死者と竜の交わる時

逸れの二時

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第四章

罠の氾濫

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「さすが、アロイスの魔法は強力ね」

「変性魔法は物質系の敵には効果が高いですからね」

木偶の坊を倒して、アロイスがザルムのへこんだ盾を三レベルの変性魔法“リペアー”で修理すると、松明に照らされた薄闇を改めて進んでいく。オレンジの光に照らされて、ザルムは少し複雑な表情をしながらも、右奥の方に上に続く階段を発見する。

見つけてしまったが百年目、彼らがただ自然に階段を上がろうとすると、運の尽きをかき消すザルムの指輪が煌々と光りだした。

「本当に便利だな、この指輪」

「プリモニションを維持するための集中力を温存できて助かりますよ」

「また罠かしらね。油断ならないわ」

彼女の推測通り、またしても罠である。しかしながら今度は感圧板は見当たらず、何が仕掛けられているのか見当がつかなかった。

アロイスはそうなったときのための魔法、“シャープパーシビリティ”を唱える。もちろん松明にはすべて原理の力の流れを感じるが、階段わきの一つだけは微妙に力の流れが大きかった。

どんな罠なのか調べるため、あえてその松明に力を注いでみる。するとあろうことか階段下に向かって物凄い勢いの炎が爆発するかのように大噴射された。

油断した侵入者を黒焦げにする、殺意の高い罠ナンバーツーである。これには罠の貴婦人マデリエネも思わず立ちつくして皮肉るように笑うしかなかった。

慎重にこのキケンな罠を無効化して階段を上がると、下の階と似たような構造にはなっていつつも、ゴブリンやコボルトが息を潜めている。さっさとそれを見つけ出して軽くひねりつつ先を急ぐが、罠の警戒だけは怠らない。

そうして三階を突破し、四階まで来ると、例の外を眺められるフロアに出た。ここはもちろん日の光が差し込んで明るく、上がったすぐ向かい側に上り階段が見える。だがあまりにも何もなさ過ぎた。

「どう見ても罠……だよな?」

「どう見ても罠ですね……」

「それより、どうやって向こう側にいけばいいのかしら」

「とりあえずここは精霊を呼び出して先行させましょう」

そう言ってアロイスは土色の魔法陣から大地の精霊ノームを呼び出した。

岩が連なってできた体は先ほどのゴーレムを連想させるが、それよりも遥かに小さく、人間の膝ほどまでしかない。だがその頑丈さは折り紙付きで、テクテク歩くさまは可愛らしいという不思議な精霊だった。

身代わりに使える特性を持ちながら、それを躊躇わせる愛くるしさが冒険者を悩ませる難しい立ち位置の精霊である。

そうは言いつつ、罠だらけのこの塔のフロアを何の策もなしで歩いてみるような無謀さはアロイスにはない。遠慮なくノームを先行させ、安全確認をしてみた。

危険確認といった方が手っ取り早そうだが。今まさに、自分たちがいる階段から少し歩いた先でノームが四方向からの風の刃に切り裂かれようとしていた。

膝くらいまでしかない高さのおかげで無事であったが、豪速の風の刃がぶつかり合う音は想像を絶し、三人は反射的に耳を塞ぐ。

見たところこれも呪刻を使った罠のようで、物理的な仕掛けは見当たらない。アロイスが手早くそれを解除しにかかると、呼び出された精霊は掻き消えてしまった。

いくら彼でも幾つもの魔法を同時に発動させて維持するのは不可能らしい。もう一度、改めて呼ばれた精霊はザルムによって二号機と名付けられて、またテクテクと歩き出す。

今度は特に罠が発動することもなく安全に向かいの階段まで歩ききる。しかし階段を一段登ろうとしたところで火炎に焼かれて再び消え去った。

この塔の建設者は同じ罠はもうないと思わせた二段構えの罠を設置する性格の悪さをお持ちらしい。もはや反応すらしなくなった彼らは、それからは順調に進んでいき、罠の数々にも慣れてきた。

壁によって小さな通路がつくられたフロアでは、細い糸が足に引っかかっただけで爆死しかけたし、外を眺められる別のフロアでは、ハリケーンのような風量の突風がその階一面に吹き荒れて身投げしかけたりもした。

ほんの小さなボタンを押しただけで巨大なハンマーが迫ってくるという恐怖も体験した彼らは、最上階に来るまでには息も絶え絶えであった。

殺意の高い罠を潜り抜けつつ、弱いとはいえ多くの魔物を相手にしていたからだ。苦労したのだからその報いをと期待してしまう冒険者たちだが、天辺にあったのはたった一つの棺だった。
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