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第五章
難事の影
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特に行き先のなかったザルムとカイネはそれぞれ、アロイスとマデリエネのお供をすることにしたらしい。
知識ギルドではそのアロイスとザルムがイストから聞いた情報を基に魔物を絞り込んでいく。彼から聞いたおいた情報は、黒い翼の生えた魔族で操原魔法の使い手であるということである。
出没した場所が夜の熱水泉ということを合わせて資料と照合していくと、ある一体の魔物に行き当たった。どうやら入館料10ナッシュずつを支払って本棚の山と格闘した甲斐はあったようだ。
「魔物の名前はアリオク。復讐、混沌、剣を司る魔族で、黒い翼と四本の腕が特徴なのだとか。操原魔法を巧みに使うので、攻撃を弾かれたり飛び道具を打ち落とされたりと苦労する相手のようです」
「どうやって戦えばいいんだよそれ……」
「考えがないこともないですが、上手くいくかどうか」
「それにどうやって見つけるかも問題だろう。イストさんに呪いをかけた個体を倒さなきゃならないんだろうし」
「その答えは簡単ですよ。相手は復讐と剣を司る魔族。つまりザルムさんが剣を構えてイストさんの復讐に来たと宣言すればいいんです。魔族は古代魔法の悪魔のように何かを司っているものなので、そういった儀式には逆らえないはずですよ」
「なるほど。見つけ方は解決か。じゃあ心配するべきは倒し方だな……」
しばらく沈黙が流れる……。耐えかねたアロイスはおもむろに提案した。
「埒が明かなそうなので情報共有しに一旦戻りましょうか」
「まあ、そうだな」
魔物の情報収集の結果はそれねりに上々と言えた。では地形の把握はというと、これについては苦戦する要素などまるでなかった。
マデリエネは斥候ギルドの一員ではないにも関わらず、既に内部での勝手を掴んでいたのだ。彼女は情報屋のいるカウンターに身を乗り出して色っぽく尋ねる。
「ねえ、デスメ火山とその中腹の熱水泉について、何か知らない?」
情報屋はたわんだマデリエネの山に釘づけだ。彼がサービス精神好きだと見抜いてからというもの、マデリエネの仕事は格段に楽になった。
「相変わらず色っぽいね、マデリエネちゃん。それで、デスメ火山だっけ? ええっと……ああ、あったあった」
そうして情報屋の男性がサービスで地図を手早く複製してくれる。本来は自分で複製まで行う手順なのだが、彼女の美貌はその手順すらすっ飛ばしてしまうのだ。
「はい、できたよ。熱水泉はそれを浴びたら最後、火傷だけじゃすまないから離れた方がいいね」
「うふふ、ありがとう」
ありがとうですとマデリエネに追従するカイネを見つけた彼は、去って行こうとする彼女らを呼び止める。
「まあまあ待ちなよ。いいものを見せてくれたお礼にもうちょっとだけサービスするよ。実はあそこの熱水泉は底に穴をあけると熱水が噴射されるらしいんだ。上手く使えば……なんとやらかもね」
貴重な情報を受け取った彼女らは情報屋に改めてお礼を言うと、豪傑の虎亭に戻って行った。
各々の情報を持ち寄って豪傑の虎亭で作戦会議をしてから、東にそびえるデスメ火山目指して進んで行く。目的地までは一日かからないくらいの距離だが、出発が朝ではなかったために野宿をすることになる。
最近の冒険では少なくともどこかの建物の中で眠ることができていたので久々の野宿は新鮮だった。カイネが作ってくれた野菜スープを味わってから、荷物の軽い女性二人が背負ってきた簡易テントを男性二人が立ち上げた。
お金周りに余裕ができた彼らはようやくテントを買うことができたのだ。夜の平野でも油断せず、二人ずつ二交代で油断せずに見張りを立てる。
