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波乱と休息
武器屋
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次に向かうのは武器屋。こっちは俺もノエラも買い物の用はないが、売るものはあるので先に寄らせてもらう。武器屋は建物が二つあるが、片方が工房、もう片方が販売のための店になっているようだ。
工房の方から聞こえてくるハンマーの音はカンカンと規則正しく、大きな音ながら意外にも心地が良い。
何となく気になって見に行きたくなってしまうが、先に用事を済ませた方が時間効率がいいだろうと自分を説得し、販売用の店の方に足を踏み入れる。
またしても工房の方から聞こえる、ジュワーっと鉄を水にさらす音に後ろ髪を引かれつつの入店だ。
まず入って目についたのは鮮やかな色味の美しい長剣と、反対に黒っぽい色の重厚な大槌。長剣の方は刀身が見る角度によって色んな色に変わり、七色に変化する。
赤や青、緑に黄色とそれぞれがグラデーションになって輝き、先端が反り上がった剣先と合わせてかなり特殊な剣のようだ。柄の部分は黒い布がグルグルと巻かれていてかなり興味を引かれ、面白い。
大槌の方はとにかく鈍重。質感からして相当な密度の金属が用いられていることが分かり、かなり丁重な支えの台からして重さも相当なものだと武器に関しては素人の俺でも直感的に分かるくらいだ。
ド迫力の武器二種類は豪華なテーブルに置かれ、そのほかの武器も一様に派手な赤い布の上に置かれている。歓楽街の店はどこも通御用達といった感じで、見ているだけで飛ぶように時間が過ぎ去ってしまいそうだ。
恐らく武器にはあまり興味がないであろうノエラも、喜びとも驚きとも取れる良い表情で楽しそうにしている。
俺はそんな光景を前にして目的を忘れないうちに右奥の小さなカウンターに行って、男性の店員にざっと用を告げる。
「いろんな武器を見て回りたいところだが、武器の材料になりそうな魔物の素材を買い取ってほしい。頼めるかな?」
「そういう用件でしたら係のものをお呼びしますので、少々お待ちください」
「頼んだ」
あらかじめ素材をさっき購入したばかりの鞄に入れておいたため、甘んじて待っていると、煤で汚れた鍛冶のエプロンで手を拭いている大男がすぐにやってきた。
気が付けば隣の建物からのハンマーの音も聞こえなくなっているし、きっとこの人が鉄を打っていた人なんだろう。
結んである顎髭にモヒカンのようなワイルドなヘアー。ちょっと眉間にシワが寄っているのが怖い印象を与えてくるが、まさに職人といった風体で悪い気はしない。
そんな暑苦しい大男はチラッとこちら、そして俺が取り出した素材を見て――なんとニッコリと微笑んだ。あらやだ、すっごい良い笑顔。さっきまでの威厳は一体どこに行ったの?
「魔物の素材を売ってくれるそうだな。んお!? お前その道のプロだろ。こんな綺麗な状態の魔物の素材は貴重だ。遠慮せずにどんどん素材を売りに来いや! 是非とも頼むぜ!」
「は、はあ。今出せるのはこれだけだが、もっと手に入ったら持ってくるよ」
そう言いつつ素材を渡すと、物凄い勢いで検品が始まる。あ、これ待ってた方が良い感じ?
そんな疑問も束の間で、あっという間に査定は終わって金額を提示された。さっきの雑貨店では一時間くらいかかるだろうと思ったのに、こっちは素早いにも程がある。とんでもない差だな。その店ごとのスタイルに関係しているのかも。
「おう。これなら全部でパタス金貨二十三枚、ギトナ金貨八枚飛んでサイラリム金貨六枚だ。これだけ綺麗に素材をはぎ取ってくるヤツは今まで見たことなかったぜ。お前は天才だな!」
褒めてもらって嬉しい限りではあるが……これはすごい額だ。二百三十八万六千円くらい……だよな。そんなにもらっていいのか?
