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第二章
歓迎パーティ
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その夜、ミアが必死に用意したご馳走を囲んで歓迎パーティが開かれた。実に早い対応に感謝するアロイス。
だがお祝いが始まる前から既に、ザルムは憔悴しきった顔をしていた。
武器愛好家のベリウスにあれこれ聞かれたり聞かされたりしたあげく、カティが興奮しながら変性魔法を唱えたせいで、彼女が持っていたポーションが爆発を起こし、近所に謝りに行く羽目になったのである。
その後カティとベリウスがファムに何を言われたかは定かではないが、どうやら激しい雷が落ちたようである。
すっかりしおれたベリウスとカティの飲み物は当然ビールやワインではなくお茶になった。大体人柄が分かった二人は置いておいて、アロイスはモレノとリュドミーラと話をしてみることにする。
「ところでファムさんから聞いたのですが、ハーピィが高価な装飾品を身に着けていたそうですね」
「ええ、とても幸運でしたわ。金製のネックレスだったのですが、状態が良くて高い金額で引き取っていただきました」
「依頼達成の報酬金と合わせてしばらくは何とかなりそうだよ。君たちはこの街に来てまだ間もないだろう? 困ったことがあったらいつでも頼ってね」
「それ俺のセリフ……」
お世話されてるお前が言うなとラウノに頭をどつかれて、ベリウスは再びテーブルに伏せった。
アロイスがお礼を言うさなか、ベリウスの昏倒を見計らったかのようにザルムは復活すると、こっそりとそのアロイスを善意の渦中に巻き込んだ。一連托生というよりは死なばもろともである。
「ベリウスが俺に剣の稽古をつけてくれるらしいんだ。でも彼が他人と親しくしているとカティさんがゴネて面倒だから、彼女の足止めを兼ねてアロイスが錬金術を習ったらどうかって言ってたぞ」
アロイスは今日の彼女の姿を思い出して遠い目をする。
「そう……ですか。とはいえ錬金術は確かに便利かもしれませんね。わかりました。それとなくお願いしてみましょう」
道連れとも言える提案だが、役に立つ技能を教われるのは悪くないと納得したアロイスが問題の女カティに声をかけると、とんがり帽子の下にどんよりと暗い顔が見える。
やっぱりやめようかと思ってしまうが、声をかけてしまった手前引くに引けずに錬金術の件をお願いすると、彼女は一転して嬉しそうにはしゃぎ顔色も元に戻った。初めての後輩に頼られて舞い上がったらしい。
お姉さんとお近づきになりたいの? などと怪しげなセリフを吐かれてもアロイスは至って冷静だ。
「先輩方には仲良くしていただけると助かりますね」
そうアロイスが先輩方という言葉を強調する一方で、ザルムは同じく復活したベリウスにまたうざく絡まれている。重鎧に大盾と言うガチガチの接近スタイルが気に入られたのだ。
肩を通り越して首まで手が伸ばされたことで危機感を感じるザルム。なんたってベリウスはシラフのはずなのだ。
ところがベリウスの顔はちょこっとだけ赤みを帯びていた。そう。彼はなんと洋酒の小瓶を隠し持っていたのである。
それに気づいてより一層恐ろしくなったザルムが助けを求めてマデリエネを見たとき、当の彼女は女性神官のリュドミーラと悲しげに話をしていた。神官という、一見悪行とは程遠い職業の相手にもかかわらず、元盗人のマデリエネはついつい何か話し込んでいるようだ。
それもこれも実はリュドミーラの意外な人柄とその経緯に起因している。彼女は遠くの街の犯罪組織の生まれで、治安の悪さと人間の醜さを一通り学んできていたのだ。麻薬の密売や暴力事件などが日常茶飯事だった彼女にとっては、貴族から金目のものをちょっとばかり頂戴するくらい犯罪のはの字にも入らないだろう。
そういう訳もあって、長いこと裏社会にいたマデリエネとは深い部分で気が合ったのだった。
いつの間にか片付け役に回っていた他のメンバー、モレノはというと、ミアから手伝いのお礼を言われてにんまりと顔を緩めて照れていた。彼はおしとやかな女性が好みで、リュドミーラが気になっていたこともある。
しかしそう上手くいかないのが世の常だ。彼女の見たくなかった一面を見てしまい、古代遺跡が眠る海よりも深く幻滅したことがあるのは彼しか知らない黒歴史である。
恋破れて勝手に落胆していたある日、依頼人が増えてきた豪傑の虎亭にミアがお手伝いとしてやってきたのは彼に言わせれば白歴史らしい。
今はまだ幼くて初々しい彼女が将来自分好みのいい女になることを夢見ていることを誰にも知られていないと彼は思っていたが、残念ながらそれは間違いである。有能な店主に死角などないのだ。
