人間から治る日

茶茶

文字の大きさ
上 下
1 / 1

負の感情

しおりを挟む
負の感情がとぐろを巻き、肥大して、自分の皮膚を突き破ってしまいそうになる。

そんな時、私は一人、旅に出る。

薄暗い部屋の中。布団を頭からかぶり、自分の皮膚を突き破ってくる化け物を必死におさえこむ。つらさを甘受し、痛みを抱え込むように布団の中で丸くなる。ヤスリでなでられたように心がボロボロとすり切れ、鮮血が吹き出している。

だんだん息苦しくなり、布団から顔だけだした。窓に顔を向けると、白いレースカーテンが風に揺らめいている。光を透かすカーテンの隙間から、絵の具で優しく伸ばしたような青空がみえる。

もう生きていたくない。でも死にたくない。まっさらで、ただひろくて、何もない無の世界に行きたい。目をつむり、心の底から神様にお願いしてみる。けれど、叶うはずもなく目を開けば、見慣れた天井があるだけだった。

覚悟を決め、布団から勢いよく立ち上がった。壁に手を伸ばし、帽子をつかむ。机に散らばっている素のままのお金と携帯。そして、そこら辺に落ちている文庫本をズボンのポッケに押し込んだ。

一人旅の始まりだ。心の中でそうぼそりと呟いた。

光がつきささる。目を細め、太陽仰ぎ見る。いつも堂々としていて、しつこいほど熱い。そんな太陽が、うざったくも、少しうらやましい。

いつもは背負っている目的のために、素早く通り過ぎていく道。今はその道を、気の向くままの速度でふらふらと歩く。

普段の自分は完璧な私を演じる。歩き方ひとつをとってもそうだ。背筋をピンと伸ばす。まっすぐ前だけを見て視線をあちこちに飛ばさない。一直線の白線を描き、その上を体の芯がずれないように固定する。疲れていても、微笑を絶やさない。いくつものチェックシートを厳格にマークし、正しい自分であることを強要する。

だけど、今だけは私じゃなくていい。誰かという存在でいい。気をぬいて歩いていると、視線は下がり、真顔になる。背筋はまがり、ゆっくりふらふらと歩いている。チェックシートには罰ばかりがならんでいる。そんな私を、誰も気に止めやしない。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

【完結】君の世界に僕はいない…

春野オカリナ
恋愛
 アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。  それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。  薬の名は……。  『忘却の滴』  一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。  それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。  父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。  彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...