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第六章
黒き翼の若人
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部族闘争が終結してから既に幾月か。彼らはとある依頼が終わった後の帰り道、冬を越してそろそろ陽気が心地よくなってきた街道を仲睦まじく通っていた。
無事に仕事が終わって落ち着いていたカイネが早めに目覚めた蝶を追って、綺麗な花を摘んでは花束を作っている。
彼女が大きく道をそれて小さな丘の向こうへ行ってしまうと、アロイスたちは彼女を連れ戻そうとその跡を追っていく。
丘を下ったところで彼女を見つけるが、広範囲の音を聞き分ける正確な耳が何かを聞き取ったようだ。
アロイスも魔法を使ってカイネと共に耳を澄ませると、少し遠くの遺跡から不吉な声が聞こえてくる。
「貴様が連れ去ったんだろう!」
「忌々しい魔族め」
「許せねえ。早くやっちまおう」
「そうだな。処刑なんて子供にでも見られたらまずいぜ」
処刑という単語が聞こえてきて、カイネもアロイスも危機を感じ取る。厄介ごとには違いないが、カイネは既に首を突っ込もうと走りだしてしまっていた。
アロイスは事の成り行きが聞こえていないであろうザルムとマデリエネに話は後でとだけ伝えて遺跡へと急いだ。
「何か最後に言い残すことはないのか?」
どこかの街の男三人に囲まれてそう聞かれた半魔族の青年は、手を後ろに組まされて鉄の鎖で縛られている。
彼の上半身の服は破り去られていて、半魔族特有の暗闇のような黒い肌が晒されていた。
背中には天高く跳べそうな大きな翼が生えていて、しかしながらそれも鎖で縛られていて傷んでいるように見える。
彼は言い残すことなどないというように男から視線を切ると、逞しい体の力を使って鎖を断ち切ろうとしていた。
無駄な抵抗だと一人の男が半魔族の顔を殴る。そのとき、青年の端正な顔に静かな怒りを感じた。
それでも三人の内の一番力持ちそうな男は、処刑用の大斧を大きく振り上げる。
いよいよ死を覚悟した青年に、少女の怒ったような声が聞こえる。斧が振り下ろされる寸前にカイネが声をあげたのだ。
「何をしてるですか!」
半魔族を囲んでいた男たちは少女がやってきたことで当惑し、取りあえずは物騒な斧を下ろす。
後からアロイスたちが合流したことでただの少女ではないとわかった彼らは余所へいってくれとそっけなく接してくるが、もちろん冒険者たちがそんなことをするはずもない。
「お楽しみのところ悪いけど、見つけてしまったからには見て見ぬフリをする訳にはいかないの。どうして処刑なんてやっているのか聞かせてもらえるかしら?」
マデリエネが凄んで聞くと、男たちはコソコソと話し合った後にいいでしょうと話をし始めた。
実はこの遺跡の近くの街で老若男女問わず人々が消えてしまう事件が起きており、この半魔族が一人の若い女性を抱えてこのあたりを歩いているのを見つけたらしい。
その女性は意識不明で今も目を覚ましておらず、半魔族の力で人間をたぶらかしているに違いないということでこの半魔族の青年を処刑するに至ったそうだ。
この突飛な話を聞いて流石に冒険者たちは反応に困っている。
「いくらなんでもこの方が犯人だと決めつけるのは早計ではありませんか? そもそも半魔族は魔族とは違って特殊な力はなく、何かを司っていることはないのですが」
「そんなことは知らん。事実、コイツは意識のない女を抱えていた。それが何よりの証拠じゃないか」
ヒゲの似合わない男が抗議してくるが抗議にすらなっていない。
「助けだしてきたところかもしれないじゃねえか。意識を失わせて連れ去っているところを直接見たのか?」
「それは……」
「大体一人で何人も人をさらうなんて簡単なことじゃないと思うです。知覚魔法にしたってよっぽどの高度な使い手じゃないと不可能だと思うです」
「……だからコイツの能力だと思ったんだ」
「そんな能力があるのなら簡単に捕まったりしませんよ。このことは内密にしておきますから、彼のことは私たちに任せてもらえませんか」
