かけるようになってくる。

小さなカメがヨタヨタと進む姿が可愛らしいと思う者と、そうでもないという者が分かれる道中だ。

それからさらに一時間程、ここまで来ると景色は最初の頃と比べて大きく変化し、水浸しの森という印象だ。

歩くたびにザブザブと音を立てるのは、彼らでもなんとかして控えたいと思うほどだ。基本的には外で大きな音を立てるのは魔物に見つかるリスクが高い。

ましてやここで見つかれば、膝まで水が使った状態で魔物と戦うことになり、動き辛くて不利としか言いようがない。相手は水辺の魔物なのだから、水中でも易々と動けるはずなのだ。

なんとか音を控えめにするように歩いてきた彼らだったが、意を決して音を立てねばならないかもしれない。

目前に広がるは大きな河川。向こう側までは木の生息具合からして数十メートルはありそうだ。

幸いザルムは軽装備で来ているので川を渡ろうと思えば渡れるだろう。それは一番非力なカイネでも同じことだ。流れの早くない川を渡るくらい、冒険者なら障害にならないのだ。

では何が問題なのかというと、それはもちろん彼らを狙う肉食の生物たちである。警戒すべき相手の種類はクロコダイルからニンフまで、実に選り取り見取りとなっているのだ。

「アロイスの魔法で安全に渡りきれないか?」

「有効そうな魔法は変性系統のウォーターウォーキングが筆頭候補ですが、私はまだ扱えないですね。誰かにかける魔法というのは総じて難易度が高くて」

「そうか。危険を承知で泳いでいくか?」

「ゲルセルだけは安全に向こうまでいけるわね。羨ましいわ」

「操原魔法を応用すれば何とかなると思うです」

「力場の魔法……か……」

「そうですね。難易度は高いですが二人がかりならなんとかなるかもしれませんね。できるだけ危険は冒したくありませんし、やるだけやってみましょう」

結論が出ると、カイネとアロイスは息を合わせて強力な力場を発生させた。

基本的には一つの魔法を複数人で協力して発動することは不可能に近いが、今回のように場所にかける魔法ならば、幾分かは難易度は下がる。

下がりはするが、アロイスの発言の通り、難しい行為であることは変わりなかった。
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