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神への誠意
神の庇護
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俺はそんな決意を胸に、右手を青年にかざす。そこから僅かに溢れる紫の光。それは決して綺麗なものなどではなく、どす黒く濁った闇の光。しかし俺にはこの光が病を治療していくのを確かに感じる。
それにしても出力が難しい。これだけの重病なら、より多くの神力を治癒力に変換しなくてはならない。だが一気に力を込めれば体を破壊しかねない。ゆっくりと、しかし着実に神力を変換していくしかない。
そうして緊迫した状態のまま大体ニ十分ほど。セレーヌとノエラ、そしてブランドが俺の治療を眺めている中、そのときはようやくやってくる。あとは締めにかかれば、この病は完全に治療できる。その最終段階までやって来たのだ。
ふう、ここまでかなり長かった。手ごわい病だったが――これで完治だ!
【暗黒の病治療】
紫の光が青年の上で小さく消える。治療を終えて俺が一息ついていると、セレーヌが不可思議な表情で聞いてくる。
「どうしたのですか? 治療はどうなったのです?」
「ん? 終わったよ。完治した」
「ええっ!? そんなはずは――」
セレーヌは信じられないのかすぐさま腰の聖杯を取り出して青年の体を調べ始め、出口の扉付近の壁に寄りかかっていたブランドも、思わずといった様子で身を乗り出している。
そんなに心配しなくてもちゃんと治療してあるっての。間違っても呪ったりなんかしてないんだからね!
「こ、これは……確かに治療されています! あなたは、本当に……!?」
セレーヌは未だに目を点にしてこっちをまじまじと見ている。おいおい、そんなに信用なかったのかよ。悲しいのう。
「どうやらあなたは本当に、大司教様を凌ぐほどの神力をお持ちのようですね……。この目で見るまではわたくしも信じられませんでしたが、こうなっては認めざるを得ません。ブランド、あなたもそんなに気になるなら確認なさい。この方の神力は本物です」
ブランドは遠慮もせずに青年の状態を確認する。もちろんその後の反応は、わかりやすいものだった。
「お、お前、何者だ?」
「何者ってだからマサマンディオスに仕える神官だってば。それ以上でもそれ以下でもないよ」
「ただの神官なわけっ……! ……まあいい」
「ブランド、この方に突っかかるのももうそのくらいにしなさい。サム様、あなたのお力はよくわかりました。疑うようなことをしてしまい、大変申し訳ございませんでした。それから、この青年の治療をしていただいて深く感謝致します。本来は何かお礼をするべきなのですが……」
「わかってくれたならそれでいいよ。彼が良くなって俺も嬉しいしな」
「お優しいのですね。それで治療でお疲れのところ誠に心苦しいのですが、お話の続きをさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、いいよ。ちょっと疲れてはいるけど、話は済ませてしまいたいからな」
「ありがとうございます。では先ほどのお部屋に戻りましょう」
俺たちはまた椅子とテーブルだけがある殺風景な部屋に戻った。相変わらずブランドは仏頂面をしているが、俺を睨むのはやめたようだ。
疑問が一つ解消され、さっきよりも落ち着いた状態でセレーヌと話ができるようになったところで、また彼女が質問をしてくる。
「どうしてももう一つだけお伺いしたいのが、カロヌガン様がマサマンディオス様を騙したと仰ったことについてです。いかようにしてそれがわかったのですか?」
「マサマンディオスから授かったこの紋章に聞いたんだ。そのときは実際に体験したみたいに、マサマンディオスとその他の神のやり取りが視えたぞ」
俺が左腕の袖をまくって紋章を見せると、彼女はまつ毛の長い目をぱちくりさせて驚いた。またしても相当ビックリしているようで、その次から言葉が出てこないでいるみたいだ。
「そ、そんなに驚くことか?」
「もちろんですわ! 神の紋章をその身に宿す方は、神の庇護を直接お受けになった方と聞きます。望めばその神とコンタクトを取ることができるそうですが、そのような方は今までの歴史の中でもそう多くは存在しておりません」
「へ、へえ」
しまった。紋章を見せる前にそういうことは把握しておくんだった。てっきり神力が使える人はみんな紋章を持っているものだと……。
アンヘルも禍々しい手で頭を押さえている。俺、どうやらやらかしちゃったみたい……。
それにしても出力が難しい。これだけの重病なら、より多くの神力を治癒力に変換しなくてはならない。だが一気に力を込めれば体を破壊しかねない。ゆっくりと、しかし着実に神力を変換していくしかない。
そうして緊迫した状態のまま大体ニ十分ほど。セレーヌとノエラ、そしてブランドが俺の治療を眺めている中、そのときはようやくやってくる。あとは締めにかかれば、この病は完全に治療できる。その最終段階までやって来たのだ。
ふう、ここまでかなり長かった。手ごわい病だったが――これで完治だ!