アロイスが強めに言うと、手も足も出なくなった男たちは引き下がって仕方ねえとすごすご帰っていった。
お楽しみを邪魔して一安心である。
無事に仕事が終わって落ち着いていたカイネが早めに目覚めた蝶を追って、綺麗な花を摘んでは花束を作っている。
彼女が大きく道をそれて小さな丘の向こうへ行ってしまうと、アロイスたちは彼女を連れ戻そうとその跡を追っていく。
丘を下ったところで彼女を見つけるが、広範囲の音を聞き分ける正確な耳が何かを聞き取ったようだ。
アロイスも魔法を使ってカイネと共に耳を澄ませると、少し遠くの遺跡から不吉な声が聞こえてくる。
「貴様が連れ去ったんだろう!」
「忌々しい魔族め」
「許せねえ。早くやっちまおう」
「そうだな。処刑なんて子供にでも見られたらまずいぜ」
処刑という単語が聞こえてきて、カイネもアロイスも危機を感じ取る。厄介ごとには違いないが、カイネは既に首を突っ込もうと走りだしてしまっていた。
アロイスは事の成り行きが聞こえていないであろうザルムとマデリエネに話は後でとだけ伝えて遺跡へと急いだ。
「何か最後に言い残すことはないのか?」
どこかの街の男三人に囲まれてそう聞かれた半魔族の青年は、手を後ろに組まされて鉄の鎖で縛られている。
彼の上半身の服は破り去られていて、半魔族特有の暗闇のような黒い肌が晒されていた。
背中には天高く跳べそうな大きな翼が生えていて、しかしながらそれも鎖で縛られていて傷んでいるように見える。
彼は言い残すことなどないというように男から視線を切ると、逞しい体の力を使って鎖を断ち切ろうとしていた。
無駄な抵抗だと一人の男が半魔族の顔を殴る。そのとき、青年の端正な顔に静かな怒りを感じた。
それでも三人の内の一番力持ちそうな男は、処刑用の大斧を大きく振り上げる。
いよいよ死を覚悟した青年に、少女の怒ったような声が聞こえる。斧が振り下ろされる寸前にカイネが声をあげたのだ。
「何をしてるですか!」
半魔族を囲んでいた男たちは少女がやってきたことで当惑し、取りあえずは物騒な斧を下ろす。
後からアロイスたちが合流したことでただの少女ではないとわかった彼らは余所へいってくれとそっけなく接してくるが、もちろん冒険者たちがそんなことをするはずもない。
「お楽しみのところ悪いけど、見つけてしまったからには見て見ぬフリをする訳にはいかないの。どうして処刑なんてやっているのか聞かせてもらえるかしら?」
マデリエネが凄んで聞くと、男たちはコソコソと話し合った後にいいでしょうと話をし始めた。
実はこの遺跡の近くの街で老若男女問わず人々が消えてしまう事件が起きており、この半魔族が一人の若い女性を抱えてこのあたりを歩いているのを見つけたらしい。
その女性は意識不明で今も目を覚ましておらず、半魔族の力で人間をたぶらかしているに違いないということでこの半魔族の青年を処刑するに至ったそうだ。
この突飛な話を聞いて流石に冒険者たちは反応に困っている。
「いくらなんでもこの方が犯人だと決めつけるのは早計ではありませんか? そもそも半魔族は魔族とは違って特殊な力はなく、何かを司っていることはないのですが」
「そんなことは知らん。事実、コイツは意識のない女を抱えていた。それが何よりの証拠じゃないか」
ヒゲの似合わない男が抗議してくるが抗議にすらなっていない。
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「それは……」
「大体一人で何人も人をさらうなんて簡単なことじゃないと思うです。知覚魔法にしたってよっぽどの高度な使い手じゃないと不可能だと思うです」
「……だからコイツの能力だと思ったんだ」
「そんな能力があるのなら簡単に捕まったりしませんよ。このことは内密にしておきますから、彼のことは私たちに任せてもらえませんか」
アロイスが強めに言うと、手も足も出なくなった男たちは引き下がって仕方ねえとすごすご帰っていった。
お楽しみを邪魔して一安心である。
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