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月の氾濫
狩りの時間
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ノエラが倒れた日の翌朝、俺は小さなリスのような、そうでない三股の尻尾を持つ生き物に起こされた。
外から差してくる日はもうとっくに明るい。寝坊したような気分だ。
この謎の小動物はそんな寝ぼけた俺のことなど気にしないといった様子で、布団の上をスルスル移動して、体を起こした俺の右肩にちょこんと乗った。ずいぶんと可愛いらしいことをするじゃないか。
俺はその行動にすっかり油断して、この小さな生き物に触ろうと左手を伸ばす。
するとその指先が――紅蓮の炎に包まれた! ぎゃああああああっついいいい!
俺は若干パニックになりながら指をブンブン振って消火する。その隙に犯人の小さな悪魔は、部屋の端の窓枠に登ってこちらを嘲笑っている――かのように見えた。
ジンジンする火傷跡。このずる賢い小動物め、やりやがったな!
「朝っぱらからうるさいのうお前は」
「あ、シビル。こんな小動物を家の中に入れてもいいのか?」
「それはワシの眷属じゃよ。初っ端から嫌われたようで何よりじゃな」
「うるせえ!」
こんな危険な生物が眷属かよ。俺は愚痴る気にもならずに、奇跡で指先を治療する。
【暗黒の霧】
モクモクと黒い霧が俺の指を覆う。……なんか絶妙に体に悪そう。でもそんな見た目とは裏腹に、指先の火傷はきちんと治療されていた。このネーミングと実物のギャップがたまらないな。
「邪神とはいえさすがは神官。治療はお手のものか。さ、起きたんなら早いところ朝食を済ませて魔物を狩りに行っとくれ」
「はいはい。ところでノエラの様子はどうだ?」
「まだ寝ておるよ」
「そっか。俺が魔物狩りに行っている間、しっかり彼女を見ていてくれな」
「言われなくともわかっとるよ。ほれ、これが今日の朝食じゃ。さっさと食って行った行った!」
話をしながらのろのろと座ったテーブルの上に、ドンと朝食の皿を乗せられる。人使い荒いぜ全く。
俺は出された朝食を全部口にしてから、言われた通りすぐに森に出た。
昨夜見た夜の情景とはまた違った景色が新鮮だ。
キラキラと舞っていた何かの代わりに日の光。フクロウのような声の代わりに今は小鳥のさえずりが聞こえてくる。
小鳥たちはまるで合唱しているかのように四方八方から色んな声で鳴いている。
ふわあ、癒される。森の中も案外悪くないな。そんなことをぼんやり思っていると、悪魔の姿をしたアンヘルがツリーハウスからばっさばっさと翼をはためかせて隣にやってきた。
こんなきれいな森に真っ黒の悪魔か。良いヤツなんだけど見た目がなあ。何とかならんものかしら……。
「魔物退治に行かれるんでしたね。必要になったら剣に変身致しますのでなんなりと」
「ああ。ありがとう。接近戦になったらよろしくな」
とりあえずツリーハウス前の広場で【闇の感知】を使う。これがないと魔物を見つけるのが一苦労だろうと思ったが、案外そんなこともなさそうだった。
少し進んだ先にでもかなりの数の魔物が潜んでいる。おっかしいな。
「昨日の夜ここに来た時は魔物なんか遭遇しなかったよな?」
「そうですね。あれはノエラ様が無意識に霊力を使って精霊に呼びかけ、魔物が出る道を避けて通っていたからです」
「そうだったのか。知らず知らずの内にノエラに守られていたんだな。しかも俺、あの時も【闇の感知】を使っておくべきだったし。そこまで考えが回っていなかったな」
「結果何も問題なかったのですから、良いではないでしょうか」
「それもそうか」
サボっているとどやされそうなので、手っ取り早く近くの標的から狩っていくことにする。ツリーハウスを正面にした右の方角からスタートだ。
昨日とは違ってノエラと精霊の守りがないが、代わりに日の光が降り注いでいる。道がまだわかりやすいから、危なくなったら速攻逃げよう、すぐ逃げよう。
そう後ろ向きな決意を固め、奇跡で気配を感知しながら進む。そうして魔物が目前になったら、そこからはさらに慎重にいく。
気配を消す奇跡もあるが、相手がどこにいるかわかるなら、今のところ必要なさそうだ。普通にのっそりと近づいていけば、相手からは気付かれずに、こちらが相手を視認できた。
記念すべき最初の魔物は……毛玉?