「どうした? 不満か?」
「いや、大満足だよ。その金額で頼む」
「あいよ、毎度。絶対にまた来いよ!」
これにはノエラもドン引きしている。もちろん俺だってドン引きだ。最初の村での蛇皮もそうだし、魔物退治ってかなり儲かるんだな。しかもポンと高額を渡してくる店もただものではないし。
命の危険があるとは言え、俺の中ではそんなに大したことはしてない印象なのだが、四力を持っていない人には凄いことなのかもしれないな。
それから店を出たらノエラは何か言いたげにしつつも言葉が出ない様子だったのは言うまでもない。
工房の方から聞こえてくるハンマーの音はカンカンと規則正しく、大きな音ながら意外にも心地が良い。
何となく気になって見に行きたくなってしまうが、先に用事を済ませた方が時間効率がいいだろうと自分を説得し、販売用の店の方に足を踏み入れる。
またしても工房の方から聞こえる、ジュワーっと鉄を水にさらす音に後ろ髪を引かれつつの入店だ。
まず入って目についたのは鮮やかな色味の美しい長剣と、反対に黒っぽい色の重厚な大槌。長剣の方は刀身が見る角度によって色んな色に変わり、七色に変化する。
赤や青、緑に黄色とそれぞれがグラデーションになって輝き、先端が反り上がった剣先と合わせてかなり特殊な剣のようだ。柄の部分は黒い布がグルグルと巻かれていてかなり興味を引かれ、面白い。
大槌の方はとにかく鈍重。質感からして相当な密度の金属が用いられていることが分かり、かなり丁重な支えの台からして重さも相当なものだと武器に関しては素人の俺でも直感的に分かるくらいだ。
ド迫力の武器二種類は豪華なテーブルに置かれ、そのほかの武器も一様に派手な赤い布の上に置かれている。歓楽街の店はどこも通御用達といった感じで、見ているだけで飛ぶように時間が過ぎ去ってしまいそうだ。
恐らく武器にはあまり興味がないであろうノエラも、喜びとも驚きとも取れる良い表情で楽しそうにしている。
俺はそんな光景を前にして目的を忘れないうちに右奥の小さなカウンターに行って、男性の店員にざっと用を告げる。
「いろんな武器を見て回りたいところだが、武器の材料になりそうな魔物の素材を買い取ってほしい。頼めるかな?」
「そういう用件でしたら係のものをお呼びしますので、少々お待ちください」
「頼んだ」
あらかじめ素材をさっき購入したばかりの鞄に入れておいたため、甘んじて待っていると、煤で汚れた鍛冶のエプロンで手を拭いている大男がすぐにやってきた。
気が付けば隣の建物からのハンマーの音も聞こえなくなっているし、きっとこの人が鉄を打っていた人なんだろう。
結んである顎髭にモヒカンのようなワイルドなヘアー。ちょっと眉間にシワが寄っているのが怖い印象を与えてくるが、まさに職人といった風体で悪い気はしない。
そんな暑苦しい大男はチラッとこちら、そして俺が取り出した素材を見て――なんとニッコリと微笑んだ。あらやだ、すっごい良い笑顔。さっきまでの威厳は一体どこに行ったの?
「魔物の素材を売ってくれるそうだな。んお!? お前その道のプロだろ。こんな綺麗な状態の魔物の素材は貴重だ。遠慮せずにどんどん素材を売りに来いや! 是非とも頼むぜ!」
「は、はあ。今出せるのはこれだけだが、もっと手に入ったら持ってくるよ」
そう言いつつ素材を渡すと、物凄い勢いで検品が始まる。あ、これ待ってた方が良い感じ?
そんな疑問も束の間で、あっという間に査定は終わって金額を提示された。さっきの雑貨店では一時間くらいかかるだろうと思ったのに、こっちは素早いにも程がある。とんでもない差だな。その店ごとのスタイルに関係しているのかも。
「おう。これなら全部でパタス金貨二十三枚、ギトナ金貨八枚飛んでサイラリム金貨六枚だ。これだけ綺麗に素材をはぎ取ってくるヤツは今まで見たことなかったぜ。お前は天才だな!」
褒めてもらって嬉しい限りではあるが……これはすごい額だ。二百三十八万六千円くらい……だよな。そんなにもらっていいのか?
「どうした? 不満か?」
「いや、大満足だよ。その金額で頼む」
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命の危険があるとは言え、俺の中ではそんなに大したことはしてない印象なのだが、四力を持っていない人には凄いことなのかもしれないな。
それから店を出たらノエラは何か言いたげにしつつも言葉が出ない様子だったのは言うまでもない。
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