死者と竜の交わる時

逸れの二時

文字の大きさ
上 下
48 / 84
第五章

帰郷

しおりを挟む
カルムからゴラドの村へと地図上で線を引くと、その途中でゲルナードの村を通りかかる。ザルムの指輪のお礼も兼ねて、四人はフィオナの家によって行くことにした。

戸を叩くと元気よくフィオナが出てきて顔を綻ばせてくれる。

アロイスとザルムは新しい仲間たちを紹介し、旅の途中でお礼に寄ったと伝えると、お礼を言うべきなのはこっちなのにと彼女は困惑しながらも家に招き入れてくれた。

カテジナは元気になっており、せっせと家事をしている最中で、アロイスとザルムの来訪に気付くと手を止めてハーブティーを淹れてくれた。

カイネがユリアンに初めましてですと挨拶する傍らで、ザルムはカテジナに指輪の礼を言う。

「カテジナさんからもらったこの指輪、本当に助かってます。ありがとうございます」

「いいえ。指輪がお役に立っているというのは嬉しいことですけれども、私と娘にしてくださったことを考えれば大したものではございません。こちらこそ、改めて感謝します。ザルムさん、アロイスさん」

「カテジナさんのお元気そうなお顔を拝見できて冒険者冥利に尽きる思いです。あれから体調を崩されることはなくなりましたか?」

「はい、おかげさまで。それよりもアロイスさんたちは随分と活躍されているそうですね。何でもジェルグの村ではアンデット絡みの事件を解決なされたとか」

「あれは参りましたよ。痛ましい事件だったので心身共にやられてしまって」

ザルムがハーブティーをすすりながら険しい顔をするので、カテジナは控えめな微笑みを浮かべる。

「それは大変でしたね。優秀な方たちでも苦労は絶えないことでしょう。ですが新しいお仲間ができて心強いのではありませんか?」

「ええ。マデリエネさんとカイネさんはそれぞれ素晴らしい能力をお持ちなので、仲間ながら感謝が絶えないのです」

「よほど信頼していらっしゃるのね。これから洞窟の探索に行かれるというお話でしたし、どうか無理をなさらず」

「もちろん気をつけて行って参ります」


フィオナの家に挨拶がてらに寄ったら、あとはゴラドの村まで一直線。ジャバウォックを倒した塔を横目に進むこと六時間ほど。夕刻になるまでの時間の経過と引き換えに、彼らはゴラドの村にたどり着いた。

まず初めにザルム以外は宿の手配をする。

大都市から遠いこともあってあまり人通りが少ないのだろう。宿は村に一軒しかなかったが、そこまで粗末と言うことはなく、それなりの広さはあった。

宿屋の親父さんは中堅クラスの冒険者が村まで来たと言うだけで愛想良く対応してくれる。

お金の問題だけではなく、単純に自分の宿に人が来てくれると言うだけで嬉しいのだろう。

ザルムはというと、もちろん実家に泊まることにした。質素な家だが竜族の家系だ。他の民家よりは少し大きめの家である。

それだからこそ、火事のときには苦労したのだろう。屋根は雨を何とかしのげるような粗雑な作りで柱も少し欠けている。

一応四人で押しかけてはみたものの、結局宿屋までいって話をすることになった。なにせザルムの家はさらに三人を家に入れることを想定して作られてはいないのだ。

ザルムが冒険者になると言い出したとき、意外にも両親は賛成していた。

もちろん我が子が命を落とすのではないかという恐れはあったが、それよりも自分のしたいことをしてほしいという思いの方が強かったのだろう。さらに言えばザルムの努力を知っていたというのもある。

「火事の前までは外に出てはいけないなんて言っていたけど、あれは間違いだったわね。毎朝剣の訓練をしていたけど、その努力が実ってお母さんは感動したわ」

「そうだなあ。こんなに立派な竜戦士になって俺も誇らしいよ」

ザルムの両親はしみじみと穏やかな目線を向けてくる。ザルムはそれに応えるかのように提案した。

「応援してくれた親父とお袋のおかげでもあるんだぜ? だから家の改装費用を出したいんだ」

そんなことはしなくていいと二人ともザルムを止めるが、ザルムは一向に引かない。結局家の改装費用を出すことになったザルムはそれに携われないことを悔やんだが、今はやりたいことを優先しなさいと両親に言われてここはその通りにすることにしたらしい。

軽く全員に挨拶をしてから、ザルムは両親と共に家に帰って行った。後に残った三人は羨望と憂いを混じった目をしてしまう。

両親にそれぞれ思うところがあるのだ。今日は早めに休みましょうかというマデリエネの言葉に残りの二人は賛同し、三人は各自の部屋へと入っていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...