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神への誠意

理解の輪

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「ごきげんよう、リュクレース様。また、一緒でしたね」
「ごきげんよう、フィリベール様。また、一緒でしたね」

 10月20日の正午に少し前。マトローシュルズ湖の湖畔。あの日偶然会ったその場所で、わたし達は微苦笑を浮かべていました。

「お手紙が届いた時は、ビックリしましたよ」
「わたしもです。開封して驚きました」
「相手のもとに到着する日に、自分のもとに届く。僕達は出すタイミングもおんなじでしたね」
「そうですね。伝え方、その内容だけでなく、タイミングまでおんなじでした」

 クスリと微笑み合いながら、お互い何も言わず歩き出します。

 ――やっぱり、そうでした――。

 どちらも、行き先を相手に伝えてはいません。ですが示し合わせているかのように、ピッタリ同じ方向に進んでいって――わたし達は船に乗り、マトローシュルズ湖の中央にやって来ました。

「ここしか、ありませんよね」
「はい。ここしか、ありません」

 わたし達を出会わせてくれた場所。
 わたし達を繋げてくれた場所。
 わたし達をひとつにしてくれた場所。

 フィリベール様もわたしも、そう。『行うならその中心で』との想いがあって、ここを選びました。

「……こういう場合、ズル、になるかもしれませんが。お許しください」
「フィリベール様は悪くありませんよ。仕方がないことですからね」

 わたし達は貴族。貴族のルール――伝統があるのですから、そちらは守らないといけませんよね。

「ありがとうございます。……では、失礼します」

 船を揺らさないよう静かに動いてくださり、わたしに向かって片膝をつかれました。

「僕は貴方と出会い、たくさんの喜びをいただき、分かち合いました。そしてあの夜、大きなものをいただきました」
「わたしも貴方と出会い、たくさんの喜びをいただき、分かち合いました。そしてあの日、大きなものをいただきました」

 どちらも思い出を振り返り、

「そんな出来事であり日々が、僕に特別な感情をもたらしてくれました」
「そんな出来事であり日々が、わたしに特別な感情をもたらしてくれました」

 今この胸の中にあるものを、伝えます。
 そうしてわたし達は見つめ合い、先に動くのはフィリベール様。フィリベール様は左手をご自身の胸に添え、

「ですので、もう一つお伝えしたいことがございます。……リュクレース・ハルトーン様。僕フィリベール・レイオズンは、貴方様を愛しています。この想いを受け取ってはいただけないでしょうか?」

 その言葉と共に、もう片方の右手をこちらへと差し出されました。

「……フィリベール・レイオズン様」

 その名前を持つ人は、同じ思いと想いを持つ方。あちらがそうなら、こちらもそうなのです。
 ですのでわたしは――

「喜んで。その想い、受け取らせていただきます」

 ――その手を取り、手の甲に口づけをいただいたのでした。

「…………応えてくださりありがとうございます、リュクレース様。これ以上ない喜びを感じています」
「…………こちらこそ、応えてくださりありがとうございます。わたしも今、これ以上ない喜びを感じています」
「……改めて、これからもよろしくお願い致します」
「……はい。こちらこそ、これからもよろしくお願い致します」

 どちらも瞳を揺らしながら言葉を交わし、抱き締め合う。

 10月20日。
 わたし達が偶然出会ってから、およそ9か月後。

 こうしてわたし達の関係は、ひとつ、変化したのでした。


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