【暗黒の病治療】
紫の光が青年の上で小さく消える。治療を終えて俺が一息ついていると、セレーヌが不可思議な表情で聞いてくる。
「どうしたのですか? 治療はどうなったのです?」
「ん? 終わったよ。完治した」
「ええっ!? そんなはずは――」
セレーヌは信じられないのかすぐさま腰の聖杯を取り出して青年の体を調べ始め、出口の扉付近の壁に寄りかかっていたブランドも、思わずといった様子で身を乗り出している。
そんなに心配しなくてもちゃんと治療してあるっての。間違っても呪ったりなんかしてないんだからね!
「こ、これは……確かに治療されています! あなたは、本当に……!?」
セレーヌは未だに目を点にしてこっちをまじまじと見ている。おいおい、そんなに信用なかったのかよ。悲しいのう。
「どうやらあなたは本当に、大司教様を凌ぐほどの神力をお持ちのようですね……。この目で見るまではわたくしも信じられませんでしたが、こうなっては認めざるを得ません。ブランド、あなたもそんなに気になるなら確認なさい。この方の神力は本物です」
ブランドは遠慮もせずに青年の状態を確認する。もちろんその後の反応は、わかりやすいものだった。
「お、お前、何者だ?」
「何者ってだからマサマンディオスに仕える神官だってば。それ以上でもそれ以下でもないよ」
「ただの神官なわけっ……! ……まあいい」
「ブランド、この方に突っかかるのももうそのくらいにしなさい。サム様、あなたのお力はよくわかりました。疑うようなことをしてしまい、大変申し訳ございませんでした。それから、この青年の治療をしていただいて深く感謝致します。本来は何かお礼をするべきなのですが……」
「わかってくれたならそれでいいよ。彼が良くなって俺も嬉しいしな」
「お優しいのですね。それで治療でお疲れのところ誠に心苦しいのですが、お話の続きをさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、いいよ。ちょっと疲れてはいるけど、話は済ませてしまいたいからな」
「ありがとうございます。では先ほどのお部屋に戻りましょう」
俺たちはまた椅子とテーブルだけがある殺風景な部屋に戻った。相変わらずブランドは仏頂面をしているが、俺を睨むのはやめたようだ。
疑問が一つ解消され、さっきよりも落ち着いた状態でセレーヌと話ができるようになったところで、また彼女が質問をしてくる。
「どうしてももう一つだけお伺いしたいのが、カロヌガン様がマサマンディオス様を騙したと仰ったことについてです。いかようにしてそれがわかったのですか?」
「マサマンディオスから授かったこの紋章に聞いたんだ。そのときは実際に体験したみたいに、マサマンディオスとその他の神のやり取りが視えたぞ」
俺が左腕の袖をまくって紋章を見せると、彼女はまつ毛の長い目をぱちくりさせて驚いた。またしても相当ビックリしているようで、その次から言葉が出てこないでいるみたいだ。
「そ、そんなに驚くことか?」
「もちろんですわ! 神の紋章をその身に宿す方は、神の庇護を直接お受けになった方と聞きます。望めばその神とコンタクトを取ることができるそうですが、そのような方は今までの歴史の中でもそう多くは存在しておりません」
「へ、へえ」
しまった。紋章を見せる前にそういうことは把握しておくんだった。てっきり神力が使える人はみんな紋章を持っているものだと……。
アンヘルも禍々しい手で頭を押さえている。俺、どうやらやらかしちゃったみたい……。
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