97 / 117
邪な企み
保護
しおりを挟む
「シビルさん、元気にしていましたか?」
「まだ別れて一か月も経っとらんからな。元気じゃよ」
ノエラが向ける満面の笑みに、シビルはこっくりと頷いている。そっとしておきたい気持ちもあるけど、今はバロンが心配だ。
「なあ、バロンに会わせてくれよ。ツリーハウスにいるんだろ?」
「だからあの神官はどうするんじゃ」
「そうだったわ。もう面倒だから眠っててもらうか?」
「だ、駄目ですよ! きちんと街まで連れて行って罰を受けてもらわないといけません!」
「いや、殺すって意味じゃないからな? ちょっとばかしいたぶって気を失ってもらうというか……」
「だから駄目ですよ! それは私たちの仕事じゃありませんから!」
ノエラは空中のバルトサールに何かの魔法をかけた。するとバルトサールの体から力が抜けて、首がこくんと垂れる。
「何をしたんだ?」
「眠りの魔法をかけたんですよ。私が起こさない限りずっと寝たままなので大丈夫です」
「そんな恐ろしい魔法があったんだな。なんにせよありがたいけどさ」
俺は闇の束縛を解いて、バルトサールを地面に下ろした。それからノエラの魔法で縄を生み出してグルグル巻きに。さらにシビルが岩の精霊を使ってゴーレムを創り、それにバルトサールを運ばせた。
精霊魔法が大活躍だ。移動には俺が【漆黒の翼】を使おうかと思ったのだが、シビルが帰りに温存しておけと言って止めてきた。代わりに風の精霊魔法で森を駆け抜けることになったのだが……。
結構な速さなのに低空飛行なもんだから、木にぶつかりそうで怖かった。精霊魔法だけあって自然の操作はお手のもの。運んでくれる風が木を避けてくれて、邪魔な草木はシュルシュルと端に避けさせる。
これだけ制御の細かい魔法を三人とゴーレムにかけて失敗しないかヒヤヒヤしたが、安全に素早くツリーハウスまで着いた。ノエラはシビルを完全に信頼していたからか、空中浮遊を楽しんでいたようだが、俺にはそんな余裕はなかった。
多分彼女も精霊使いだから、魔法に対する心持ちが違うんだろう。精霊も見えるから、尚更安心できるのだろうな。ゴーレムには家の外でバルトサールをハグして抑え込ませ、俺たちはツリーハウスの中に入った。
ここに再びやって来るまでに結構時間が経ったような感覚だが、実際にはそんなに経っていないんだよな。毎日が新鮮なことの連続だから色々あったような感覚になってるな。まあ実際色々あったか。
俺たちが扉を開けて中に入ると、一人優雅にお茶を飲んで座っているバロンがいた。その傍にはシビルの眷属である危険な生き物が一匹。三股の尻尾をフリフリしながらもこちらに気付くと、かじっていた木の実を急いで全部口に含んでもぐもぐしている。
はん! お前の食べてる木の実なんて誰が食べるかよ!
「サム! お前のおかげで死にかけたんだぞ! どう責任とってくれるんだよ!? ああ!?」
「無事でよかったよバロン。悪かったって。そんなに怒らないでくれよ……」
「そんなに怒るなだあ!? こちらの方がいなかったら今頃死んでたかも知れねえんだぞ? 文句の一つくらい言わせろってんだ!」
「ご、ごめんて。謝るからまずは座らせてくれよ。な?」
「チッ」
不服そうにしながらもバロンは俺たちが椅子に座るまで待った。それから若干モゴモゴしながらもまた話し始める。
「まあ、なんだ。頭ではお前が悪いわけじゃないって分かってんだ。あのムカつく神官もどきが全部悪い。だが、置き去りにされたときの絶望感と死にかけたときの恐怖は、そう簡単に忘れられるもんでもねえ。ああクソ! どこに怒りをぶつけていいやらわからねえっての」
「あー……それなら事件の首謀者を殴るか? 多少は気分が晴れるかもだろ?」
俺は半分冗談で言ったのだが、バロンは予想以上に喰いついてきた。
「あのクソ野郎を捕まえたのか? 殴らせろ! 今すぐ殴らせろ!」
「ま、マジか? 別にいいけどさ……」
あまりの圧に俺もちょっと引いてしまった。でも良く考えれば、どんなに頑張っても魔物を本来の意味で倒すことができない一般人が、魔物の出る場所に一人置き去りにされたら怖いどころじゃないよな。
ただ森の中に置き去りにされただけでも恐怖を感じるだろうに、すぐそこに死の危険がウロウロしているだなんて考えたくもなくなってくる。
「まだ別れて一か月も経っとらんからな。元気じゃよ」
ノエラが向ける満面の笑みに、シビルはこっくりと頷いている。そっとしておきたい気持ちもあるけど、今はバロンが心配だ。
「なあ、バロンに会わせてくれよ。ツリーハウスにいるんだろ?」
「だからあの神官はどうするんじゃ」
「そうだったわ。もう面倒だから眠っててもらうか?」
「だ、駄目ですよ! きちんと街まで連れて行って罰を受けてもらわないといけません!」
「いや、殺すって意味じゃないからな? ちょっとばかしいたぶって気を失ってもらうというか……」
「だから駄目ですよ! それは私たちの仕事じゃありませんから!」
ノエラは空中のバルトサールに何かの魔法をかけた。するとバルトサールの体から力が抜けて、首がこくんと垂れる。
「何をしたんだ?」
「眠りの魔法をかけたんですよ。私が起こさない限りずっと寝たままなので大丈夫です」
「そんな恐ろしい魔法があったんだな。なんにせよありがたいけどさ」
