死者と竜の交わる時

逸れの二時

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第四章

追跡

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四人が向かった依頼人の家は豪邸と呼べそうな大きさと広さを持っており、外から見ただけでも部屋の数が尋常ではなかった。

家の主である旦那さんは外に働きに出ているのか、というよりも会議に出ているのか留守にしており、家には依頼人の奥さんとその使用人だけのようだ。

豪華な家の玄関の扉は凝った金の装飾が施されていて眩しく、自分たちの持つ権威をアピールしているかのようにも思える。

そんな家から出てきた使用人に案内されて家の中に入っていくと、ブルーからレッドまで取りそろえた美しい指輪を見せびらかす夫人が応接間で尊大に座っていた。

彼女はザルムを見て明らかに顔をしかめるが、目にも入っていないという態度をつくると依頼内容を話しだした。

探してほしいのは透明な水晶で大きさは彼女の両手にすっぽり収まるくらいのものとのこと。光に当たると綺麗に輝き、最後に見たのは例の魔法店の店頭らしかった。

初めに見たときは買うのを躊躇ったが、帰って来たときにはやっぱりそれが欲しくなったそうで急いで店に戻ったが、既にそれは誰かに売れてしまっていたという。

何としても見つけ出してと彼女は言うが、そうは言っても彼女が提示した情報では一つのものを絞り込めそうにない。ただの水晶の玉ならいくつか店に並ぶことはままあるのだ。

だが幸運な冒険者たちは既に魔法店でそれらしきものの噂を聞いていた。とりあえずは物を持ってきて彼女にそれかどうか見てもらうということで話はまとまり、報酬額は一人当たり1500ナッシュとなった。情報だけの場合は500ナッシュとこれもそう悪くない。

ところがその宝珠にかける金額はケタ違いの5万ナッシュ。かなりの金額を出して落として来いとの仰せだった。もちろん、支払いは今の持ち主と交渉して決めるそうだが。

帰り際にザルムの方に向かって、あなたたちに任せて本当に大丈夫なのよね? と聞いてきた。それでも彼らは依頼主の前では反抗することはない。だがみな不快感を味わっていたのは言うまでもないことであった。


一直線に向かうは魔法店。戸を大胆に開け放ち店主の挨拶よりも早くザルムが尋ねる。

「輝いてた宝珠があったと言ってたよな? 誰に売ったんだ?」

すると店主は困り顔で口をすぼめた。

「お客さんの情報を教えるわけにはいかないなあ。殺人事件でもなければね?」

「そんな悠長なこと言ってると、ここで殺人が起きるかもしれないわよ?」

マデリエネが隠れていたナイフをちらつかせると、店主はあっさりと観念した。

「わかったわかった、話すから!」

マデリエネから露骨に距離を取る店主が言うには、宝珠を売った先は魔法使いの冒険者で名前はアンジェラと言うらしい。お金が無くて随分と苦しそうだったが、あまりの魅力に買ってしまったようだ。

彼は誇らしげにそのことを自慢し始めるが、マデリエネがほほ笑むと急に黙る。

「物騒なことするなよな全く……まあでも冒険者だったら依頼をしたいと言ってギルドで指名すればどこの店にいるかわかるかもな!」

「冒険者の店に所属していなくても何らかの方法でアプローチしてくれるでしょう。次の行き先が決まりましたね」

そそくさと去って行く彼らの後ろで、ごめんなさいですと店主に謝るカイネ。そんな健気な彼女を連れて、ストレンジは冒険者ギルドに向かった。

受付から少し離れた場所で軽く作戦会議だ。さらに不利になった多数決で、今度は物騒なことにならないようにとアロイスとカイネで攻めることに決まる。

「知り合いの冒険者のお姉ちゃんに依頼をしたいです」

「アンジェラさんという方らしいのですが、探し物をしてほしいと妹がうるさくて」

どうやらそういう方向で行くらしい。受付の男性はカイネに見とれながらそうですかとぼんやりと呟き、無警戒にもアンジェラの所属する店を伝えてくれる。マデリエネの提案で、わざわざ男性職員を狙った甲斐があるというものである。

「カイネちゃんの魅力には勝てないわよね。それで、どこにいるって?」

「風雲の天狗亭という神殿地区にある店にいるらしいです」

「また神殿地区か……」

苦々しい顔のザルムを連れて、時は金なりの法則ですぐに神殿地区に向かう。ここはどこから入っても大きな神殿のステンドグラスが見えるのだが、風雲の天狗亭は神殿の真反対の方向、つまり居住地区に近い場所にある。

大きな通りの右側にあるこの店は、ファムの店よりもずいぶんと騒がしい雰囲気だ。飲み物を注ぐ音など簡単にかき消されるような、大声で話す人たちが集まっていた。

入り口の扉を開けたすぐ目の前には二階への階段が存在し、その横にひし形のカウンターがあるという珍しい間取りは他の店にはないものだろう。

騒がしいのはここに所属する冒険者が多く、酒場としても繁盛しているからのようだ。三時ごろという少し早い時間からでも、いくつかの団体さんが酒盛りを始めていて、ビールの香りがもう既に漂っている。

雰囲気の良い店構えにしてくれているファムに改めて感謝しながら、不思議な形のカウンターから店主に用件を伝えると、長いひげのおじさん店主がアンジェラの名前を呼んだ。

二階から降りて来た彼女の目は赤く腫れ、良くないことが身に起きたのだと誰にでも想像させる顔をしていた。紫の魔法帽でそれを隠そうとしているが、階段下からは丸見えだ。

降りて来た彼女に宝玉の話を聞くと、すぐに泣き出してしまった。慌てて四人は端っこのテーブルに座り、しばらく彼女を宥めると、十五分ほどしてようやく話を聞くことができる。

「実はぁ……ヒック……盗まれたんですぅ……ヒグッ……」

「盗まれたときの状況を教えてもらえますか?」

「はい……宝珠を買って魔法店を出たんです。そこからここまで真っ直ぐに帰ろうと思ったんですけど、商業地区から教会地区に来る境目のところでボロボロの服の人にひったくられて……グスリ……」

「あのあたりは貧しい人たちが集まっているものね。炊き出しと人通りのよさの両方で都合が良いから」

「すぐに向かわないとどうなるかわからねえな。何か盗んだヤツの特徴はないか?」

「麻の靴を履いていて、くすんだ緑色の帽子を被っていたと思います……」

「それなら簡単に見つかると思うです」

見つかれば高値で買い取ってくれる人を紹介するとアンジェラを励ましてから、盗まれた現場へと四人は急いだ。
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