「あれはカラヨムダガですね。針状の毛で相手を滅多刺しにする魔物です」
「怖っ。人間くらいの大きさがあるし、できれば近付きたくないな」
「ここから奇跡で仕留められては?」
「だな」
コソコソするのも恰好がつかないが、こちとら邪神の神官だしまあいいだろう。死ぬよりマシだ。
紋章に攻撃系の奇跡を聞けばたくさん候補が出てくる。あいつは外皮が堅そうだから、内部にも攻撃できる浄化系の奇跡が良さそうだな。
今もコロコロ転がりながら移動してるし、外側は予想通り頑丈なんだろう。アイツが止まったタイミングを見計らって、俺はランタンから奇跡を行使する。
【暗黒の粛清】
物騒な奇跡を行使したのと同時に、魔物の内側から黒い霞が広がって、球形に相手を包み込む。
一瞬黒くなって見えなくなったが、黒い霞が消えて収まったら、カラヨムダガが無残に倒れているのが目に入る。おお、奇跡って恐ろしいな。
“やはり一撃か。なかなかのものだ”
「お褒めの言葉をどうも」
何か取れるものがないかと魔物に近付いてみると、カラヨムダガはすごく縮んで見えた。毛玉のような、この外側の針を広げて精一杯威嚇していたのだろうが、実際の体の大きさはそんなでもないみたいだ。
ところでこの針、加工すれば矢じりか何かに使えるかもしれないな。解体するか。
【黒き排除】
殆どの部分がゴッソリとなくなったが、針だけは大量に残った。これはいい。俺はそれをすべて【闇の領域】に仕舞い込んだ。
外から差してくる日はもうとっくに明るい。寝坊したような気分だ。
この謎の小動物はそんな寝ぼけた俺のことなど気にしないといった様子で、布団の上をスルスル移動して、体を起こした俺の右肩にちょこんと乗った。ずいぶんと可愛いらしいことをするじゃないか。
俺はその行動にすっかり油断して、この小さな生き物に触ろうと左手を伸ばす。
するとその指先が――紅蓮の炎に包まれた! ぎゃああああああっついいいい!
俺は若干パニックになりながら指をブンブン振って消火する。その隙に犯人の小さな悪魔は、部屋の端の窓枠に登ってこちらを嘲笑っている――かのように見えた。
ジンジンする火傷跡。このずる賢い小動物め、やりやがったな!