俺は闇の束縛を解いて、バルトサールを地面に下ろした。それからノエラの魔法で縄を生み出してグルグル巻きに。さらにシビルが岩の精霊を使ってゴーレムを創り、それにバルトサールを運ばせた。
精霊魔法が大活躍だ。移動には俺が【漆黒の翼】を使おうかと思ったのだが、シビルが帰りに温存しておけと言って止めてきた。代わりに風の精霊魔法で森を駆け抜けることになったのだが……。
結構な速さなのに低空飛行なもんだから、木にぶつかりそうで怖かった。精霊魔法だけあって自然の操作はお手のもの。運んでくれる風が木を避けてくれて、邪魔な草木はシュルシュルと端に避けさせる。
これだけ制御の細かい魔法を三人とゴーレムにかけて失敗しないかヒヤヒヤしたが、安全に素早くツリーハウスまで着いた。ノエラはシビルを完全に信頼していたからか、空中浮遊を楽しんでいたようだが、俺にはそんな余裕はなかった。
多分彼女も精霊使いだから、魔法に対する心持ちが違うんだろう。精霊も見えるから、尚更安心できるのだろうな。ゴーレムには家の外でバルトサールをハグして抑え込ませ、俺たちはツリーハウスの中に入った。
ここに再びやって来るまでに結構時間が経ったような感覚だが、実際にはそんなに経っていないんだよな。毎日が新鮮なことの連続だから色々あったような感覚になってるな。まあ実際色々あったか。
俺たちが扉を開けて中に入ると、一人優雅にお茶を飲んで座っているバロンがいた。その傍にはシビルの眷属である危険な生き物が一匹。三股の尻尾をフリフリしながらもこちらに気付くと、かじっていた木の実を急いで全部口に含んでもぐもぐしている。
はん! お前の食べてる木の実なんて誰が食べるかよ!
「サム! お前のおかげで死にかけたんだぞ! どう責任とってくれるんだよ!? ああ!?」
「無事でよかったよバロン。悪かったって。そんなに怒らないでくれよ……」
「そんなに怒るなだあ!? こちらの方がいなかったら今頃死んでたかも知れねえんだぞ? 文句の一つくらい言わせろってんだ!」
「ご、ごめんて。謝るからまずは座らせてくれよ。な?」
「チッ」
不服そうにしながらもバロンは俺たちが椅子に座るまで待った。それから若干モゴモゴしながらもまた話し始める。
「まあ、なんだ。頭ではお前が悪いわけじゃないって分かってんだ。あのムカつく神官もどきが全部悪い。だが、置き去りにされたときの絶望感と死にかけたときの恐怖は、そう簡単に忘れられるもんでもねえ。ああクソ! どこに怒りをぶつけていいやらわからねえっての」
「あー……それなら事件の首謀者を殴るか? 多少は気分が晴れるかもだろ?」
俺は半分冗談で言ったのだが、バロンは予想以上に喰いついてきた。
「あのクソ野郎を捕まえたのか? 殴らせろ! 今すぐ殴らせろ!」
「ま、マジか? 別にいいけどさ……」
あまりの圧に俺もちょっと引いてしまった。でも良く考えれば、どんなに頑張っても魔物を本来の意味で倒すことができない一般人が、魔物の出る場所に一人置き去りにされたら怖いどころじゃないよな。
ただ森の中に置き去りにされただけでも恐怖を感じるだろうに、すぐそこに死の危険がウロウロしているだなんて考えたくもなくなってくる。
0
お気に入りに追加
178
あなたにおすすめの小説
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
召喚アラサー女~ 自由に生きています!
マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。
牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子
信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。
初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった
***
異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います
かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
全校転移!異能で異世界を巡る!?
小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。
目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。
周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。
取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。
「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」
取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。
そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる