上 下
69 / 117
水の祭典

不快な再会

しおりを挟む
 それなりの距離を歩いたら頭を休めるために岩陰に隠れて【邪悪なる守りホーリーバリア】の方を解除して頭を休める。一つだけならそんなに集中は必要ないので、片方解除すれば十分だ。

 それを繰り返して進むと、どんどん見える景色は高くなってきて、坂も急になってくる。上に行けばいくほど段々と高い木から低木へ、さらには黄色い小さな花が咲くような広い原っぱの丘になっていく。依然として水の流れる音は聞こえ、傍には小川がチョロチョロと流れている。

 吹き付ける風も冷たくなってきて、かなり標高が高くなってきたのを肌で感じた。そんな景色を楽しみながら登っていると、遠くの方に数人の人影が見えた。【闇の感知ダークセンス】にもバッチリと反応しているので、三人だということが分かる。

 彼らは山の別の側面から登り始めたようで、ワイワイ話しながら頂上を目指しているようだ。特に話しかける必要も感じなかったのでそのまま進んでいたが、やがて向こうの人たちが俺たちの存在に気付いたらしくこっちに近付いてきた。

 それぞれ鎧を着こんだ男たちで、槍、大鎌、大剣とそれぞれの武器を帯びている。槍の男は紫の髪をバサリと後ろに流した長身の男で、冷淡な印象だが、話の内容が面白いのか口の端だけで笑っている。

 大鎌の男は少々小柄だが自分の身長よりも大きな鎌を持っており、黒いローブを鎧の上に羽織っている。雰囲気から察するに死神を模しているようだ。そして恐らくリーダー格であろう大剣を持った男。金髪の短い髪に、銀色に輝く鎧を全身に纏っている。

 山に来るような恰好ではないが、背中に背負っている長方形に近い形の大剣同様、この男の標準装備なのだろう。奴らは何の用があるんだか知らないが、俺たちのところまでやってきて薄気味悪く笑った。

「おいおい、ここはお前のような神官様が来るようなところじゃねえぜ? 大人しく神殿で這いつくばってな!」

 言いだしたのは大剣の男。どうやら相当な小物のようで、あろうことか俺たちに喧嘩を売ってきた。取り巻きの二人もそれに続く。

「そうだぞ。俺みたいな死神でもない限りお前のようなヤツは野垂れ死ぬのがオチだ」

「ふむ。お前、どこかで見たことがあると思ったらウナンベセスの村で独り言をブツブツ言っていたヤツだろう。神のお告げでも聞いてここまでわざわざやって来たか?」

 紫髪に言われて気付いた。そう言えばこいつら、ノエラのいた村の宿屋で酒盛りしてたグループだわ。最悪、こんなところで会うなんてツイてなさすぎだろう。でもノエラは特段こいつらを知っている素振りを見せていないから面識はないようだ。そこは助かったな。

 そうして一人グルグルと考えているとノエラが心配そうに聞いてくる。

「知り合い……ですか?」

「いや、俺が一人でいた時にたまたま宿で見かけただけの連中だよ。知りもしない赤の他人だ」

「連中だの赤の他人だの、俺たちに喧嘩を売っているような態度だな。神官のくせに立派に女を連れていい御身分だ。俺の鎌の餌食にしてやろうか?」

「やれるものならやってみな。後悔しても知らないけどな」

「なんだと!」

 ヤバっ。ちょっと腹立ってついつい挑発しちゃった。ノエラもいるしここは適当にあしらっとくべきだったな。俺は完全にしくじったが、意外にも相手方の紫髪の男が場を収めてくれた。

「その辺にしとけジム。こいつに時間を割く価値はない」

「は? お前は何とも思わ――チッ。わかったよ」

「今日はウォルトに免じて見逃してやるが、依頼が終わったらてめえをぶっ潰すからな! 覚悟しとけ変人の神官」

 小物の大剣使いはそんなセリフを吐いて二人を伴い行ってしまった。それにしても思ったよりすぐに引いてくれたな。大剣の男が言っていた依頼と関係があるのかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

処理中です...