「朝っぱらからうるさいのうお前は」
「あ、シビル。こんな小動物を家の中に入れてもいいのか?」
「それはワシの眷属じゃよ。初っ端から嫌われたようで何よりじゃな」
「うるせえ!」
こんな危険な生物が眷属かよ。俺は愚痴る気にもならずに、奇跡で指先を治療する。
【暗黒の霧】
モクモクと黒い霧が俺の指を覆う。……なんか絶妙に体に悪そう。でもそんな見た目とは裏腹に、指先の火傷はきちんと治療されていた。このネーミングと実物のギャップがたまらないな。
「邪神とはいえさすがは神官。治療はお手のものか。さ、起きたんなら早いところ朝食を済ませて魔物を狩りに行っとくれ」
「はいはい。ところでノエラの様子はどうだ?」
「まだ寝ておるよ」
「そっか。俺が魔物狩りに行っている間、しっかり彼女を見ていてくれな」
「言われなくともわかっとるよ。ほれ、これが今日の朝食じゃ。さっさと食って行った行った!」
話をしながらのろのろと座ったテーブルの上に、ドンと朝食の皿を乗せられる。人使い荒いぜ全く。
俺は出された朝食を全部口にしてから、言われた通りすぐに森に出た。
昨夜見た夜の情景とはまた違った景色が新鮮だ。
キラキラと舞っていた何かの代わりに日の光。フクロウのような声の代わりに今は小鳥のさえずりが聞こえてくる。
小鳥たちはまるで合唱しているかのように四方八方から色んな声で鳴いている。
ふわあ、癒される。森の中も案外悪くないな。そんなことをぼんやり思っていると、悪魔の姿をしたアンヘルがツリーハウスからばっさばっさと翼をはためかせて隣にやってきた。
こんなきれいな森に真っ黒の悪魔か。良いヤツなんだけど見た目がなあ。何とかならんものかしら……。
「魔物退治に行かれるんでしたね。必要になったら剣に変身致しますのでなんなりと」
「ああ。ありがとう。接近戦になったらよろしくな」
とりあえずツリーハウス前の広場で【闇の感知】を使う。これがないと魔物を見つけるのが一苦労だろうと思ったが、案外そんなこともなさそうだった。
少し進んだ先にでもかなりの数の魔物が潜んでいる。おっかしいな。
「昨日の夜ここに来た時は魔物なんか遭遇しなかったよな?」
「そうですね。あれはノエラ様が無意識に霊力を使って精霊に呼びかけ、魔物が出る道を避けて通っていたからです」
「そうだったのか。知らず知らずの内にノエラに守られていたんだな。しかも俺、あの時も【闇の感知】を使っておくべきだったし。そこまで考えが回っていなかったな」
「結果何も問題なかったのですから、良いではないでしょうか」
「それもそうか」
サボっているとどやされそうなので、手っ取り早く近くの標的から狩っていくことにする。ツリーハウスを正面にした右の方角からスタートだ。
昨日とは違ってノエラと精霊の守りがないが、代わりに日の光が降り注いでいる。道がまだわかりやすいから、危なくなったら速攻逃げよう、すぐ逃げよう。
そう後ろ向きな決意を固め、奇跡で気配を感知しながら進む。そうして魔物が目前になったら、そこからはさらに慎重にいく。
気配を消す奇跡もあるが、相手がどこにいるかわかるなら、今のところ必要なさそうだ。普通にのっそりと近づいていけば、相手からは気付かれずに、こちらが相手を視認できた。
記念すべき最初の魔物は……毛玉?
「あれはカラヨムダガですね。針状の毛で相手を滅多刺しにする魔物です」
「怖っ。人間くらいの大きさがあるし、できれば近付きたくないな」
「ここから奇跡で仕留められては?」
「だな」
コソコソするのも恰好がつかないが、こちとら邪神の神官だしまあいいだろう。死ぬよりマシだ。
紋章に攻撃系の奇跡を聞けばたくさん候補が出てくる。あいつは外皮が堅そうだから、内部にも攻撃できる浄化系の奇跡が良さそうだな。
今もコロコロ転がりながら移動してるし、外側は予想通り頑丈なんだろう。アイツが止まったタイミングを見計らって、俺はランタンから奇跡を行使する。
【暗黒の粛清】
物騒な奇跡を行使したのと同時に、魔物の内側から黒い霞が広がって、球形に相手を包み込む。
一瞬黒くなって見えなくなったが、黒い霞が消えて収まったら、カラヨムダガが無残に倒れているのが目に入る。おお、奇跡って恐ろしいな。
“やはり一撃か。なかなかのものだ”
「お褒めの言葉をどうも」
何か取れるものがないかと魔物に近付いてみると、カラヨムダガはすごく縮んで見えた。毛玉のような、この外側の針を広げて精一杯威嚇していたのだろうが、実際の体の大きさはそんなでもないみたいだ。
ところでこの針、加工すれば矢じりか何かに使えるかもしれないな。解体するか。
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