そうして草木も眠る丑三つ時、見張りの番をしていたカイネとマデリエネは不吉なささやきを聞いた。
微かだったそれは次第に大きくなっていき、空気が刺すように冷たくなっていくのを感じる。一旦火を消してアロイスとザルムを叩き起こすと、起きた二人を含めた四人で静かに気配を探った。
月に照らされた草原にぼんやりと黒い影が現れる。どうやら明かりを消しても無駄な相手らしく、敵意がこちらに向いたのは明らかだった。
纏ったボロきれのような黒いものがユラユラと浮遊する姿と共に、青く光った瞳がこちらを見据えていた。
まだ暗い時間に現れるこの魔物は……ゴーストだった。アンデッドの中でもなかなかの強者で中位以上のアンデッドが共通して持っている操原魔法の技能と、固体別に持っている他の系統の魔法が厄介な相手だ。その上当たり前の如く通常の武器は効果がない。
倒す手段はアロイスの魔法や弱点の炎による攻撃だけだ。
「ザルムさん、マデリエネさん、あれを使いましょう」
そう言われて前衛の彼らが使ったのは小さな瓶に入った白色の液体。武器にそれを塗った後、アロイスがその武器に意識を向けて指を鳴らせばあら不思議。刃に炎が燃え盛った。
こんなこともあろうかと、アロイスは事前に錬金台でこの可燃液を合成しておいたのだ。ゴーストは炎の光を避けるようにして浮遊しながら、操原魔法で衝撃波を放っている。
いくらマデリエネでも見えない力の渦は避けきれず吹き飛ばされてしまうが、そのときはザルムが炎の剣で怨念を焼き切り、ザルムが魔法を食らって一時的に剣を持てなくなると、マデリエネがダガーの炎でゴーストを退けた。
アロイスの詠唱を邪魔しようとゴーストがやってきたときはカイネが“フォースフィールド”で身を守り、ついに本命の魔法攻撃が発動した。
ゴーストのいる地面に生き生きと赤く輝く魔法陣が描かれたかと思うと、そこから激しい炎が天に向かって噴き上がる。その揺れ動く炎の輝きと共に、ゴーストの怨念は浄化され、黒い霞は闇の空へと溶けて消えた。
知識ギルドではそのアロイスとザルムがイストから聞いた情報を基に魔物を絞り込んでいく。彼から聞いたおいた情報は、黒い翼の生えた魔族で操原魔法の使い手であるということである。
出没した場所が夜の熱水泉ということを合わせて資料と照合していくと、ある一体の魔物に行き当たった。どうやら入館料10ナッシュずつを支払って本棚の山と格闘した甲斐はあったようだ。
「魔物の名前はアリオク。復讐、混沌、剣を司る魔族で、黒い翼と四本の腕が特徴なのだとか。操原魔法を巧みに使うので、攻撃を弾かれたり飛び道具を打ち落とされたりと苦労する相手のようです」
「どうやって戦えばいいんだよそれ……」
「考えがないこともないですが、上手くいくかどうか」
「それにどうやって見つけるかも問題だろう。イストさんに呪いをかけた個体を倒さなきゃならないんだろうし」
「その答えは簡単ですよ。相手は復讐と剣を司る魔族。つまりザルムさんが剣を構えてイストさんの復讐に来たと宣言すればいいんです。魔族は古代魔法の悪魔のように何かを司っているものなので、そういった儀式には逆らえないはずですよ」
「なるほど。見つけ方は解決か。じゃあ心配するべきは倒し方だな……」
しばらく沈黙が流れる……。耐えかねたアロイスはおもむろに提案した。
「埒が明かなそうなので情報共有しに一旦戻りましょうか」
「まあ、そうだな」
魔物の情報収集の結果はそれねりに上々と言えた。では地形の把握はというと、これについては苦戦する要素などまるでなかった。
マデリエネは斥候ギルドの一員ではないにも関わらず、既に内部での勝手を掴んでいたのだ。彼女は情報屋のいるカウンターに身を乗り出して色っぽく尋ねる。
「ねえ、デスメ火山とその中腹の熱水泉について、何か知らない?」
情報屋はたわんだマデリエネの山に釘づけだ。彼がサービス精神好きだと見抜いてからというもの、マデリエネの仕事は格段に楽になった。
「相変わらず色っぽいね、マデリエネちゃん。それで、デスメ火山だっけ? ええっと……ああ、あったあった」
そうして情報屋の男性がサービスで地図を手早く複製してくれる。本来は自分で複製まで行う手順なのだが、彼女の美貌はその手順すらすっ飛ばしてしまうのだ。
「はい、できたよ。熱水泉はそれを浴びたら最後、火傷だけじゃすまないから離れた方がいいね」
「うふふ、ありがとう」
ありがとうですとマデリエネに追従するカイネを見つけた彼は、去って行こうとする彼女らを呼び止める。
「まあまあ待ちなよ。いいものを見せてくれたお礼にもうちょっとだけサービスするよ。実はあそこの熱水泉は底に穴をあけると熱水が噴射されるらしいんだ。上手く使えば……なんとやらかもね」
貴重な情報を受け取った彼女らは情報屋に改めてお礼を言うと、豪傑の虎亭に戻って行った。
各々の情報を持ち寄って豪傑の虎亭で作戦会議をしてから、東にそびえるデスメ火山目指して進んで行く。目的地までは一日かからないくらいの距離だが、出発が朝ではなかったために野宿をすることになる。
最近の冒険では少なくともどこかの建物の中で眠ることができていたので久々の野宿は新鮮だった。カイネが作ってくれた野菜スープを味わってから、荷物の軽い女性二人が背負ってきた簡易テントを男性二人が立ち上げた。
お金周りに余裕ができた彼らはようやくテントを買うことができたのだ。夜の平野でも油断せず、二人ずつ二交代で油断せずに見張りを立てる。
そうして草木も眠る丑三つ時、見張りの番をしていたカイネとマデリエネは不吉なささやきを聞いた。
微かだったそれは次第に大きくなっていき、空気が刺すように冷たくなっていくのを感じる。一旦火を消してアロイスとザルムを叩き起こすと、起きた二人を含めた四人で静かに気配を探った。
月に照らされた草原にぼんやりと黒い影が現れる。どうやら明かりを消しても無駄な相手らしく、敵意がこちらに向いたのは明らかだった。
纏ったボロきれのような黒いものがユラユラと浮遊する姿と共に、青く光った瞳がこちらを見据えていた。
まだ暗い時間に現れるこの魔物は……ゴーストだった。アンデッドの中でもなかなかの強者で中位以上のアンデッドが共通して持っている操原魔法の技能と、固体別に持っている他の系統の魔法が厄介な相手だ。その上当たり前の如く通常の武器は効果がない。
倒す手段はアロイスの魔法や弱点の炎による攻撃だけだ。
「ザルムさん、マデリエネさん、あれを使いましょう」
そう言われて前衛の彼らが使ったのは小さな瓶に入った白色の液体。武器にそれを塗った後、アロイスがその武器に意識を向けて指を鳴らせばあら不思議。刃に炎が燃え盛った。
こんなこともあろうかと、アロイスは事前に錬金台でこの可燃液を合成しておいたのだ。ゴーストは炎の光を避けるようにして浮遊しながら、操原魔法で衝撃波を放っている。
いくらマデリエネでも見えない力の渦は避けきれず吹き飛ばされてしまうが、そのときはザルムが炎の剣で怨念を焼き切り、ザルムが魔法を食らって一時的に剣を持てなくなると、マデリエネがダガーの炎でゴーストを退けた。
アロイスの詠唱を邪魔しようとゴーストがやってきたときはカイネが“フォースフィールド”で身を守り、ついに本命の魔法攻撃が発動した。
ゴーストのいる地面に生き生きと赤く輝く魔法陣が描かれたかと思うと、そこから激しい炎が天に向かって噴き上がる。その揺れ動く炎の輝きと共に、ゴーストの怨念は浄化され、黒い霞は闇の空へと溶けて消えた。
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