ファムはお開きになった歓迎パーティの片づけをしている男女を実に温かく見守りながらも、ミアにも断るということをそろそろ教えなくてはと密かに思っているのだった。
だがお祝いが始まる前から既に、ザルムは憔悴しきった顔をしていた。
武器愛好家のベリウスにあれこれ聞かれたり聞かされたりしたあげく、カティが興奮しながら変性魔法を唱えたせいで、彼女が持っていたポーションが爆発を起こし、近所に謝りに行く羽目になったのである。
その後カティとベリウスがファムに何を言われたかは定かではないが、どうやら激しい雷が落ちたようである。
すっかりしおれたベリウスとカティの飲み物は当然ビールやワインではなくお茶になった。大体人柄が分かった二人は置いておいて、アロイスはモレノとリュドミーラと話をしてみることにする。
「ところでファムさんから聞いたのですが、ハーピィが高価な装飾品を身に着けていたそうですね」
「ええ、とても幸運でしたわ。金製のネックレスだったのですが、状態が良くて高い金額で引き取っていただきました」
「依頼達成の報酬金と合わせてしばらくは何とかなりそうだよ。君たちはこの街に来てまだ間もないだろう? 困ったことがあったらいつでも頼ってね」
「それ俺のセリフ……」
お世話されてるお前が言うなとラウノに頭をどつかれて、ベリウスは再びテーブルに伏せった。
アロイスがお礼を言うさなか、ベリウスの昏倒を見計らったかのようにザルムは復活すると、こっそりとそのアロイスを善意の渦中に巻き込んだ。一連托生というよりは死なばもろともである。
「ベリウスが俺に剣の稽古をつけてくれるらしいんだ。でも彼が他人と親しくしているとカティさんがゴネて面倒だから、彼女の足止めを兼ねてアロイスが錬金術を習ったらどうかって言ってたぞ」
アロイスは今日の彼女の姿を思い出して遠い目をする。
「そう……ですか。とはいえ錬金術は確かに便利かもしれませんね。わかりました。それとなくお願いしてみましょう」
道連れとも言える提案だが、役に立つ技能を教われるのは悪くないと納得したアロイスが問題の女カティに声をかけると、とんがり帽子の下にどんよりと暗い顔が見える。
やっぱりやめようかと思ってしまうが、声をかけてしまった手前引くに引けずに錬金術の件をお願いすると、彼女は一転して嬉しそうにはしゃぎ顔色も元に戻った。初めての後輩に頼られて舞い上がったらしい。
お姉さんとお近づきになりたいの? などと怪しげなセリフを吐かれてもアロイスは至って冷静だ。
「先輩方には仲良くしていただけると助かりますね」
そうアロイスが先輩方という言葉を強調する一方で、ザルムは同じく復活したベリウスにまたうざく絡まれている。重鎧に大盾と言うガチガチの接近スタイルが気に入られたのだ。
肩を通り越して首まで手が伸ばされたことで危機感を感じるザルム。なんたってベリウスはシラフのはずなのだ。
ところがベリウスの顔はちょこっとだけ赤みを帯びていた。そう。彼はなんと洋酒の小瓶を隠し持っていたのである。
それに気づいてより一層恐ろしくなったザルムが助けを求めてマデリエネを見たとき、当の彼女は女性神官のリュドミーラと悲しげに話をしていた。神官という、一見悪行とは程遠い職業の相手にもかかわらず、元盗人のマデリエネはついつい何か話し込んでいるようだ。
それもこれも実はリュドミーラの意外な人柄とその経緯に起因している。彼女は遠くの街の犯罪組織の生まれで、治安の悪さと人間の醜さを一通り学んできていたのだ。麻薬の密売や暴力事件などが日常茶飯事だった彼女にとっては、貴族から金目のものをちょっとばかり頂戴するくらい犯罪のはの字にも入らないだろう。
そういう訳もあって、長いこと裏社会にいたマデリエネとは深い部分で気が合ったのだった。
いつの間にか片付け役に回っていた他のメンバー、モレノはというと、ミアから手伝いのお礼を言われてにんまりと顔を緩めて照れていた。彼はおしとやかな女性が好みで、リュドミーラが気になっていたこともある。
しかしそう上手くいかないのが世の常だ。彼女の見たくなかった一面を見てしまい、古代遺跡が眠る海よりも深く幻滅したことがあるのは彼しか知らない黒歴史である。
恋破れて勝手に落胆していたある日、依頼人が増えてきた豪傑の虎亭にミアがお手伝いとしてやってきたのは彼に言わせれば白歴史らしい。
今はまだ幼くて初々しい彼女が将来自分好みのいい女になることを夢見ていることを誰にも知られていないと彼は思っていたが、残念ながらそれは間違いである。有能な店主に死角などないのだ。
ファムはお開きになった歓迎パーティの片づけをしている男女を実に温かく見守りながらも、ミアにも断るということをそろそろ教えなくてはと密かに思っているのだった。
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